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THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
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第六話 東の森


翌朝。


エイルが起きたときには、ハインの姿はもうなかった。


「早……」


昨日あれだけ夕飯を食べていたのに、朝は誰より早いらしい。


外へ出ると、トーマが家の前で薪を割っていた。


「ハインは?」


「行った」


「ドルクさんも?」


「ああ」


「いつ?」


「暗いうちだろ」


エイルは村の東へ目を向けた。


家々の向こうに柵があり、その先に畑がある。さらに向こうには森が広がっている。


ここからでは、当然何も見えない。


「今日帰ってくる?」


「さあな」


「父さんも知らないの?」


「俺はハインじゃないからな」


トーマが斧を振り下ろす。


乾いた音とともに薪が二つに割れた。


「ほら」


「何?」


「手伝え」


「今?」


「今」


「……はい」


エイルは割れた薪を何本かまとめて持った。


最近、少しだけ分かってきたことがある。


魔力は、たくさん使えばいいわけではない。


一度薪を置き、自分の内側へ意識を向ける。


少しだけ集める。


散らないようにして、腕へ流す。


薪を持ち上げた。


「……うん」


昨日より、魔力を動かすまでが少し早い。


「父さん」


「なんだ」


「見て」


「見てる」


「違う。魔力」


「見えん」


「そうじゃなくて。昨日より早くできるようになった」


「そうか」


「多分、最初に使う量が多すぎたんだと思う」


「そうか」


「ちゃんと聞いてる?」


「聞いてる」


「じゃあ今なんて言った?」


トーマの手が止まった。


「……魔力の話」


「ほとんど聞いてないじゃん」


「朝から細かいんだよ」


「父さんが聞いてないからでしょ」


「仕事しろ」


「はい」


薪を運ぶ。


戻って、また持つ。


今度は少し量を減らしてみる。


「あれ?」


さっきほど楽にならない。


なら、少し増やす。


今度はいい。


「量だけじゃないのかな……」


集め方なのか。


流し方なのか。


途中で散っているのか。


考え始めたところで、


「エイル」


「今やってる」


「まだ何も言ってない」


「……何?」


「そっち終わったら朝飯だ」


「分かった」


トーマは家へ戻っていく。


エイルは手元の薪を見た。


もう一回だけ試したい。


「エイル!」


「今行く!」


諦めて薪を置いた。


---


昼前になると、村の東側に人が集まり始めた。


最初は二、三人だったが、そのうちベルンもやってきた。


畑から戻る途中だったエイルも近づく。


「何してるの?」


「待ってる」


ベルンが答えた。


「誰を?」


そこまで聞いて、エイルも分かった。


「ハインたち?」


「ああ」


皆、東の森を見ている。


エイルも同じように見た。


森は静かだった。


風で木の枝が揺れているだけで、人影はない。


しばらく待つ。


何も起きない。


「……俺、飯食ってくる」


男の一人が言った。


「戻ったら呼んでくれ」


「分かった」


一人減った。


しばらくすると、もう一人も帰った。


エイルも腹が減ってきた。


「ベルンさん」


「ん?」


「俺も帰っていい?」


「誰も待てとは言ってないぞ」


「……じゃあ帰る」


なんとなく待っていたのが馬鹿らしくなった。


---


「遅い」


家に帰ると、ミラに言われた。


「ハインたち待ってた」


「帰ってきた?」


「まだ」


「なら待ってないで食べなさい」


「はい」


席につくと、リナはもう食べ始めていた。


「兄ちゃん」


「なに」


「魔物いた?」


「俺が行ったわけじゃない」


「ハインは?」


「まだ帰ってない」


「食べられた?」


「リナ」


ミラに名前を呼ばれ、リナが口を閉じる。


少ししてから、小さな声で、


「でもハイン強いんでしょ?」


「強いんじゃない?」


「じゃあ大丈夫だ」


リナはそれで納得したらしい。


エイルは少しだけ考えた。


昨日ハインは、強いことと安全なことは別だと言っていた。


でも、それをリナに説明するのは面倒だった。


エイルもパンを取った。


---


ハインとドルクが戻ってきたのは、昼をかなり過ぎてからだった。


「戻ったぞ!」


外から声が聞こえ、エイルも家を飛び出した。


東の柵まで行くと、すでに何人か集まっている。


ドルクは普段とあまり変わらない。


ハインは――。


「何それ」


エイルが言った。


ハインが自分の服を見る。


「泥」


「それは分かる」


服の片側が、腰から脚まで泥だらけだった。


「魔物にやられた?」


「坂で転んだ」


「……普通に?」


「普通に」


隣でドルクが笑った。


「ぬかるみに足取られて、尻から落ちた」


「言わなくていいだろ」


「魔物と戦う人って、もっと格好いいと思ってた」


