↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
PR
93/402

第九十三話 最初の一年


一年目の終わりが近づいていた。


その日の七組では、朝から落ち着かない生徒が多かった。


理由は机の上に積まれた答案用紙だ。


一年の最後に行われた試験が、まとめて返される。


読み書き。


計算。


歴史。


地理。


魔物学。


基礎魔力学。


実技についても、この一年の授業を通した評価が伝えられることになっていた。


「では、順番に返します」


名前を呼ばれた生徒が前へ出る。


「エイル」


「はい」


何枚もの紙を受け取り、席へ戻った。


最初に開いたのは基礎魔力学だった。


形成の実技はよくできている。


発動も大きな問題はない。


一方、術式の読解にはいくつか印がついていた。


「また接続……」


一つの条件がどこに作用しているのかを読み違えている。


別の問題では、変更後には必要なくなった条件を残していた。


入学した頃よりは読める。


それでも、複雑になるとまだ間違える。


「どうだった?」


カイが横から覗く。


「ここ間違えた」


「俺はそこ合ってる」


「ほんと?」


「ほら」


答案を見せてもらう。


確かに合っていた。


「カイに負けた」


「言い方!」


「だって合ってるじゃん」


「もっと悔しがれよ」


「じゃあ計算見せて」


「いいぞ」


カイが急に得意そうな顔になる。


「ほとんど合ってる」


「どうだ」


「これは普通にすごい」


「そうだろ」


「店の手伝いしてたから?」


「それだけじゃない。俺も勉強した」


「じゃあもっとすごい」


「……お前、たまに素直すぎるな」


エイルは自分の計算の答案を見る。


以前より間違いは減ったが、カイには及ばない。


今度はエイルが形成の評価を見せると、カイが顔をしかめた。


「ここはやっぱり強いな」


「ずっとやってたから」


「意味のない形を?」


「うん」


「役に立ったな、遊び」


「俺もそう思う」


---


試験が終わっても、すぐ休みになるわけではなかった。


間違えた問題を直し、一年間使った教材や道具を整理する。


通常の授業も最後まで続く。


身体訓練では、エイルはレオンと木剣を合わせていた。


「始め!」


踏み込む。


レオンが盾で受ける。


すぐに返ってきた木剣を、エイルも受ける。


以前なら、そのまま姿勢を崩していた。


今は一歩下がり、足を置き直す。


もう一度。


エイルが肩を狙う。


止められる。


今度は無理に途中で狙いを変えず、そのまま一度離れた。


レオンが踏み込む。


エイルは盾を上げた。


間に合う。


「お」


次の瞬間、下から来た木剣が胴へ触れた。


「そこまで」


バルガの声が飛んだ。


エイルは息を吐く。


「また負けた」


「前よりは動けてる」


レオンが言う。


「本当?」


「ああ」


「じゃあ、もう一回」


「今日は終わりだ」


「一回だけ」


「片づけろ」


バルガから声が飛んでくる。


「はい」


エイルは諦めて木剣を戻した。


身体強化を覚えた頃は、術式さえ使えればもっと簡単に動けると思っていた。


実際には違った。


構え。


足運び。


距離。


相手を見ること。


止まること。


一つずつ練習しなければ、身体が強くなっても扱えない。


それでも最初の頃よりは、できることが増えていた。


---


教室の片づけも始まった。


一年間使った教材をまとめ、学校へ返すものと自分で持っておくものに分ける。


ノアは魔道具について書かれた本を、大事そうに鞄へ入れていた。


「それ、学校の本じゃないの?」


エイルが聞く。


「借りた」


「休み中も読むの?」


「そのために借りたんだけど」


「休みなのに?」


ノアが手を止める。


「休みだから読めるんだろ」


「そういうもの?」


「エイルは何するの?」


「家帰る」


「それは知ってる」


「父さんたちに会って、村のみんなに会って……あとは分からない」


「ほら。時間あるだろ」


「本読む時間になるの?」


「ならないの?」


二人とも相手が不思議だった。


近くで聞いていたミナが笑った。


「どっちでもいいでしょ」


「ミナは何するの?」


「私も家に帰るよ」


ミナの腕は、もう日常生活ではほとんど困らないところまで戻っていた。


傷跡は残っている。


身体訓練もまだ一部は見学しているが、教室では以前と同じように過ごしていた。


