↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
PR
42/402

第四十二話 試験のこと


セドが戻ってきたのは、それから十二日後だった。


「エイル!」


畑で鍬を振っていたエイルが顔を上げる。


村の入口に荷車が止まり、セドがこちらへ手を振っていた。


「分かったぞ!」


エイルは反射的に鍬を置きかけた。


「エイル」


隣からトーマの声がする。


「……分かってる」


鍬を握り直した。


「仕事が終わってから」


「そうしろ」


今日はいつもより、畑仕事が長く感じた。


---


ようやく仕事を終え、手を洗って村の中央へ向かう。


セドはベルンと話していた。


エイルは少し離れたところで待った。


前ならそのまま割って入っていたかもしれない。


ベルンが去る。


「で?」


すぐに聞くと、セドが笑った。


「待てるようになったと思ったら、終わった瞬間か」


「ちゃんと待ったよ」


「はいはい」


セドは荷車から一枚の紙を取り出した。


「学校のことだ」


エイルの目が紙へ向く。


「これ何?」


「向こうで聞いたことを書き写してもらった」


「誰に?」


「街で学校のことを知ってる奴を探してな。そこから確認してもらった」


「学校の人?」


「そこまでは会ってない」


「大丈夫?」


「嫌なら自分で聞きに行け」


「信じます」


「早いな」


エイルは紙を覗き込んだ。


一番上には学校の名前。


読める。


その下にも文字が続いている。


何年か前なら、セドに全部読んでもらわなければ分からなかった。


今は、自分で追える。


「試験は……春」


「ああ」


さらに読む。


「三日?」


「そう聞いた」


エイルが顔を上げる。


「三日もやるの?」


「らしいぞ」


「一日じゃないの?」


「俺に言うな」


---


紙には、三日間のおおまかな内容も書かれていた。


一日目。


読み書き、計算、それから基礎的な知識。


「これは分かる」


「今やってるやつだな」


二日目。


魔力量の確認と、魔力を扱う試験。


エイルの指が止まった。


「……これ、何するの?」


「知らん」


「聞かなかったの?」


「聞いた」


「じゃあ?」


「詳しい内容までは教えられないそうだ」


「なんで?」


セドがエイルを見る。


「試験だからじゃないか?」


「……そっか」


先に内容を全部教えてしまったら、試験にならない。


三日目は面談。


そこまで読んで、エイルはもう一度二日目へ戻った。


「魔力量って、どうやって調べるの?」


「知らん」


「魔力を扱う試験は?」


「知らん」


「何ができればいい?」


「知らん」


「セド」


「俺は学校の先生じゃねえ!」


近くで荷物を見ていた村人が笑った。


---


夜。


エイルは覚えてきた内容を家族に話した。


「三日間?」


ミラも少し驚いた顔をした。


「うん。一日目が読み書きと計算と、基礎知識」


「そこは今までやってきたことね」


「二日目が魔力量と、魔力を扱う試験」


トーマが少し考える。


「それは分からんな」


「父さんなら何すると思う?」


「魔力を使うんだろ」


「それは俺でも分かるよ」


「なら聞くな」


「父さん、本当に役に立たないな」


「飯食わせてるだろ」


「学校の話で」


「条件を後から足すな」


リナが横から口を挟む。


「三日目は?」


「面談」


「何それ」


「学校の人と話すんだと思う」


「兄ちゃん大丈夫?」


「何が?」


「知らない人と話すの」


「普通に話せるよ」


「ハインにずっと質問してたもんね」


「ほら」


「嫌がられてたけど」


「それは言わなくていい」


---


一番分からないのは、やはり二日目だった。


「魔力が少なかったら落ちるのかな」


エイルが聞く。


ミラは首を振った。


「そこまでは分からないね」


「多ければ受かる?」


「それも分からない」


「じゃあ、何のために測るんだろ」


誰も答えられない。


魔力を扱う試験も同じだった。


エイルは昔から、仕事をするときに魔力を身体へ回している。


今ではほとんど考えなくてもできる。


それとは別に、魔力で形を作る遊びも何年も続けている。


けれど、それらが学校の試験で何の意味を持つのかは分からなかった。


「分からないものは仕方ないよ」


ミラが言った。


「今できる勉強をやっておきなさい」


「……うん」


---


翌日。


