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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第六十話 寮と三百人


門をくぐったところで、エイルは思わず足を止めた。


「……多い」


前に試験で来たときも、人は多かった。


でも、今日はそれ以上だった。


大きな鞄を背負った子。木箱を抱えた子。親と一緒に歩いている子もいれば、一人で荷物を抱えている子もいる。


何人かで話している子たちの横では、馬車から次々と荷物が降ろされていた。


あっちにも、こっちにも、自分と同じくらいの年の子がいる。


エイルは背負った荷物を少し持ち直した。


二週間。


ようやく着いた。


---


まずは受付だった。


学校から届いた紙を取り出す。


新入生――第三受付。


顔を上げると、少し離れた場所に番号の書かれた札が並んでいた。


一。


二。


三。


「あった」


列は長い。


エイルが最後尾に並ぶと、その後ろにもすぐ人が並び始めた。


待っている間、周囲を見る。


服だけでも全然違う。


見たこともないような綺麗な布の服を着た子。腰に剣を下げている子。杖を持っている子。


その一方で、エイルと大して変わらない普通の服に、使い込んだ鞄を持っている子もいる。


一人で来ている子も、思っていたより多かった。


「……」


少しだけ安心した。


---


「次」


呼ばれて、エイルは前へ出る。


「入学許可証を」


「はい」


鞄を開く。


本と服の間に挟んでおいた紙を探し、取り出した。


「あった」


受付の女が受け取り、内容を確認する。


「エイルさんですね」


「はい」


何かを書き込んだあと、別の紙と鍵を渡された。


「第三寮、三〇七号室です」


「三〇七」


「寮の場所は分かりますか?」


「分かりません」


女が外を指した。


「この道をまっすぐ進んで、噴水を越えたところを右です。寮棟には番号があります」


「ありがとうございます」


エイルは渡された紙を見る。


今日は、まず荷物を寮へ運ぶ。


昼前に新入生集合。


午後は学校生活についての説明。


そして明日が入学式。


「……」


まだ始まってもいない。


なのに、もう少し疲れた。


---


教えられた道を歩く。


校舎が一つ。


その奥には、また大きな建物。


広場もある。


少し離れたところには、訓練場らしい場所まで見えた。


さらにその向こうには、前に街からも見えた塔が立っている。


試験で来たときは、父について試験会場まで歩いただけだった。


今日は自分で歩く。


やがて噴水が見えた。


「あれか」


そこを右へ曲がる。


建物がいくつも並んでいた。


第一寮。


第二寮。


その奥。


第三寮。


「……でかい」


四階建て。


同じ形の窓がずらりと並んでいる。


入口にも学生が何人も出入りしていた。


中へ入って、三階を目指す。


一段。


二段。


荷物が肩へ食い込む。


「重い……」


持ってきたものが多い。


途中で一度止まり、腕と脚へ少しだけ魔力を流した。


「よし」


それで、少し楽になる。


---


三階。


三〇一。


三〇二。


三〇三。


廊下は思ったより長かった。


三〇四。


三〇五。


三〇六。


そして。


三〇七。


「あった」


鍵を差し込み、扉を開ける。


中にはベッドが二つ。


机が二つ。


棚も二つ。


窓が一つ。


二人部屋だった。


紙に書いてあったから知ってはいた。


でも、実際に見ると少し変な感じがする。


ここで、まだ顔も知らない誰かと暮らす。


エイルは二つのベッドを見比べた。


特に違いはない。


片方が窓側というくらい。


「こっち」


窓側を選び、荷物を下ろした。


「はぁ……」


一気に身体が軽くなる。


二週間、ずっと一緒だった荷物だ。


服を棚へ。


生活用品も片づける。


持ってきた本は机に並べた。


一冊。


二冊。


筆記具も置く。


最後に、父が昔使っていた古い鞄を机の横へ置いた。


それだけで、知らない部屋が少しだけ自分の場所になった気がした。


窓を開ける。


下を見る。


人がいる。


まだ、どんどん増えている。


「……何人いるんだ」


試験のときも多いと思った。


でも、あのときは受験する人間だった。


今日ここにいるのは、試験に受かった人間たちだ。


それでも、こんなにいる。


村なら、同じくらいの年の子なんて数えるほどしかいない。


ここは違った。


---


がちゃ、と扉が開いた。


エイルが振り返る。


男の子が一人、入口に立っていた。


背中には大きな鞄。


さらに片手にも荷物を持っている。


少年は部屋を見て、エイルを見て、最後に手元の紙を確認した。


「三〇七?」


「うん」


もう一度、部屋番号を見る。


「じゃあ、ここだ」


中へ入り、荷物を床へ下ろす。


どさっ。


「重っ」


エイルが少し笑った。


「俺もさっき同じこと言った」


少年が顔を上げる。


「階段、多くない?」


「三階だから」


「一階がよかった」


「俺も」


少しだけ沈黙する。


やがて少年が手を出した。


「カイ」


エイルも手を出す。


「エイル」


握る。


「よろしく」


「うん」


それだけで、少し気まずさが減った。


カイは空いている方のベッドを見る。


「そっち使ってる?」


「うん」


「じゃあ俺こっち」


部屋の場所取りは、それで終わった。


---


カイも荷物を片づけ始める。


服。


本。


袋。


その途中で聞いてきた。


「どこから来た?」


エイルは村の名前を言う。


カイが少し考えた。


「……どこ?」


「やっぱ知らない?」


