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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第七十九話 身体強化


戦闘基礎の授業が始まってから、身体強化を使う機会が増えた。


走るとき。


踏み込むとき。


木剣を振るとき。


最初に習った頃は、術式を発動したまま動くだけでもぎこちなかったが、今ではクラスの多くが少しずつ慣れてきている。


その日の授業で、バルガは訓練場に三つの目印を置いた。


正面に一つ。


そこから右に一つ。


さらに左に一つ。


「今日は身体強化を使った状態で、この順番に走る」


カイが隣で小声を出した。


「それだけ?」


「多分」


「簡単だと思ったか?」


バルガがこちらを見た。


カイが口を閉じる。


「……まだ何も言ってません」


「顔に出ている」


エイルが笑った。


「笑っているお前も同じだからな」


「はい」


---


最初の生徒が身体強化を発動した。


合図と同時に走り出す。


一つ目の目印までは速い。


そこで右へ曲がろうとして――大きく外へ膨らんだ。


「あっ」


なんとか立て直して二つ目へ向かう。


次の生徒も似たようなところで崩れた。


何人か続いたところで、バルガが止める。


「身体強化を使えば、普段より速く走れる。踏み込みも強くなる」


三つの目印を指した。


「だが、速くなったからといって、曲がるのが上手くなるわけじゃない。止まるのが上手くなるわけでもない」


エイルは一つ目の目印を見る。


以前、停止線を越えたときと同じだ。


身体の動きが大きくなった分、それを扱う方が追いつかなくなる。


「最初から速さばかり求めるな。自分が扱える動きでやれ」


「はい!」


---


エイルの番が来た。


覚えた身体強化の術式を形成し、発動する。


脚に力が入りやすくなる。


「始め!」


地面を蹴った。


一つ目まで走る。


右へ。


「うわっ」


勢いが残った。


身体が外へ流れ、思っていたより大きく回り込む。


二つ目では今度こそと慎重になりすぎた。


速度を落とす。


左へ曲がる。


遅い。


三つ目まで行って、ようやく止まった。


「難しいな」


戻ると、カイが笑っている。


「一個目、すごかったぞ」


「カイもやれば分かるよ」


「見とけ」


カイの番になる。


勢いよく走り出す。


一つ目。


「うおっ!」


エイルより大きく外へ膨らんだ。


「俺よりすごい」


「うるさい!」


---


レオンの番になった。


同じ基本術式を発動する。


走り出した。


一つ目の目印が近づく。


その少し前で歩幅が変わった。


速度を落とし、身体を沈める。


右へ切り返す。


二つ目でも同じだった。


速い。


けれど、それ以上に動きが崩れない。


レオンが戻ってくると、エイルはすぐに近寄った。


「今、一個目の前で何したの?」


「歩幅を合わせた」


「曲がるために?」


「ああ。全速力のまま曲がったら流れるだろ」


「身体強化はずっと同じ?」


「同じだ」


「途中で何か変えてるわけじゃないんだ」


レオンが首を振る。


「走り方を変えてるだけだ」


エイルはさっきの動きを思い返す。


速く走る。


曲がる直前になって慌てるのではなく、その前から準備する。


「もう一回やりたい」


「順番待てよ」


後ろからカイに言われた。


---


二回目。


エイルは最初から速く走ることだけを考えるのをやめた。


一つ目が近づく。


少し手前から歩幅を短くする。


身体を低くする。


右へ。


「お」


今度は大きく膨らまなかった。


二つ目。


同じようにやろうとして、足の位置が気になった。


下を見る。


「前を見ろ!」


バルガの声が飛ぶ。


「はい!」


慌てて顔を上げる。


なんとか三つ目まで走った。


戻ると、バルガが言った。


「足元を確認しながら動く癖をつけるな」


「はい」


「最初は遅くていい。前を見たまま動けるように繰り返せ」


「はい」


列の後ろへ戻る。


カイが聞いた。


「さっきより良かった?」


「一個目は」


「二個目は?」


「前見ろって言われた」


「聞こえてた」


---


次は、バルガの合図に合わせて方向を変える練習になった。


右手なら右。


左手なら左。


拳を握れば停止。


どの合図が出るかは分からない。


「始め!」


エイルが前へ走る。


右。


身体を右へ向ける。


次は左。


切り返す。


拳。


止まる。


最初の練習よりは動けた。


二回目。


走りながらバルガを見る。


そろそろ右が来る気がした。


少しだけ身体を右へ寄せる。


上がったのは左手だった。


「あ」


反応が遅れた。


「止まれ」


エイルが戻る。


「今、右だと思ったな?」


「はい」


「相手が毎回、お前の予想どおりに動くと思うか?」


「思わないです」


「なら、先に片方へ身体を預けるな」


エイルは少し考えた。


「予想しない方がいいんですか?」


「予想はしていい」


「どっちですか?」


「右かもしれない。左かもしれない。止まるかもしれない。それぞれに備えるのは予想だ」


バルガが言う。


「右に来ると決めて、先に右へ動くのは決めつけだ」


「ああ」


今度は分かった。


