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THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
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第五十五話 家族会議


翌朝。


朝食を片づけると、トーマが机の上に袋を三つ置いた。


「始めるか」


「うん」


エイルも椅子を引いて座る。


昨日、学校から持ち帰った紙も机の上に広げた。


授業料。


寮費。


食費。


教材。


入学までに必要なもの。


街で説明を聞いたときにも高いとは思った。


今日は、それを家にある金と並べて考える。


ミラが別の袋を持ってきた。


「これが今、家で使える分」


「全部?」


「全部じゃないよ」


「他にもあるの?」


「あるけど、そっちは使わない分」


「なんで?」


トーマが指を折る。


「種。道具。税。冬。それから、何かあったとき」


「ああ……」


去年の冬を思い出す。


食べ物も薪もぎりぎりだった。


金があるからといって、全部使っていいわけではない。


「じゃあ、こっちだけ?」


「ああ」


トーマが袋を開けた。


硬貨が机に並ぶ。


---


最初のうちは、リナも隣にいた。


昨日もらった青い髪留めをつけ、真剣な顔で硬貨を眺めている。


「これ、全部兄ちゃんの学校に使うの?」


「全部は使わないよ」


ミラが答える。


「じゃあ一個もらっていい?」


「駄目」


「なんで?」


「今、そういう話をしてるから」


しばらくすると飽きたらしい。


「外行ってくる」


「髪留めなくさないでよ」


エイルが言う。


「なくさない!」


「昨日もずっと触ってたじゃん」


「大丈夫!」


走って出ていった。


「……大丈夫かな」


「お前も同じようなもんだったぞ」


トーマが言う。


「俺はもっとちゃんとしてた」


「そうだったかな」


ミラまで首を傾げた。


「二人ともひどくない?」


---


計算を始める。


一年分の授業料。


寮費。


食費。


教材。


服や細かな道具も必要になる。


「食費は寮費と別なんだよね?」


ミラが聞く。


「うん」


「教材は?」


「最初に必要なのがこれ。あとは授業によって増えるかもしれないって」


「増えるのか」


トーマが嫌そうな顔をする。


「俺に言われても」


「お前の学校だろ」


「まだ通ってないよ」


ミラが二人を無視して数字を書き足していく。


家にある金。


今年の収穫までに必要な金。


学校へ払う金。


旅費。


入学するときにも、またあの街まで行かなければならない。


計算するほど、エイルの口数が減っていった。


街で金額だけ見たときより大きく感じる。


やがてミラが手を止めた。


「……今ある分だけじゃ、足りないね」


エイルは紙を見た。


「どれくらい?」


ミラが不足分を示す。


思ったよりある。


「じゃあ……」


言葉が止まった。


受かった。


けれど、金が足りなければ通えない。


それは当たり前だ。


「俺、行かなくても――」


「誰がそんな話した?」


ミラがすぐに言った。


エイルが顔を上げる。


「でも足りないんでしょ?」


「今ある分ではね」


「同じじゃん」


「違うよ」


ミラが学校の紙を指で叩く。


「入学まで、まだ何か月かあるでしょう」


トーマも頷いた。


「その間に増やせる」


「どうやって?」


「働く」


「父さんが?」


「ああ」


エイルは少し嫌な顔をした。


「俺の学校なのに」


「だから何だ」


「父さんだけ仕事増やすの変じゃん」


「俺は今も働いてる」


「もっと増やすんでしょ?」


「まあな」


それが嫌だった。


「俺も働く」


「畑やってるだろ」


「それ以外」


ミラが少し考える。


「できることがあればね」


「何でもやる」


「何でもは駄目」


「なんで?」


「危ない仕事までやりそうだから」


「やらないよ」


トーマとミラが同時にエイルを見た。


「……多分」


「ほら」


「いや、本当に危ないのはやらないって」


