第五十話 魔力試験
翌朝。
エイルは、トーマに起こされる前に目を覚ました。
「父さん」
「……なんだ」
「朝」
「知ってる」
「今日、魔力の試験」
「だから何だ」
「起きようよ」
「まだ早い」
昨日とほとんど同じだった。
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朝食を食べながら、エイルは何度も自分の手を見ていた。
今日は魔力量の確認と、魔力を扱う試験がある。
村では、自分の魔力量を測ったことなど一度もない。
多いのか。
少ないのか。
それとも普通なのか。
比べるものがなかった。
「父さん」
「なんだ」
「俺、魔力多いと思う?」
「知らん」
「少ないと思う?」
「知らん」
「どっちだと思う?」
「今日測るんだろ」
「予想だよ」
「飯食え」
「……はい」
結局、何も予想してくれなかった。
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学校へ着くと、昨日と同じように受付を済ませる。
今日は受験者がいくつかの組に分けられ、それぞれ別の建物へ案内された。
エイルの組が入ったのは、広い部屋だった。
前方に机があり、その上に大きな透明の石が置かれている。
両手で抱えるくらいの大きさだ。
「あれかな」
思わず少し身を乗り出す。
やがて試験官が前へ立った。
「これから魔力量を測定します。番号を呼ばれた者から前へ来てください」
部屋が静かになる。
「測定器に手を置き、合図に従って魔力を流してください。それだけです」
本当に、それだけらしい。
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最初の受験者が呼ばれた。
前へ出て、透明な石へ両手を置く。
「魔力を流してください」
石の中に光が広がった。
試験官は横にある器具を確認し、紙へ何かを書き込む。
「はい。結構です。次」
二人目。
三人目。
同じように進んでいく。
石の光り方には違いがあった。
明るい者もいれば、少し弱く見える者もいる。
ただ、それがそのまま魔力量の差なのか、エイルには分からない。
「……」
自分の手を見る。
もうすぐ、初めて自分の魔力量を測る。
「二十七番」
「はい」
エイルは立ち上がった。
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近くで見ると、透明な石には細かな傷がいくつもついていた。
ずっと使われているものなのだろう。
「両手を置いてください」
手を置く。
ひやりと冷たい。
「では、魔力を流してください」
「はい」
エイルは身体の中の魔力を意識した。
集める。
腕へ。
手へ。
そのまま石の中へ流していく。
透明だった石の内部に光が広がった。
「……」
思っていたより明るい。
けれど、それだけだった。
試験官は測定器へ目を向け、紙に数字らしいものを書き込む。
何か言われるかと思って待つ。
「はい。結構です」
「……終わり?」
試験官が顔を上げた。
「終わりです」
「結果は?」
「合否と合わせて確認できます」
「あ、はい」
エイルは少し残念に思いながら手を離した。
「次」
もう次の番号が呼ばれている。
仕方なく席へ戻った。
測った。
確かに測った。
でも、結局どれくらいなのかは分からない。
隣の受験者の石より明るかった気もする。
反対側の子よりはどうだったか。
考え始めて、やめた。
測定器の数字を見ていない以上、光だけ比べても仕方がない。
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全員の測定が終わると、今度は別の部屋へ移動した。
そこには、ほとんど何もなかった。
試験官が小さな器具を手に持っているだけだ。
「次は魔力操作の確認を行います」
エイルは少し姿勢を正した。
「指示された身体の部位へ魔力を集めてください。こちらで確認します」
説明は短かった。
最初の受験者が前へ出る。
「右手」
受験者が集中する。
試験官が器具を近づけ、反応を確認する。
「左手」
また確認。
「以上です。次」
エイルは少し首を傾げた。
次の受験者。
「右足」
その次。
「左手。次に右足」
やることは変わらない。
指定された場所へ魔力を集めるだけだ。
「……これだけ?」
小さく呟いた。
畑で重いものを持つときは腕へ。
走るときは脚へ。
必要なところへ魔力を回す。
ずっとやってきたことだった。
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「二十七番」
「はい」
前へ出る。
「右手」
すぐに右手へ魔力を集める。
試験官が器具を近づけた。
小さく反応する。
紙へ何か書かれる。
「次、左足」
右手へ集めていた魔力を戻し、そのまま左脚へ流す。
足先まで集める。
確認。
「両手」
今度は左右へ分ける。
確認。
試験官が紙へ記録した。
「以上です」
「はい」
エイルは席へ戻った。
簡単だった。
もっと難しいことをするのだと思っていた。
魔力を細くしたり、複数に分けたり。
あるいは、何か決められた形を作ったり。
そういうものを少し想像していた。
けれど、考えてみれば入学前の試験だ。
ここには、魔術をほとんど習ったことのない者だって受けに来る。
自分もその一人だ。
なら、まず魔力を扱えるかどうかを見る試験なのかもしれない。
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最後の受験者が終わる。
試験官が前へ立った。
「本日の試験は以上です。明日は面談を行います。指定された時間に受付へ来てください」
二日目が終わった。
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建物を出ると、トーマが昨日と同じ辺りで待っていた。
「父さん」
「終わったか」
「うん」
「どうだった?」
「簡単だった」
「何した」
「魔力量を測った」
「それから?」
「右手とか左足とかに魔力集めた」
トーマが少し待つ。
「それだけか?」
「それだけ」
「なら、できたんだろ」
「うん」
「よかったじゃないか」
「でもさ」
「なんだ」
「魔力量、分かんなかった」
トーマが眉を寄せる。
「測ったんだろ?」
「測ったよ。でも結果はまだ教えてくれなかった」
「じゃあ待て」
「それが気になるんだよ」
「待っても気になるなら、気にしながら待て」
「何それ」
「結果が早く出るわけじゃないだろ」
それはそうだった。
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学校の門を出る。
エイルは少しだけ振り返った。
今日、自分の魔力量を初めて測った。
魔力を身体の一部へ集める試験も受けた。
けれど、自分が他の受験者と比べてどうなのかは、まだ分からない。
村では比べる相手がいなかった。
今日も結果を知らされていない以上、結局同じだ。
「父さん」
「なんだ」
「結果、いつ分かると思う?」
「全部終わってからじゃないか」
「明日?」
「明日は面談だろ」
「ああ」
明日が最後だった。
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帰り道。
エイルは右手を見ながら、少しだけ魔力を集めた。
今日の試験と同じ。
すぐに散らす。
簡単だった。
だからといって、それが良かったのか普通なのかは分からない。
「早く結果見たい」
「まず明日だ」
「分かってる」
エイルは前を向いた。
明日は面談。
それが終われば、三日間の試験はすべて終わる。