「知らない」


「ここから馬車で二週間くらい」


カイの手が止まった。


「二週間?」


「うん」


「一人で?」


「うん」


少し間が空く。


「よく来たな」


「前に試験で一回来たから」


「でも二週間だろ?」


「うん」


エイルは少し考えてから言った。


「尻が痛い」


カイが吹き出した。


「そこ?」


「ずっと座ってるから」


「俺、三日でも痛かった」


「三日?」


「うん」


エイルはカイを見る。


「近い」


「三日前まで遠いと思ってたんだけど」


「二週間乗ったら近く感じる」


「絶対乗りたくない」


「俺も、しばらくいい」


二人で少し笑った。


---


しばらくして、カイが窓の外を見ながら言った。


「そういえば、一年だけで三百人くらいいるらしい」


エイルの手が止まった。


「三百?」


「受付で前のやつが話してた」


「一年生だけ?」


「うん」


窓の外を見る。


人。


人。


また人。


「……三百人も魔術習うの?」


「学校自体、国に何個もないからな」


「ああ」


そうだった。


だから父も、学校は遠いと言っていた。


近くの町ごとにあるような場所ではない。


いろんな土地から、ここへ来る。


カイは三日。


エイルは二週間。


もっと遠くから来ている人間もいるのかもしれない。


「三百……」


村の人たちを思い浮かべる。


大人も子供も全部。


それでも、三百という数はうまく頭に入らなかった。


---


昼前。


二人で部屋を出る。


「集合場所どこ?」


カイが聞く。


「講堂」


「場所は?」


「知らない」


「俺も」


階段を下り、外へ出る。


少し歩いたところで、二人とも止まった。


「……どっち?」


人の流れはある。


でも、それが全部新入生とは限らない。


そのとき、エイルが看板を見つけた。


『新入生集合』


その下に矢印。


「あれ」


「助かった」


二人で人の流れについていく。


やがて、大きな建物が見えてきた。


扉をくぐったところで、エイルはまた足を止めた。


「……でか」


椅子がずっと奥まで並んでいる。


何列あるのかも分からない。


そこへ、自分たちと同じくらいの年の子が次々に入ってくる。


カイも少し黙った。


「これ全部一年?」


「三百って言ってた」


「聞くのと見るの、違うな」


「うん」


空いている席へ座る。


前も知らない人。


横も知らない人。


後ろも知らない人。


その中で、カイだけは知っている。


今日会ったばかりなのに、それだけで少し安心した。


---


前に教師らしい男が立った。


「静かに」


大きな声ではない。


でも、不思議とよく通った。


少しずつ講堂が静かになる。


「新入生の皆さん。本年度、本校に入学する新入生は三百十二名です」


少しざわめきが起こる。


エイルが小さく言った。


「十二人多い」


カイが横を見る。


「そこ気になる?」


「十二人って結構いるよ」


「三百の後なら誤差だろ」


「村なら結構いる」


「村と比べるなよ」


前から視線を感じた。


二人とも黙った。


---


説明が始まる。


学校。


寮。


食堂。


授業。


図書館。


訓練場。


保健室。


「図書館」


その言葉に、エイルが反応した。


カイが横を見る。


「好きなの?」


「本?」


「うん」


「好き」


「俺、あんまり」


エイルはカイを見る。


「なんで?」


「なんでって言われても」


よく分からない。


本は面白いのに。


---


「皆さんは十のクラスに分かれます。一クラス三十名前後です」


エイルは頭の中で数える。


三百。


十。


「ほんとに十だ」


「何が?」


「さっき計算した」


「してたの?」


やがて紙が配られた。


名前。


寮。


そしてクラス。


エイルはそこを見る。


一年七組。


「七」


横を見ると、カイも自分の紙を確認していた。


「あ」


「なに?」


カイが紙を向ける。


一年七組。


「同じ」


エイルは自分の紙と見比べる。


「ほんとだ」


「よかった」


カイが普通に言った。


エイルも少し笑う。


「うん」


三百十二人。


その中で最初に会った一人。


同じ部屋。


そして同じクラス。


少し運がいい。


---


夜。


食事と風呂を済ませ、部屋へ戻る。


カイはもうベッドに寝転んでいた。


エイルは机に座り、明日の予定を見る。


入学式。


そのあと。


基礎魔力学。


その文字をじっと見る。


「明日、魔術やるかな」


カイが寝たまま答える。


「基礎魔力学だろ?」


「うん」


「最初から魔術はやらないんじゃない?」


「じゃあ何するんだろ」


「魔力の説明とか?」


エイルは少し考えた。


魔力を動かす。


集める。


伸ばす。


曲げる。


丸。


四角。


線。


もっと細かい形。


今まで全部、自分でやった。


誰にも教えてもらっていない。


だからこそ。


「ちゃんと知りたい」


カイが少しだけ顔を向ける。


「何を?」


エイルは紙を見る。


「俺が今までやってたのが、合ってたのか」


「魔力?」


「うん」


カイは少し考えた。


「明日分かるんじゃない?」


「多分」


エイルは紙を置く。


窓の外には、学校の灯りが見えた。


村から馬車で二週間。


同じ年の学生は三百十二人。


知らないことが、たくさんある。


明日から、それを教えてもらえる。


エイルはベッドへ入った。


少しだけ、眠れそうにない。


明日。


ようやく学校が始まる。



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