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THE GUILD  作者: axe
第一章 小さな村で
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第二話 できた


「違う」


エイルは呟いた。


もう一度、薪の入った籠の前に立つ。


昨日運んだ木材よりずっと軽い。普通に持とうと思えば、何も考えなくても持てる重さだ。


だからこそ、試すにはちょうどよかった。


エイルは膝を少し曲げ、自分の身体の内側へ意識を向けた。


魔力を集める。


昨日は、集めたものを脚や腕へ流そうとして、途中で散ってしまった。


なら今日は、もっと少ない量でやってみる。


集めて。


そのまま保って。


脚へ――。


「……違う」


さっきより悪い。


エイルは身体を起こした。


何が違うのかは分からない。ただ、昨日木材を持ち上げたときの方が、ずっと自然だった。


もう一度しゃがむ。


今度は先に脚へ流してから――。


「何してるの?」


エイルは目を閉じたまま答えた。


「……リナ」


「なに?」


「今、話しかけないで」


「なんで?」


「集中してるから」


「何に?」


「魔力」


「薪持つのに?」


「そう」


「なんで?」


エイルは目を開けた。


振り返ると、妹がすぐ後ろにしゃがみ込んでいた。


「暇なの?」


「うん」


「母さん手伝ってきたら?」


「嫌」


「俺も今忙しいんだけど」


リナは薪の籠を見た。


それからエイルを見る。


「持つだけじゃん」


「持つだけじゃない」


「持つだけだよ」


「違うんだって」


「じゃあ私が持つ」


「え?」


リナが籠の取っ手を両手で掴んだ。


「よっ」


籠が地面から離れる。


少しふらついているが、持ち上がっていた。


「ほら」


「……置け。危ないから」


「できたよ?」


「分かったから」


リナが籠を下ろす。


どん、と地面が鳴った。


「兄ちゃん」


「なに」


「私できたよ」


「見てたよ」


「兄ちゃん、ずっとできてない」


「俺は別のことやってるの」


「薪持つんでしょ?」


「……もういい。向こう行け」


「母さんに言う」


「何を」


「兄ちゃんが仕事しないで遊んでる」


「おい」


リナは笑いながら逃げていった。


追いかけようとして、エイルはやめた。


今追いかけたら、本当に遊んでいたみたいになる。


「持つだけ、ね……」


もう一度、籠を見る。


少し腹は立つ。


けれど、引っかかるところもあった。


リナは何も考えずに持った。


父もそうだ。


魔力を使うときに、いちいち集め方だの流し方だのを考えているようには見えない。


だったら自分も、何も考えずにやればいいのかもしれない。


エイルは籠を掴んだ。


そのまま持ち上げる。


普通に上がった。


「……」


下ろす。


もう一度。


やっぱり上がる。


「いや、そうじゃなくて」


持てるかどうかを試しているわけではない。


エイルはもう一度しゃがんだ。


やっぱり、気になるものは気になる。


「遅い」


家へ戻ると、ミラに言われた。


「リナが邪魔してきた」


「してない!」


奥から声が飛んでくる。


「しただろ」


「してない!」


「どっちでもいいから、薪は?」


「あ」


忘れていた。


ミラが黙ってエイルを見る。


「……今持ってくる」


「今日中にね」


「分かってるよ」


外へ戻ろうとすると、今度はトーマが入ってきた。


手には泥のついた鍬を持っている。


「ミラ、あれどこやった?」


「あれじゃ分からないわよ」


「柄を削るやつ」


「棚の下」


トーマが棚を探す。


「あった」


その横をエイルが通り抜けようとすると、声が飛んできた。


「エイル」


「何?」


「薪は?」


「今から」


「朝から今からって言ってないか?」


エイルは少し考えた。


「……今度の今からは、本当に今から」


「便利だな、その言葉」


「行ってきます」


エイルは逃げるように外へ出た。


昼を過ぎた頃。


薪を運び終えたエイルは、村の端に何人か集まっているのを見つけた。


村長のベルン。


猟師のドルク。


もう一人は知らない男だった。


服装からすると、近くの村から来た人らしい。


エイルは邪魔にならないところまで近づいた。


「だから、昨晩だ」


知らない男が言った。


「朝になって見たら、羊が一頭いなくなってた」


「柵は?」


ベルンが聞く。


「壊されてる」


「狼じゃないのか?」


「うちの猟師は違うと言ってる」


ドルクが腕を組んだ。


「足跡を見たのか?」


「俺は見てない。猟師が見た」


「どんな跡だ」


「でかかったとしか聞いてない」


「それじゃ分からんな」


「だから俺に言うなよ」


男も困ったように返した。


ベルンが二人の間に入る。


「分かった。ハインを見かけたら伝えておく」


「頼む。もしこっちへ移ったなら、お前たちにも関係あるからな」


「今日は戻るのか?」


