第百六十六話 受けるかどうか
翌朝。
エイルが食堂へ下りると、ガレスはすでに朝食を食べていた。
「おはようございます」
「ああ」
エイルも向かいに座り、パンとスープを頼む。
「昨日の話、聞きに行きますよね」
「ああ」
「俺も行きます」
「好きにしろ」
朝食を済ませると、二人は宿を出た。
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最初に向かったのは、昨日も立ち寄った馬を預かる店だった。
朝ということもあって、何台かの荷車が出発の準備をしている。
ガレスは店の男に聞いた。
「南から来た奴はいるか?」
「今朝着いたのなら、あそこだ」
指された先には、二人の男がいた。
荷車の横で馬具を外している。
ガレスが声をかけた。
「ラクトから来たのか?」
一人が振り返る。
「ああ」
「街道で何か変わったことは?」
「何かって?」
「襲われた荷車があると聞いた」
「ああ、その話か」
男は馬具を置いた。
「俺たちは何もなかったぞ」
「道中で騎士は見たか?」
「見たな。一度だけ」
「どの辺りだ?」
男は少し考えてから答える。
昨日聞いた、荷車が襲われた場所より北だった。
「ほかの商人は?」
「普通に走ってる」
横にいた男も口を挟む。
「ただ、あの辺りじゃ前より固まって走る奴は増えたかもな」
エイルが反応する。
「一台で行かないってことですか?」
「ああ。宿で行き先が同じ奴を探したりな」
「護衛を増やしてる人もいます?」
「いるんじゃないか? 俺たちも一人増やした」
「今回だけですか?」
「そうだ」
「やっぱり盗賊がいるから?」
「そりゃ、何もなけりゃ増やさない」
エイルはガレスを見る。
ガレスはさらに聞いた。
「襲われた場所を通ったか?」
「ああ」
「何か見たか?」
「何も」
「林の中は?」
「わざわざ見に行くかよ」
「そうだな」
ガレスは礼を言って離れた。
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そのあとも、南から来た御者や商人を何人か探した。
話は少しずつ違った。
盗賊は五人だった。
いや、十人近かったらしい。
剣を持っていた。
弓もいた。
道に木を倒して荷車を止めた。
そんなものはなかった。
エイルは途中から混乱してきた。
「全然違いますね」
「ああ」
「どれが本当なんですか?」
「分からん」
「これ、聞く意味あります?」
「ある」
ガレスは歩きながら答える。
「同じ話が何度も出れば、それは少し使える」
「少し?」
「自分で見た奴がいないからな」
「ああ……」
エイルは今まで聞いた話を思い返す。
人数や武器はバラバラだった。
一方で、共通していることもある。
襲われた場所。
荷車が二台だったこと。
少なくとも一人は怪我をしたこと。
そして、その後も街道自体は使われている。
「人数は分からないままですね」
「ああ」
「でも、南から普通に荷車は来てる」
「ああ」
「護衛を増やした人もいる」
「そうだな」
ガレスはそこで足を止めた。
「お前なら受けるか?」
「俺ですか?」
「ああ」
エイルは少し考えた。
「……昨日よりは、受けてもいいと思います」
「なんでだ」
「南から普通に人が来てるからです。危ないから誰も通らない、ってほどではない」
「ほかは?」
「騎士も見回ってる」
「ほか」
エイルは考える。
「商人の荷車は三台。護衛はもう一人いる。それにガレスさんと俺が加わる」
「お前は一人分に数えるな」
「分かってます」
エイルは少しむっとして答えた。
「でも、何かあったら俺も何もしないわけじゃないですよね」
「それはそうだ」
「だったら昨日よりは受けてもいいかなって」
ガレスは再び歩き出した。
「報酬が上がればな」
「あ、そこはまだなんですね」
「そこが一番決まってない」
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西の宿へ戻ると、昨日の商人は店の前にいた。
荷車の積み荷を確認している。
ガレスを見ると、向こうから声をかけてきた。
「決めたか?」
「昨日の額なら受けん」
「まだ言うのか」
「なら別を探せ」
商人は顔をしかめた。
「出発は今日なんだぞ」
「俺には関係ない」
「分かった、分かった」
商人が昨日より少し高い金額を出した。
ガレスは首を振る。
そこからまた話が始まった。
エイルは横で聞いている。
今回は昨日ほど長くなかった。
商人も出発を遅らせたくないらしい。
最後にガレスが金額を一つ出した。
「二人でそれか?」
「ああ」
「食事は?」
「道中はそっち持ち」
「泊まるなら?」
「それもそっち持ちだ」
商人が唸る。
「高いな」
「盗賊が出たんだろ」
「出るとは限らん」
「その話は昨日した」
しばらくして、商人が息を吐いた。
「分かった。それでいい」
「出発は?」
「昼前には出たい」
「荷を見せろ」
「荷?」
「何を運ぶかは聞いた。実物を見る」
商人は少し怪訝そうな顔をしたが、三台の荷車へ二人を案内した。
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布。
酒。
金物。
聞いていたものと違いはなかった。
ガレスは荷車の周囲を回り、積み方も確認していく。
一台目。
二台目。
三台目。
そこで、荷を固定している縄を引いた。
少し緩んでいる。
「これ、締め直せ」
御者が縄を確認する。
「これくらいなら大丈夫だろ」
「途中で崩れても俺は積み直さんぞ」
「分かったよ」
御者は面倒そうに縄を締め直した。
エイルはその様子を見ていた。
以前、自分が荷運びの仕事をしていたときにも、途中で縄が緩んだことがあった。
「やっぱり緩むんですね」
「ああ」
「前にも一回ありました」
「なら道中も見とけ」
「はい」
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最後に、先に雇われていた護衛と顔を合わせた。
男の顔を見て、エイルは足を止めた。
どこかで見た顔だった。
向こうもエイルを見て、少し眉を寄せる。
「……お前」
「あ」
エイルも思い出した。
「ダンさん?」
「エイルだったか」
「はい。ラダまで一緒だった」
以前、エイルが荷運びの仕事で北へ向かったとき、一緒に街道を歩いた護衛だった。
「また護衛してるんですね」
「それが仕事だからな」
「そりゃそうか」
エイルが笑う。
ダンはその隣にいるガレスを見る。
「そっちは?」
「ガレスだ」
「ダンだ」
二人は短く名乗り合った。
ダンがもう一度エイルを見る。
「今度は荷運びじゃないのか?」
「今回はガレスさんの補助です」
「そうか」
それ以上、ダンは特に驚かなかった。
「前は俺が行く。後ろはそっちでいいか?」
ガレスが聞く。
「ああ。そのつもりだった」
話はすぐに仕事の方へ移った。
エイルも三台の荷車を見る。
前にダン。
後ろにガレスと自分。
「俺はガレスさんと一緒でいいんですよね?」
「ああ」
「分かりました」
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昼前。
三台の荷車が町を出た。
先頭の少し前をダンが歩く。
その後ろに三台の荷車。
ガレスとエイルは最後尾についた。
しばらく歩いてから、エイルが前を見る。
以前は、同じような荷車のそばで荷物を扱いながら歩いていた。
今はガレスの隣にいる。
前方には、見覚えのあるダンの背中があった。
「三日でしたよね」
エイルが聞く。
「ああ」
「何も起きなかったら、そのままラクトに着いて終わりですか?」
「そうだ」
「それが一番いいですね」
「護衛ならな」
街道は南へ伸びている。
三台の荷車が、ゆっくりとその道を進んでいった。




