↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
PR
52/402

第五十二話 結果


朝。


エイルは目を覚ますなり、窓の外を見た。


「父さん」


「なんだ」


「今、どれくらい?」


「朝だ」


「それは分かる。正午まで」


「長い」


「どれくらい?」


「長い」


「……」


答える気がないらしい。


---


朝食を食べても、まだ早かった。


エイルは宿の部屋を歩き回った。


本を開く。


二ページほど読んで閉じる。


また窓を見る。


「父さん」


「まだだ」


「何も聞いてない」


「聞く顔してた」


「母さんみたいになってきたね」


「夫婦だからな」


またそれだった。


「もう学校行こうよ」


「早い」


「向こうで待つ」


「ここで待つのと何が違う」


「学校なら、結果が出たらすぐ見られる」


「早く行っても早く貼られるわけじゃないぞ」


分かっている。


分かっているが、落ち着かない。


結局、トーマが根負けして少し早めに宿を出た。


---


学校へ向かう道は、もう覚えていた。


門が見えてくる。


「あ」


エイルが指をさす。


すでに大勢の人が集まっていた。


受験者。


その家族。


門の近くで立っている者もいれば、座って待っている者もいる。


「ほら。みんな早い」


「落ち着きのない奴が多いんだな」


「普通って言ってよ」


トーマは笑った。


---


まだ結果は出ていない。


待つ。


エイルは門の近くを行ったり来たりした。


昨日の面談が頭に浮かぶ。


村のこと。


灰牙のこと。


学校へ来たい理由。


あれでよかったのか。


もっと違う言い方があったのではないか。


魔術について、もっと話した方がよかったのか。


「エイル」


「なに?」


「歩き回るな」


「動いてた方が楽」


「さっきから同じところ往復してるぞ」


「待ってるだけよりいい」


「地面が減るぞ」


「減らないよ」


そんなことを言っているうちに、学校の中から何人かの職員が出てきた。


大きな紙を持っている。


周囲の話し声が一気に小さくなった。


エイルも止まった。


---


門の横にある掲示板へ、紙が貼られていく。


一枚。


二枚。


三枚。


紙には番号が並んでいた。


「以上が合格者です」


その声の直後、人が一斉に動いた。


「父さん」


「押すなよ」


「分かってる」


前へ行きたい。


でも人が多くて見えない。


無理に入るのはやめ、少し待った。


やがて人がばらけ始める。


笑っている子がいた。


親に抱きついている子もいる。


その反対に、何も言わず歩いていく子。


泣いている子もいた。


それを見た瞬間、エイルの腹の奥が重くなった。


「行くぞ」


トーマが言った。


「うん」


---


掲示板の前へ立つ。


番号を上から追う。


一。


三。


六。


違う。


九。


十一。


十三。


十七。


十九。


二十二。


二十四。


二十五。


「……」


次。


二十七。


目が止まった。


一度、下を見る。


三十。


戻る。


二十五。


二十七。


間違いない。


「父さん」


「うん」


「……あった」


「そうだな」


エイルはもう一度見る。


二十七。


昨日まで首から下げていた番号。


自分の番号だ。


「受かった」


「そうだな」


もう一度見る。


やっぱりある。


「受かった」


今度は少し声が大きくなった。


トーマを見る。


父は笑っていた。


「父さん」


「なんだ」


「受かった」


「三回目だぞ」


「だって」


エイルも笑った。


何を言えばいいのか、それ以上思いつかなかった。


ただ、嬉しかった。


---


最初は文字もまともに読めなかった。


母に教わり、父に計算を教わった。


仕事が終わったあとに勉強した。


自分の金で、初めて本を買った。


読めないところを少しずつ読めるようにした。


全部がこの試験のためだったわけではない。


けれど、その続きに今があった。


二十七。


何度見ても消えない。


「母さんに言いたい」


「ああ」


「リナにも」


「帰ったらな」


「今すぐ帰りたい」


「二週間かかるぞ」


「……遠い」


来るときより、今の方が村を遠く感じた。


---


掲示板の横には、別の案内が出ていた。


合格者は指定された建物へ集まるよう書かれている。


「父さん」


「まだ帰れんぞ」


「分かってる」


二人で校内へ入った。


案内された部屋には、合格した子供たちと家族が集まっていた。


試験初日に見た人数より、かなり少ない。


前に職員が立つ。


「合格おめでとうございます」


その言葉を聞いて、エイルは少しだけ背筋を伸ばした。


改めて言われると、本当に受かったのだと思えた。


---


説明が始まった。


入学する日。


必要な持ち物。


授業で使う教材。


服。


遠方から来る者のための寮。


そして、授業料。


寮費。


食費。


そのほかに必要になる費用。


最初は真剣に聞いていたエイルだったが、途中から少しずつ口数がなくなった。


知っていた。


学校へ通うには金がかかる。


村からここまで来るだけでも、かなり使った。


でも、実際に一つずつ聞くと違う。


教材にも金がいる。


住むにも金がいる。


食べるにも金がいる。


一度払って終わりではない。


横を見る。


トーマは何も言わず、渡された紙を見ながら説明を聞いていた。


---


説明が終わり、外へ出る。


エイルはしばらく黙って歩いた。


「父さん」


「なんだ」


「……高いね」


「ああ」


トーマは否定しなかった。


「大丈夫?」


「帰って計算する」


「足りる?」


「まだ分からん」


「もし足りなかったら――」


「帰ってからだ」


「でも」


トーマが足を止めた。


「エイル」


「なに?」


「試験は受かった」


「……うん」


「そこまでは、お前がやった」


手に持っていた紙を軽く振る。


「こっちは大人が考える」


エイルは少し黙った。


「俺も考えるよ」


「なら帰ってから一緒に考えろ」


「うん」


それなら納得できた。


---


学校の門を出る前に、エイルは一度だけ振り返った。


受かった。


けれど、ここへ通えるかどうかはまだ決まっていない。


それは村へ帰ってから考える。


今は、とにかく帰りたかった。


ミラに言いたい。


リナにも言いたい。


「父さん」


「なんだ」


「母さん、何て言うかな」


「喜ぶだろ」


「リナは?」


「土産って言うんじゃないか」


エイルの足が止まった。


「……忘れてた」


トーマも止まる。


「お前」


「まだ帰らないから!」


「買う金あるのか?」


「少しくらいある」


「学校の金を聞いた直後だぞ」


「でも約束した」


トーマがため息をついた。


「安いのにしろ」


「珍しいやつがいいって」


「安くて珍しいものを探せ」


「難しくない?」


「試験より簡単だろ」


「絶対、試験の方が簡単だった」


トーマが笑う。


エイルも笑った。


明日から、帰る準備をする。


また二週間ほどの道を戻る。


その先に村がある。


エイルは少しだけ歩くのを速めた。


早く、自分の口で伝えたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。