エイルは畑で袋を持ち上げながら、久しぶりに自分の魔力の動きを意識した。


いつもなら考えない。


身体を動かせば、必要なところへ自然に回している。


今日はわざと少なくする。


少し増やす。


腕だけ。


次は脚。


歩きながら弱める。


坂では少し増やす。


「……できるな」


当たり前だった。


何年もやってきたのだから。


問題は、これが試験でいう「魔力を扱う」に入るのかどうかだ。


それは分からない。


---


夜には、いつもの形を作った。


丸。


小さくする。


大きくする。


細い線を伸ばす。


途中で曲げる。


文字を一つ。


その隣に別の形。


さらに二つ。


三つ。


複雑な形をいくつか同時に保つ。


「これも……魔力を扱ってることにはなるよな」


自分で言ってから、首を傾げる。


魔力を動かしているのだから、言葉だけならそうだ。


でも、学校が何を見ようとしているのかは分からない。


そもそも、他の人がこんなことをしているのかも知らない。


---


次の日、エイルはトーマに聞いてみた。


「父さん」


「なんだ」


「魔力で丸作れる?」


「丸?」


「うん」


「何の話だ」


「魔力を細くして、こうやって輪にするの」


エイルは手振りを交えながら説明した。


トーマはしばらく聞いたあと、


「何でそんなことするんだ?」


と言った。


「できるか聞いてるの」


「やったことない」


「じゃあやってみて」


「嫌だ」


「一回だけ」


「畑」


「終わってから」


「疲れてる」


「じゃあいつ?」


「やらん」


「なんで!」


「必要ないからだ」


いつもの父だった。


ミラにも聞いたが、


「やったことないから分からない」


で終わった。


「じゃあ試してみてよ」


「その前に夕飯手伝って」


「……はい」


結局、比べる相手はいなかった。


---


数日後、セドがまた村へ来た。


今度はちゃんと仕事を終えてから捕まえる。


「試験って、何人くらい受ける?」


「知らん」


「何人くらい受かる?」


「知らん」


「難しい?」


「知らん」


「何なら知ってるの?」


「塩と小麦の値段」


「今、学校の話してるんだけど」


セドが笑った。


「ただな」


「何?」


「落ちる奴は結構いるらしいぞ」


エイルの顔から笑いが消えた。


「どれくらい?」


「そこまでは知らん」


「半分?」


「知らん」


「もっと?」


「だから知らんって」


「でも結構落ちるんでしょ?」


「そう聞いた」


それだけだった。


---


その夜。


本を開いても、なかなか頭に入らなかった。


一行読む。


次へ行く。


気づくと、また同じところを読んでいる。


「エイル」


向かいにいたミラが言った。


「そこ、さっきから何回も読んでるよ」


「……うん」


「疲れた?」


「違う」


「じゃあ、どうしたの?」


エイルは本を見たまま、しばらく黙った。


「落ちたらどうしよう」


口に出したのは初めてだった。


ミラはすぐには答えなかった。


「落ちたら、帰ってくる」


「それだけ?」


「それだけ」


「お金もかかる」


「うん」


「行くのにも二週間くらいかかる」


「そうね」


「帰りもある」


「うん」


「いっぱい勉強して、それで落ちたら?」


「悔しいだろうね」


エイルは黙った。


ミラが本を指す。


「でも、まだ落ちてないよ」


「受かってもない」


「そうね」


「どっちも決まってない」


「だから今、勉強してるんでしょう?」


エイルはしばらく本を見ていた。


「……うん」


もう一度、最初から読む。


今度は一行ずつ、ちゃんと意味を追った。


---


それからも、やることは変わらなかった。


文字を読む。


書く。


計算する。


知らないことを覚える。


間違えればやり直す。


夜、余裕があれば形も作る。


ただ、試験の内容を知ってからは、少しだけ作り方を変えた。


線の太さを揃えてみる。


丸をできるだけ歪ませない。


左右を同じ形にする。


一度作ったものを崩さず、同じものをもう一つ並べる。


役に立つかどうかは分からない。


試験と関係があるかも分からない。


だから、試験のためというより、今までの遊びを少し丁寧にやる程度にした。


春までは、まだ時間がある。


けれど、もう何年も先ではない。


試験を受ける日は、本当に近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。