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THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
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第五話 見回り


「エイル。起きろ」


肩を揺すられ、エイルは布を頭まで引き上げた。


「……まだ暗い」


「朝だ」


「暗いじゃん」


「朝でも暗い日はある」


「じゃあ明るくなってから……」


布を剥がされた。


冷たい空気が一気に入ってくる。


「うわ、寒い!」


「起きろ」


目を開けると、トーマはもう外へ出る格好をしていた。


「何?」


「見回りに行くぞ」


エイルは身体を起こした。


「俺も?」


「嫌なら寝てろ」


「行く」


返事だけは早かった。


隣ではリナが布にくるまって寝ている。起きる気配はまったくない。


エイルは急いで服を着て、靴を履いた。


外へ出ると、思っていたより寒かった。


「父さん」


「なんだ」


「なんで急に見回り?」


「急じゃない。たまにやってる」


「俺、行ったことないけど」


「寝てるからな」


「起こしてよ」


「今日起こした」


「……そうだけど」


トーマはさっさと歩いていく。


エイルも後を追った。


村の中央には、すでに何人か集まっていた。


ベルンとドルク、それから近所の男が二人。


ハインの姿はない。


「お、来たか」


ベルンがエイルに気づいた。


「エイルも行くのか?」


「うん」


答えたのはトーマだった。


「東には行かせん。村の中だけだ」


「分かった」


昨日、大きな足跡が見つかったのは東側だ。


少し見てみたい気持ちはあったが、エイルもそこは言わなかった。


ドルクが弓を背負う。


「じゃあ俺は北を見る」


「一人でいいのか?」


ベルンが聞く。


「ああ」


「何かあったら?」


「戻ってくる」


「戻れなかったら?」


「その時はその時だ」


ベルンが嫌そうな顔をした。


「縁起でもないことを言うな」


「聞いたのはあんただろ」


ドルクはそう言って北へ歩いていった。


残った者たちも分かれて見回ることになり、エイルはトーマと一緒に西側へ向かった。


---


畑と柵の間を歩く。


「何を探すの?」


「壊れてるところ」


「魔物じゃないの?」


「いたらそれも見る」


「いたらどうする?」


「戻る」


エイルはトーマを見上げた。


「倒さないの?」


「俺は農家だぞ」


「父さんでも?」


「父さんでも、って何だ」


「父さん、大きいし」


「お前よりはな」


「そういう意味じゃなくて」


トーマは身体が大きい。


斧も使えるし、重い荷物も軽々と運ぶ。


だからエイルは、魔物が一頭くらいなら父でも何とかできるような気がしていた。


「ハインなら倒す?」


「ものによるだろ」


エイルは眉を寄せた。


「最近、大人って『ものによる』って言えばいいと思ってない?」


「便利だからな」


「ずるい」


「お前も大人になったら使え」


柵を見る。


壊れていない。


少し進んで、また見る。


そこも問題ない。


正直、思っていたよりずっと退屈だった。


「父さん」


「なんだ」


「毎回こんな感じ?」


「何もなければな」


「じゃあ、やる意味ある?」


トーマは歩きながら答えた。


「何もないのを確かめに来てるんだろ」


エイルは少し考えた。


何もないなら、来なくても同じじゃないかと思う。


けれど、何もないかどうかは来ないと分からない。


「……面倒だね」


「そういうもんだ」


村の西端まで来たところで、トーマが足を止めた。


「待て」


エイルも止まる。


「何?」


「そこ」


柵の下だった。


土が少し掘れている。


トーマがしゃがんだので、エイルも隣にしゃがみ込んだ。


手のひら二つ分ほどの穴があり、柵の外側から内側へ掘ろうとしたように見える。


「何これ」


「穴」


「それは分かる」


トーマが少し笑った。


「犬かもしれんな」


「村の犬が外から掘る?」


「野犬か、狐か。その辺だろ」


「昨日のやつじゃない?」


「分からん」


トーマは周囲を見たが、それらしい足跡は残っていなかった。


穴に土を戻し、足で踏み固める。


「これでいいの?」


「あとで板を持ってくる」


「今やらないの?」


「持ってきてないだろ」


「魔術で何とかしたり――」


トーマがエイルを見る。


「できるのか?」


「……できない」


「じゃあ板だ」


もっともだった。


---


村へ戻る途中、前から二人歩いてきた。


ドルクとハインだった。


「ハイン、戻ってたんだ」


エイルが言うと、ハインが手を上げた。


「朝にな」


「どうだった?」


「何が?」


「隣の村」


「ああ」


ハインは少し首を回してから答えた。


「灰牙が一頭いた」


「倒したの?」


「ああ」


「大きかった?」


「普通だな」


「じゃあ終わり?」


「向こうはな」


ドルクが横から言った。


「ハイン。さっきの見せろ」


「ああ」


ハインが腰の袋から取り出したのは、短い灰色の毛だった。


トーマが覗き込む。


「灰牙か?」


「たぶんな」


「どこにあったの?」


エイルも横から覗く。


「北の柵だ」