エイルはその腕を一瞬見た。


ミナが気づく。


「もう大丈夫だよ」


「うん」


それ以上は聞かなかった。


---


最後の授業の日。


ヴァレンが七組の前に立った。


「これで一年目の授業は終了です」


教室のあちこちから声が上がった。


喜ぶ者。


もう一年終わったのかと驚く者。


すぐ休みの予定を話し始める者。


「まだ話は終わっていません」


少し静かになる。


「長期休暇のあと、皆さんは二年生になります。二年目からは、共通の授業に加えて選択できる授業が増えます」


紙が配られた。


エイルも受け取る。


商業。


行政。


工芸。


魔道具。


戦闘。


魔物。


ほかにもいくつか並んでいる。


一年目は、学校で何を学べるのか自体を知る時間が多かった。


二年目からは、その中から自分で選ぶ部分が増えるらしい。


「いっぱいある」


エイルが呟く。


横からカイが覗き込んだ。


「何取る?」


「まだ分からない」


「魔術じゃないの?」


「それも気になるけど、これも気になる」


エイルは魔物の授業を指した。


その隣には商業もある。


「商業も?」


「カイ、計算得意だったし」


「それ、俺が取る理由だろ」


「教えてもらえるかなって」


「自分で勉強しろよ」


「授業も受けるよ」


カイは自分の紙を見る。


「俺は候補あるけど」


「何?」


「まだ秘密」


「なんで?」


「休み明けまでに変わるかもしれないから」


「じゃあ秘密じゃなくて未定じゃん」


「……確かに」


前からヴァレンの声がした。


「相談はあとでしてください」


「はい」


二人同時に答えた。


---


放課後。


六人で食堂へ向かう途中も、選択授業の話は続いた。


「ノアは魔道具?」


エイルが聞く。


「取る」


即答だった。


「早いな」


「前から決めてたから」


「セレナは?」


「まだ全部見てから決める」


「レオンは戦闘?」


「候補には入ってる」


「ミナは?」


「私もまだ」


結局、はっきり決まっているのはノアくらいだった。


「エイルは?」


ミナに聞かれる。


「分からない」


「さっきからそればっかり」


「だって、まだ決めてないし」


エイルは配られた紙をもう一度見る。


入学前は、学校で何を習うのかさえよく知らなかった。


魔術を学びたいとは思っていた。


外のことも知りたかった。


実際に来てみると、それ以外にも知らないものがたくさんあった。


今すぐ一つに決める必要もないらしい。


「村で考える」


そう言って紙を鞄へ入れた。


---


翌日は、帰省の準備だった。


寮の部屋には、エイルとカイの荷物が広がっている。


「これ持って帰ろうかな」


エイルが教本を持ち上げる。


カイが見る。


「読むの?」


「……読むかもしれない」


「置いていけ」


「でも読むかも」


「じゃあ持ってけ」


「重いんだよな」


「どっちなんだよ」


エイルはしばらく悩み、結局一冊だけ鞄へ入れた。


代わりに、父や母、リナへの土産も忘れずに詰める。


学校へ来てから買った、ほんの小さなものだ。


「忘れ物ない?」


カイが聞く。


「多分」


「確認した?」


「した」


「財布は?」


「ある」


「帰りの紙は?」


「ある」


「選択授業の紙」


「ある」


エイルもカイを見る。


「カイは?」


「完璧」


「財布」


カイが机を見る。


財布が置いてある。


少し沈黙した。


「今ので完璧」


「俺より危ないじゃん」


「出る前に気づいたからいいんだよ」


---


翌朝。


二人は荷物を持って寮を出た。


校門の前には、帰省する生徒たちが集まっている。


近い町へ歩いて帰る者。


迎えの馬車を待つ者。


途中まで同じ馬車に乗る友人同士で話している者。


エイルは門のところでカイと別れた。


「休み明けな」


「うん」


「教本ちゃんと読めよ」


「カイも」


「俺は持って帰ってない」


「ずるくない?」


「何が?」


二人は笑った。


エイルは荷物を背負い直す。


ここから村までは遠い。


馬車を乗り継いでも、およそ二週間。


それでも、学校へ来たときとは違う。


今度は道の先に何があるか知っている。


父。


母。


リナ。


村のみんな。


エイルは校門を出た。


一年ぶりの故郷へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。