↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
PR
69/402

第六十九話 条件を増やす


初めて魔術を発動してからも、基礎魔力学でいきなり新しい魔術を次々と覚えることはなかった。


しばらく使うのは、同じ発光の術式だ。


「今日は、この術式を少し変更します」


ヴァレンが黒板に、すっかり見慣れた術式を描いた。


術者の手元に弱い光を出し、短い時間だけ維持する。


前回、全員が使ったものだ。


その隣に、新しい記号が書かれる。


『方向』


「今日は、これを加えます」


エイルはノートを開いた。


---


ヴァレンが元の術式を形成し、発動する。


手元に小さな光が生まれた。


「これまでの術式では、光が生まれる位置を術者の手元に指定していました」


光が消える。


ヴァレンは黒板の術式へ手を加えた。


位置を指定している部分へ、方向を示す条件をつなぐ。


「今回は、術者から見て前方。さらに、手元から少し離れた位置を指定します」


変更した術式を形成する。


発動すると、今度は手元ではなく、その少し前の空中に光が現れた。


「おお」


カイが小さく声を漏らした。


エイルも二つの術式を見比べる。


変わった部分はわずかだ。


それでも、実際に光が出る場所ははっきり違う。


「では、なぜ方向の条件をここへつなぐのでしょう」


ヴァレンが尋ねた。


何人かが手を上げる。


指された生徒が答えた。


「光を前に出すためです」


「もう少し詳しく」


「発光に……前という条件をつける?」


「それでは少し違います」


ヴァレンが黒板を指す。


「光るという現象そのものに、前や後ろがあるわけではありません。指定しているのは、光が発生する位置です」


エイルはノートを見る。


発光。


位置。


方向。


一つ一つは簡単な言葉だ。


だが、どれをどこにつなぐかで意味が変わる。


「術式を読むときも組むときも、その条件が何に作用しているのかを確認してください」


---


課題が配られた。


まずは紙の上で、元の術式を変更する。


いきなり魔力で形成するわけではない。


エイルも鉛筆を持った。


発光はそのまま。


強さも変えない。


持続も同じ。


変更するのは、光が生まれる位置だ。


そこへ方向の条件を加える。


「……ここか」


線を一本引く。


少し眺めて、止まった。


この線は、本当に位置の部分へつながっているか。


確認する。


「違うな」


一度消して、引き直した。


しばらくして、ヴァレンが黒板へ解答例を書く。


エイルは自分の紙と見比べた。


「合ってる」


今回は接続も間違えていない。


後ろからカイの声がした。


「俺、逆につないだ」


振り返ると、カイが紙を消している。


「それだと、こっちにかからない?」


「だから今消してるんだよ」


「なるほど」


「分かってるなら言うな」


少し前では、セレナがすでに確認を終えていた。


やはり彼女の方が速い。


ただ、今回はエイルも自分で正しく組めた。


それだけで少し嬉しかった。


---


全員の紙を確認したあと、実際の形成へ移った。


「完成した術式をよく確認してから形成してください。前回より一つ条件が増えていますが、急ぐ必要はありません」


教室のあちこちで魔力が動き始める。


カイは一つずつ作っていく。


セレナも、確認しながら順番に形成している。


エイルは自分の紙を見た。


まず意味を確認する。


発光。


強さ。


位置。


方向。


持続。


間違っていない。


それから全体の形を見る。


頭の中に置き、魔力を動かす。


術式が現れた。


条件が一つ増えても、形成するときの感覚はそれほど変わらない。


ヴァレンが確認に来る。


「形は問題ありません」


「発動していいですか?」


「その前に確認します」


ヴァレンが一部分を指した。


「これは?」


「発光」


「こちらは?」


「強さ。弱い光にする」


「これは?」


「位置」


「では、これ」


「方向。前方です」


ヴァレンが頷いた。


「いいでしょう。発動してください」


エイルは術式へ魔力を通した。


小さな光が生まれる。


今度は手元ではない。