「もう一回やります」


「なら並べ」


「はい」


---


後半は木剣と盾を使った。


二人一組。


攻撃側と防御側に分かれる。


狙っていいのは肩、胴、脚。


力は抑える。


攻撃する場所は事前には教えない。


「身体強化は使え。だが、速く振ることばかり考えるな。相手を見ろ」


エイルはカイと向かい合った。


最初はカイが攻撃側だ。


「いくぞ」


「うん」


木剣が動く。


肩。


エイルが盾を上げる。


受けた。


次は胴。


これも間に合う。


三回目。


カイの肩がわずかに動いた。


エイルは反射的に盾を上げる。


だが、木剣は下へ来た。


軽く脚に当たる。


「痛っ」


カイが笑う。


「引っかかった」


「今、肩動かしただろ」


「動かした」


「わざと?」


「ちょっと」


「もう一回」


「次は交代だよ」


---


今度はエイルが木剣を持つ。


身体強化を使えば、普段より強く、速く振れる。


だからこそ力を抑える。


肩を狙う。


受けられた。


胴。


これも止められる。


次は脚。


踏み込んだ瞬間、カイの盾が先に下がった。


木剣を受け止める。


「分かった?」


エイルが聞いた。


「なんとなく」


「どこ見た?」


「腰」


「腰?」


「お前、脚を狙うとき少し沈む」


「本当?」


エイルは同じ動きをゆっくりやってみた。


確かに、踏み込む前に姿勢が少し変わる。


「ほんとだ」


「戦ってる途中で自分を見るなよ」


「今はいいだろ」


---


少し離れたところでは、レオンが同じ練習をしていた。


相手の攻撃を盾で受ける。


一度は肩に木剣が触れた。


それでも、エイルたちより動きが安定している。


休憩になると、エイルは水を飲んでいるレオンのところへ行った。


「やっぱり身体強化に慣れてるから?」


「それもあると思う」


レオンは答えた。


「でも、今のは多分それだけじゃない」


「じゃあ何?」


「似た練習を前からやってるからだ」


「剣の?」


「剣も。足運びも。相手を見るのも」


レオンは木剣を持ち上げた。


「身体強化がなくても、やることはそんなに変わらない」


「そうなの?」


「速さや力は変わる。でも、剣の振り方まで術式が決めてくれるわけじゃない」


エイルは少し考えた。


「じゃあ身体強化を覚えただけじゃ、レオンみたいにはならない?」


「ならないな」


「そっか」


横で聞いていたカイが言う。


「残念だったな」


「何が?」


「簡単に強くなれなくて」


エイルは首を傾げた。


「練習すればいいんじゃない?」


レオンが笑った。


「そうだな」


---


授業の最後。


バルガが生徒たちを集めた。


「身体強化そのものは、珍しい魔術じゃない」


騎士や兵士。


荷運びなど身体を使う仕事。


魔物を相手にする者。


必要に応じて使う者はいるという。


「学校に来てなくても使えるんですか?」


一人の生徒が聞いた。


「使える」


バルガは頷いた。


「家族や仕事仲間、師匠から、完成した基本術式を教わることもある。それを覚えて形成し、発動できれば使うことはできる」


エイルはレオンを見る。


以前、レオンが子供の頃から習っていたと言っていたのを思い出す。


「じゃあ、設計までできなくても?」


エイルが聞く。


「この身体強化を使うだけなら必要ない」


バルガが答えた。


「お前たちも今、一から設計したわけじゃないだろう」


「確かに」


教わった完成済みの術式を読んで、覚えて、使っている。


村にいた頃のエイルは、その術式自体を知らなかった。


だから、腕や脚へ魔力を動かすことはできても、身体強化を使っていたわけではない。


「ただし」


バルガが木剣を持ち上げた。


「術式を知っていることと、これを扱えることは別だ」


訓練場の三つの目印を見る。


「走るなら走り方がいる。剣を使うなら剣の練習がいる。相手がいるなら、相手を見る必要がある」


カイが自分の木剣を見る。


「結局、そこは練習なんですね」


「当たり前だ」


「ですよね」


---


授業が終わり、三人で寮の方へ歩いた。


「俺、最初は身体強化ってもっと特別なのかと思ってた」


エイルが言う。


「俺も」


カイが頷く。


レオンは少し考えてから言った。


「使うだけなら、そこまで珍しくない。でも、使い方は人による」


「レオンはいつも使って練習してたの?」


「最初からじゃない。姿勢や足運びだけの日も多かった」


「身体強化なしで?」


「ああ」


エイルは今日の練習を思い返す。


一つ目の目印で大きく膨らんだ自分。


同じ術式を使いながら、きれいに切り返したレオン。


「明日も少し練習しようかな」


カイが嫌そうな顔をする。


「俺も?」


「一人じゃ盾の練習できない」


「レオンに頼めよ」


「俺もやるなら付き合う」


レオンが言った。


カイが二人を見る。


「……じゃあ俺だけ行かないみたいになるだろ」


「来ないの?」


「行くよ」


「じゃあ決まり」


「なんか納得いかない」


エイルは笑った。


身体強化を覚えた。


それで、できることは増えた。


けれど、今日うまくできなかったことまで、術式が代わりに覚えてくれるわけではなかった。


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