「ああ。水をもらったら戻る」


ベルンと男は井戸の方へ向かった。


ドルクだけが残り、しばらく村の外へ続く道を見ていた。


「ドルクさん」


声をかけると、ドルクが振り向く。


「なんだ、エイルか」


「何か出たの?」


「さあな」


「さあなって」


「跡を見てないんだから分からん」


「魔物?」


「それも分からん。狼かもしれん」


エイルは少し拍子抜けした。


「見たら分かる?」


「跡が残ってればな」


ドルクはそう言って歩き出した。


「どこ行くの?」


「罠を見てくる」


「俺も――」


「駄目だ」


「まだ言ってないけど」


「顔に書いてある」


昨日も似たようなことを言われた気がする。


「見るだけ」


「森に入って何か出てるかもしれないって話をした直後に、子供を連れていくと思うか?」


「……思わない」


「なら帰れ」


「はい」


ドルクは手を振って、そのまま村の外へ出ていった。


エイルも家へ戻る。


途中、村の子供たちが木の枝を剣にして遊んでいた。


「魔物だ!」


「くらえ!」


「うわあ!」


一人が大げさに倒れる。


「倒した!」


楽しそうだった。


エイルも少しだけ足を止めたが、薪のことでまた怒られるのは嫌だったので、そのまま家へ帰った。


夕方。


仕事を終えたトーマが家の前で休んでいるところへ、エイルは薪を一本持っていった。


「父さん」


「なんだ」


「これ持ってみて」


トーマが薪を見る。


「嫌だ」


「なんで?」


「疲れてる」


「一回だけ」


「自分で持て」


「持てるよ。父さんがどうやってるか見たいの」


トーマは面倒そうに息を吐いた。


それでも薪を受け取り、片手で持ち上げた。


「ほら」


「今、魔力使った?」


「少しは使ったんじゃないか」


「分からないの?」


「いちいち考えない」


「もう一回やって」


「嫌だ」


「今度は意識して」


「エイル」


「なに?」


「俺は疲れてる」


「……はい」


薪を返された。


トーマは椅子に座って水を飲む。


エイルはその横で薪を持ち上げた。


普通に持てる。


「なんでみんな分かんないんだろ」


「何が」


「どうやって魔力使ってるか」


「使えてるからだろ」


「でも、どうやってるか分かった方がよくない?」


「別に」


「父さんも考えてよ」


「なんで俺が」


「気にならない?」


「ならない」


即答だった。


エイルは薪を見る。


別に困っているわけではない。


薪は持てる。


畑仕事もできる。


走るのだって普通だ。


「……俺は気になる」


結局、それしかなかった。


トーマが少し笑った。


「なら好きにしろ」


「それ昨日も聞いた」


「じゃあ問題ないな」


「解決はしてない」


「俺の問題じゃないからな」


ひどい。


でも、好きにしていいらしい。


エイルはもう一度薪を持った。


普通に持つ。


下ろす。


次は魔力を意識する。


昨日うまくいったときはどうしていたか。


たくさん集めようとはしていなかった。


先に少しだけ寄せて、それが散らないようにして――。


エイルは身体の内側に意識を向けた。


少しだけ。


欲張らない。


集めたものを保つ。


そのまま腕へ流す。


薪を掴んだ。


持ち上げる。


「……あ」


軽い。


ほんの少しだった。


でも、さっきとは違う。


エイルはすぐに薪を下ろした。


「父さん」


「ん?」


「できた」


「そうか」


「いや、本当に」


「よかったな」


「ちょっと見て」


「嫌だ」


「なんでだよ」


「ご飯できたわよ」


家の中からミラの声がした。


トーマが立ち上がる。


「ほら、飯だ」


「待って。もう一回だけ」


「明日にしろ」


「今の忘れるかもしれない」


「俺は腹が減った」


「父さん!」


そのまま家へ入ってしまった。


エイルは薪を見る。


もう一度だけ。


少し集める。


保つ。


腕へ流す。


持ち上げる。


「……あれ?」


今度はさっきほど軽くない。


何が違ったのか。


量か。


集め方か。


それとも流し方か。


もう一度――。


「エイル! ご飯!」


「今行く!」


仕方なく薪を置いた。


明日また試せばいい。


家へ入ると、先に座っていたリナがエイルを見て笑った。


嫌な予感がした。


「母さん、兄ちゃん今日ね――」


「リナ」


「ずっと薪の前で遊んでた」


「おい!」


ミラがエイルを見る。


「エイル?」


「違う。ちゃんと運んだ」


「でも遅かったよ」


「お前が邪魔したからだろ!」


「してない!」


「した!」


結局、また怒られた。


それでも、エイルはさっきの感覚を忘れないように、食事をしながら何度も思い返していた。


少しだけ集める。


散らさずに保つ。


必要なところへ流す。


まだ毎回はできない。


けれど、一度はできた。


それだけで、昨日より少し前に進んだ気がした。

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