少し離れた前方の空中に浮かんでいた。


「できた」


同じ光なのに、出る場所が違う。


自分たちが紙の上で変えたところが、そのまま結果に出ている。


しばらくすると、設定された通り光は消えた。


---


「先生」


エイルが手を上げた。


「もっと遠くに出すこともできますか?」


「できます」


「どこまで?」


「使う術式や術者によります」


エイルは実習室の反対側を見る。


「あそこくらい――」


「今の術式で勝手に試さないでください」


「まだ何もしてません」


「その顔は試そうとしていました」


「ちょっとだけ」


カイが笑った。


ヴァレンは黒板へ戻る。


「ちょうどいいので、距離についても説明しましょう」


新しい条件を書き加えた。


「前方というだけでは、どれだけ離れた位置なのかを細かく指定できません。必要なら、距離を指定する条件も使います」


カイが小さく呟く。


「また増えた」


「増えたね」


「嬉しそうに言うなよ」


---


ただし、とヴァレンは続けた。


「条件は、多ければ多いほど優れた術式になるわけではありません」


黒板には、最初の術式と変更後の術式が並んでいる。


後者の方が複雑だ。


「手元を照らしたいだけなら、最初の術式で十分です。方向も距離も必要ありません」


以前にも聞いた話だった。


目的に必要なものを入れる。


必要のないものまで増やさない。


「今の皆さんは、すでにある基本術式の一部を変更する練習をしています。新しい条件を一つ覚えたからといって、何にでも付け足す必要はありません」


エイルは頷いた。


使えるものが増えることと、全部使うことは別らしい。


---


後半は三つの状況を考える課題だった。


『手元の本を読む』


『夜道で少し先を照らす』


『暗い倉庫で落とした物を探す』


使うのは、どれも発光の術式だ。


一つ目は、これまで使ってきたもので足りる。


二つ目は、今日習った方向と距離が使えそうだった。


三つ目でエイルの手が止まった。


「倉庫……」


広く照らせば探しやすそうだ。


でも、どのくらい広くするのか。


明るさは。


どこから照らすのか。


長く光らせる必要はあるのか。


とりあえず条件を全部足せばいいわけではない。


エイルはしばらく考え、広い範囲を弱めに照らす案を書いた。


---


授業の最後に、いくつかの回答が紹介された。


同じ「倉庫で落とした物を探す」でも、答えはばらばらだった。


広い範囲を一度に照らす者。


狭い範囲を順番に確認する者。


光を強くする者。


弱い光を長く使う者。


「どれが正解なんですか?」


誰かが聞いた。


「条件が足りず目的を果たせないものや、組み方を間違えているものはあります」


ヴァレンは答えた。


「ただ、正しく働く術式が一つしかないわけではありません」


黒板に残ったいくつかの案を見る。


「大切なのは、何をしたいのか。そのために、なぜその条件を選んだのかです」


エイルは自分の紙を見る。


自分で一から術式を作れるようになったわけではない。


今日は、教わった基本の術式に、教わった条件を一つ加えただけだ。


それでも、入学したばかりの頃とは違う。


あの頃は、術式を見ても複雑な模様にしか見えなかった。


今は少しだけ、


「ここを変えたら、こうなる」


が分かるようになってきた。


---


寮へ戻る途中、カイが言った。


「俺、魔術ってもっと簡単だと思ってた」


「どんな感じ?」


「光なら光の術式を覚えて、火なら火の術式を覚えて。それで終わり」


「俺もそんな感じだと思ってた」


「違ったな」


「うん」


ただ、村で使われていた魔術を思い返せば、覚えた術式をそのまま使うだけでも困らない場面は多いのだろう。


毎日の火起こしで、毎回違う術式を考える必要はない。


エイルたちが今やっているのは、その先だ。


覚えたものを使うだけではなく、なぜそうなっているのかを読む。


必要なら、教わった範囲で変えてみる。


「明日も条件増えるかな」


エイルが言うと、カイは嫌そうな顔をした。


「増えなくていい」


「でも面白いよ」


「お前はな」


二人はそのまま寮へ戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。