---


話は続いた。


トーマは、近くの町で荷運びや修理など、金になる仕事を少し増やせないか探す。


ミラも縫い物や保存食など、頼まれ仕事を増やせるか考える。


「俺は?」


エイルが聞く。


「まず畑」


「それ、いつもやってる」


「だから大事なんだ」


トーマが言う。


「お前が学校へ行ったら、その分の手が減る」


エイルは黙った。


そこまで考えていなかった。


学校へ行くには金がいる。


でも、いなくなったあとの仕事も残る。


水汲み。


薪。


畑。


家畜。


荷物運び。


今まで自分がやっていた分を、誰かがやらなければならない。


「……リナ?」


「少しずつならね。でも全部は無理だよ」


ミラが答える。


当然だった。


「学校行くって、大変なんだね」


「今さらか?」


「遠いのは知ってたよ」


「金がかかるのも知ってただろ」


「数字で見るのと違う」


それに、自分が抜けることまで数字には書いていなかった。


---


ミラが学校の紙をまとめる。


「それでも、行きたいんでしょう?」


エイルは少し黙った。


行きたい。


そこは変わっていない。


ただ、自分が行くために父と母の仕事が増えると分かると、簡単に「行く」と言うのも違う気がした。


「……いいの?」


「何が?」


「俺だけ学校行って」


トーマが硬貨を袋へ戻し始めた。


「エイル」


「なに」


「お前が行きたいって言った」


「うん」


「それで勉強した」


「うん」


「試験を受けて、受かった」


「うん」


袋の口を閉じる。


「なら次は、行く方法を考える」


「でも無理だったら?」


「無理になるまで考えてから言え」


エイルは少し笑った。


「母さんみたい」


「夫婦だからな」


「それ、本当に便利だね」


「便利だから使ってる」


ミラが呆れたように二人を見る。


---


「それに」


ミラが学校の案内をもう一度広げた。


「全部を家で払うって決まったわけじゃないでしょう?」


「どういうこと?」


「学校側で、学費を軽くする仕組みがないのかな」


「そんなのある?」


「だから確認するの」


三人で紙を見直した。


説明のときは費用の大きさばかり気にしていた。


細かな文字まで、エイルはほとんど覚えていない。


一枚ずつ見る。


表。


裏。


次。


そして、ミラの指が止まった。


「ここ」


エイルが身を寄せる。


小さな文字を読む。


「成績優秀者は……学費の一部を免除する場合がある」


顔を上げた。


「安くなるってこと?」


「条件に入ればね」


その下も読む。


詳しい審査については入学後に案内するとある。


今の時点で対象になるかは分からない。


どのくらい減るのかも書かれていない。


「じゃあ、これを当てにして計算するのは駄目だね」


ミラが言った。


「うん」


エイルも頷く。


確実ではない。


けれど、学校へ入ったあと自分にできることが一つあるのは分かった。


「勉強する」


トーマが見る。


「学校だからな」


「そうじゃなくて。ちゃんとやる」


「今までもやってただろ」


「もっと」


「最初から飛ばしすぎるなよ」


「父さんがそれ言う?」


「俺は学校行ったことないから言える」


「ずるいな」


---


話が終わる頃には、机の上の硬貨は全部袋へ戻っていた。


今日だけでは決まらない。


トーマとミラがどれだけ仕事を増やせるか。


エイルに何ができるか。


収穫までに家でどれだけ必要になるか。


それを見ながら、少しずつ考えることになった。


「じゃあ」


トーマが立ち上がる。


「畑行くぞ」


エイルが顔を上げる。


「今から?」


「今から」


「学校の話してたのに」


「話したら畑が勝手に終わるのか?」


「終わらない」


「なら働け」


エイルも立った。


「はい」


外へ出る。


見慣れた道を歩いて、いつもの畑へ向かう。


学校へ行くために何をするかは、まだ全部決まっていない。


でも今日やることなら、もう決まっていた。


エイルは納屋から鍬を取った。


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