「前にも似たようなこと言ったよな、お前」


ハインが嫌そうな顔をした。


そこへベルンが来る。


「どうだった?」


二人の空気が変わった。


ドルクが答える。


「灰牙はいた」


周りが静かになる。


「何頭?」


「二頭見た」


「二頭か」


ベルンが息を吐く。


しかし、ハインが続けた。


「見たのはな」


ベルンの顔が戻る。


「他にもいるのか?」


「分からん」


「足跡は?」


ドルクが首を振った。


「多い。古いのも新しいのも混じってる。何頭分かまでは読めん」


「群れか?」


「その可能性はある」


ハインが水を飲む。


「奥でも鳴き声がした。少なくとも、見えた二頭だけだと思わない方がいい」


近くにいた男が尋ねた。


「倒さなかったのか?」


「ああ」


「二人なら、二頭くらい――」


「二頭ならな」


男が黙った。


ハインは淡々と続ける。


「見えてる二頭を追って、奥から何頭出てくるか分からん。そんな場所には入らない」


「でも、村の近くまで来てるんだろ?」


「だから困ってる」


ベルンが腕を組んだ。


「どうする?」


「今日はもう入らない」


「明日は?」


ハインは少し考えてから答えた。


「俺は街へ行く」


「街?」


「他に手を借りられる奴がいないか探す」


「どれくらいかかる?」


「往復だけなら二日くらいだ。人を探すなら、もう少しかかるかもしれん」


周りから小さな声が上がる。


「その間はどうする?」


ドルクが答えた。


「森には入らない。家畜は夜、外へ出すな。柵の見回りも増やす」


「東の畑は?」


「できれば避けろ」


今度は声が大きくなった。


「収穫が近いぞ」


「ずっと放っておけってことか?」


「そうは言ってない」


ドルクが答える。


「だが、俺なら森の際までは行かん」


「じゃあ畑はどうするんだ」


「だから困ってるんだろ」


誰もすぐには答えなかった。


エイルは少し離れたところから、そのやり取りを聞いていた。


森に入らなければいい。


最初は、それだけの話だと思っていた。


けれど、森の近くには畑がある。


畑へ行かなければ仕事が止まる。


家畜も動かさなければならない。


見回りを増やせば、その分ほかの仕事をする人が減る。


それでも灰牙が何頭いるのかは分からない。


ハインが一人増えたところで、どうにもならないこともあるらしい。


ベルンが皆を見る。


「とにかく、今夜は見回りを増やそう」


ドルクが頷いた。


「東は俺が見る。村の中からな」


「ハインは?」


「俺も残る。街へは明日の朝出る」


それで、ひとまず話は決まった。


人が少しずつ散っていく。


エイルも帰ろうとすると、


「おい」


ハインに呼ばれた。


「何?」


「お前も東には来るなよ」


「分かってる」


「本当か?」


「父さんにも言われてるし」


「ならいい」


エイルは数歩歩いてから、やっぱり気になって振り返った。


「ハイン」


「ん?」


「なんで二頭だけ倒して帰ってこなかったの?」


ハインは少し考えた。


「倒したあとに三頭出てきたら嫌だから」


「じゃあ三頭も倒したら?」


「そのあと五頭出てきたら、もっと嫌だ」


「そんなにいるかもしれないの?」


「知らん」


「……またそれ」


「仕方ないだろ」


ハインは肩をすくめた。


「知らないものを、知ってることにはできないからな」


それだけ言うと、ベルンのところへ戻っていった。


---


その夜。


エイルは家の前で、いつもの石を持っていた。


魔力を少し集める。


腕へ流す。


石を持つ。


「……違う」


一度置いて、もう一度。


今度は少しだけ量を変える。


持ち上げる。


さっきより楽だった。


「これかな」


もう一度。


今度もうまくいく。


少し嬉しくなって、もう一つ大きな石を探そうとしたところで、


「エイル」


トーマが家から出てきた。


「何?」


「今日はもう中に入れ」


「もうちょっとだけ」


「駄目だ」


「村の中だよ?」


「今夜は見回りを増やすって話、聞いてただろ」


「ハインもドルクさんもいるじゃん」


「だから絶対に大丈夫、にはならない」


エイルは少し黙った。


昼間のハインの話を思い出す。


見えたのは二頭。


でも、本当に二頭だけなのかは分からない。


「……分かった」


石を置いた。


「父さんも見回り?」


「ああ。あとで行く」


「気をつけてね」


トーマが少しだけ意外そうな顔をした。


「おう」


---


翌朝。


目を覚ますと、トーマは戻っていた。


椅子に座って水を飲んでいる。


「父さん」


「ん?」


「どうだった?」


「何もなかった」


エイルは少し安心した。


「じゃあ、よかったね」


「ああ」


トーマは大きな欠伸をすると、そのまま寝床へ向かった。


ハインは朝のうちに街へ出た。


ドルクは昼まで眠った。


東の畑には、その日も何人かの大人が仕事へ向かった。


ただ、森のすぐ近くまで行く者はいなかった。


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