ドルクが答えた。


「引っかかってた」


「じゃあ、こっちにも灰牙が来てるの?」


「その可能性はある。ただ、毛一本じゃ決められん」


「足跡は?」


「薄いのが一つ残ってた」


「一つだけ?」


「残ってたのが一つだ」


ドルクとハインは、そのまま話し始めた。


足跡がどちらを向いていたか。


地面がどれくらい硬かったか。


毛が柵のどこについていたか。


エイルには半分も分からない。


「昨日か?」


ハインが毛を光にかざした。


「夜じゃないか」


「雨が降ってないからなあ。はっきりせんな」


「北側をもう一度見るか」


「飯食ってからな」


ドルクが呆れた顔をする。


「お前、そればっかりだな」


「腹減ったまま森に入ると、ろくなことにならん」


「昨日は疲れたって言ってただろ」


「疲れてても腹減ってても駄目なんだよ」


エイルは二人のやり取りを聞きながら、ふと気になった。


「ハイン」


「ん?」


「灰牙一頭なら倒せる?」


「まあな」


「じゃあ、今から探せばいいじゃん」


「嫌だ」


「なんで?」


「腹減ってるから」


「それ本気だったの?」


「本気だよ」


トーマが笑った。


「ほら、帰るぞ」


「ちょっと待って」


「畑」


「……はい」


結局、エイルはトーマに連れていかれた。


---


昼を過ぎた頃。


畑仕事を終えたエイルは、家の裏でいつもの石を手に取った。


ここ数日で、魔力を腕へ寄せることには少し慣れてきた。


最初の頃ほど、いちいち長く考えなくてもいい。


石を持つ。


置く。


もう一度。


今度は石へ手を伸ばしながら、魔力を腕へ寄せてみる。


途中で散った。


「違うな」


もう一度。


今度は欲張らず、少しだけ。


手を伸ばす。


腕へ寄せる。


持つ。


「……これなら」


さっきより自然だった。


エイルは石を置く。


今度は脚で試してみることにした。


立ったまま、魔力を少し脚へ寄せる。


一歩踏み出す。


「普通だ」


もう少しだけ増やして、地面を蹴ってみる。


身体が思ったより前へ出た。


「おっ」


面白い。


もう一度。


さっきと同じように脚へ寄せて、地面を蹴る。


「うわっ」


今度は足がうまくついてこなかった。


前につんのめり、地面に手をつく。


「痛っ……」


膝についた土を払う。


手のひらも少し赤くなっていた。


エイルは立ち上がり、さっき自分がいた場所を見る。


「……やめとこ」


トーマに、身体がおかしいのに続けるなと言われている。


転んだ直後にもう一度やって、もっとひどく転んだら怒られる。


それくらいは分かる。


エイルは石を拾い、腕へ魔力を寄せる方に戻ることにした。


---


夕方、家へ戻るとハインがいた。


トーマと何か話している。


「どうしたの?」


エイルが聞くと、ハインが答えた。


「明日、東を見る」


「東?」


トーマが続ける。


「昨日、足跡があっただろ」


「ああ」


「北だけじゃないかもしれん。ドルクとハインで、森の手前まで見てくるそうだ」


「俺も行って――」


「駄目」


ハインとトーマが同時に答えた。


エイルは二人を見た。


「まだ最後まで言ってない」


「どうせ同じだろ」


ハインが言う。


「見るだけ」


「駄目」


「村の近くだよ?」


「駄目」


「ドルクさんも行くんでしょ?」


「行く」


「じゃあ安全じゃん」


ハインの表情が少し変わった。


「それは違うぞ」


エイルは黙った。


「俺とドルクがいるから安全なんじゃない。危なそうなら戻るし、分からないものには無理に近づかない。そうやって危ない目に遭わないようにしてるんだ」


「でも二人とも強いんでしょ?」


「強いかどうかと、安全かどうかは別だ」


エイルは少し考えた。


「……よく分かんない」


「まあ、そうだろうな」


「説明してよ」


「俺、説明するの苦手なんだよ」


「それは分かる」


「お前、結構失礼だな」


トーマが笑った。


そのとき、ミラが家の中から顔を出した。


「ハイン、食べてく?」


「いいのか?」


「少し多めに作ったから」


「食う」


返事が早かった。


エイルはハインを見る。


「やっぱり腹減ってたの?」


「いつも減ってる」


「魔物を相手にする人って、もっと格好いいと思ってた」


ハインが無言でエイルを見る。


「……今の嘘。ごめん」


「遅い」


---


夕食は、いつもより少し賑やかだった。


リナがハインに魔物の話を聞き続け、ハインは最初こそ答えていたが、途中から面倒になったらしい。


「灰牙って大きい?」


「大きいやつもいる」


「人食べる?」


「食うかもな」


「ハインは食べられたことある?」


「ある」


「あるの!?」


「今ここにいるだろ」


「じゃあ嘘じゃん!」


リナが怒る。


トーマは笑い、ミラは「話してないで食べなさい」と何度も言っていた。


エイルも聞きたいことはいくつかあった。


東の森に本当に灰牙がいるのか。


昨日の足跡と、北の柵についていた毛は同じものなのか。


けれど、それは明日になれば少し分かるかもしれない。


エイルはパンをちぎった。


明日はハインとドルクが東を見る。


自分は行けない。


それが少しだけ残念だった。


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