第百六十五話 次の仕事
ベルノを出て、二日。
エイルとガレスは街道沿いの小さな町に着いた。
村よりは大きいが、学校のあった街とは比べものにならない。
街道の両側に宿や食堂、馬を預かる場所が並び、その奥に家や店が広がっている。
荷車も多かった。
「今日はここですか?」
「ああ」
ガレスは町へ入ると、まず宿を探した。
値段を聞き、部屋を見る。
一軒目では泊まらず、二軒目へ行った。
エイルは後ろについていく。
「最初のところじゃ駄目だったんですか?」
「高い」
「そんなに違いました?」
「何日いるか分からんからな」
「ああ」
一泊なら小さな差でも、何日もいれば大きくなる。
二軒目で部屋を取り、荷物を置く。
「それで、仕事を探すんですよね」
「ああ」
「どこから行きます?」
「飯だ」
「また飯ですか?」
「昼を過ぎてる」
「……本当だ」
外へ出る。
エイルは空を見上げた。
移動していると、時間の感覚がよく分からなくなる。
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食堂に入ると、ガレスは料理を頼んだあと、店の男に聞いた。
「最近、この辺りで人を探してるところはあるか?」
「仕事か?」
「ああ」
「何ができる?」
「護衛、採取、魔物の対処。あとは内容次第だ」
男は少し考えた。
「南へ行く商人が護衛を探してた気がするな」
「誰だ?」
「名前までは知らん。西の宿に泊まってる連中だ」
「ほかは?」
「さあな。馬を扱ってるところなら、荷運びの話を知ってるかもしれん」
「分かった」
食事が来てから、エイルが聞く。
「宿の人じゃなくても聞くんですね」
「知ってそうならな」
「誰が知ってそうかは、どうやって分かるんです?」
「人が集まるところから聞く」
「食堂とか?」
「ああ。宿、酒場、馬を扱うところ。商人が多い町なら商会もだ」
エイルはパンをちぎる。
「学校で聞いたのと同じだ」
「何が」
「仕事を探すときの話です。店とか商会とか、知ってそうな人に聞くって」
「なら聞くな」
「実際にやると違うかなと思って」
「違ったか?」
「今のところ同じです」
「そうか」
ガレスはそれ以上気にせず食べ続けた。
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食後、二人は西の宿へ向かった。
店の前には荷車が三台止まっている。
中へ入り、主人に聞くと、南へ向かう商人は確かに泊まっていた。
しばらく待つと、四十代くらいの男が出てくる。
「護衛を探してるって聞いた」
ガレスが言った。
男は二人を見る。
「そうだ。あんたら、できるのか?」
「話を聞いてから決める」
「決めるのはこっちだろ」
「お互いにな」
商人は少し黙ってから笑った。
「まあいい。座れ」
三人で宿の隅の席につく。
「どこまで行く?」
ガレスが聞く。
「南のラクトまで」
エイルは知らない町だった。
「何日だ」
「順調なら三日」
「荷は?」
「布と酒、それから金物」
「荷車三台?」
「ああ」
「御者は?」
「三人。俺を入れて四人」
「護衛は?」
「今のところ一人いる。あと二人欲しい」
「道は?」
「街道をそのまま南だ」
「最近何かあったのか?」
商人が少し嫌そうな顔をした。
「それを聞くか」
「聞かずに受けると思うか?」
「まあ、そうだな」
男は声を少し落とした。
「先月、荷車が襲われたらしい」
「何に?」
「人だ」
エイルは顔を上げた。
「盗賊ですか?」
商人がエイルを見る。
「ああ。たぶんな」
「たぶん?」
「俺が見たわけじゃない。南から来た商人に聞いただけだ」
ガレスが続ける。
「場所は?」
「ラクトとの中間より少し南」
「一度だけか?」
「俺が聞いたのは一度だ」
「騎士は?」
「街道を見回ったらしいが、捕まったって話は聞いてない」
ガレスは少し考える。
「報酬は?」
商人が金額を言った。
エイルには高いのか安いのか、すぐには分からない。
ガレスは首を横に振った。
「安い」
「三日だぞ」
「盗賊の話がなければな」
「出るとは限らん」
「なら、お前が護衛なしで行けばいい」
商人が顔をしかめる。
「それが嫌だから探してるんだ」
「なら危険な分は払え」
二人の間で、しばらく金額のやり取りが続いた。
エイルは黙って聞く。
最初より少し上がった。
それでもガレスは受けなかった。
「明日の朝まで考える」
「ほかに決まったら知らんぞ」
「それならそれでいい」
宿を出る。
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「受けないんですか?」
エイルが聞いた。
「まだな」
「報酬が安いからですか?」
「それもある」
「ほかにも?」
「話が足りん」
ガレスは歩きながら答える。
「盗賊が何人いたのか。武器は何だったのか。どこで襲われたのか。ほかにも被害があるのか」
「商人の人は知らなかったですね」
「ああ」
「じゃあ、調べるんですか?」
「聞けるだけな」
エイルは少し考える。
「誰に聞くんです?」
「南から来た奴だ」
「どうやって探すんです?」
ガレスが街道を見る。
「荷車を見ろ」
何台もの荷車が行き来している。
エイルには、どこから来たのか見ただけでは分からない。
「分かりません」
「だろうな」
「ガレスさんは分かるんですか?」
「全部は分からん」
「じゃあ、どうするんです?」
「聞く」
「結局それなんですね」
「ああ」
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馬を預かる店へ行くと、ちょうど南から到着した荷車があると教えてもらえた。
御者は馬具を外しているところだった。
ガレスが声をかける。
「ラクトから来たのか?」
「ああ」
「途中で何かあったか?」
「何も」
「盗賊の話は?」
男の手が止まった。
「聞いたのか」
「少しな」
「俺も見てないぞ」
「知ってる範囲でいい」
御者は馬の背を撫でながら話した。
襲われたのは一台ではなく、二台の荷車だったらしい。
人数は分からない。
ただ、生き残った御者が町まで戻ってきたという。
「荷は?」
「かなり取られたって話だ」
「人は?」
「一人怪我した。死んだ奴はいなかったと思う」
「どこだ?」
御者は道の様子を説明した。
林が街道の近くまで迫る場所。
ガレスはさらにいくつか聞いた。
最近、同じ場所を通った者はいるか。
騎士の見回りはあったか。
道が塞がれていたのか。
相手は追ってきたのか。
御者が知っていることは、それほど多くなかった。
礼を言って離れる。
「どうです?」
エイルが聞いた。
「まだ分からん」
「でも、さっきより増えましたね」
「ああ」
「二台だった。怪我人が一人。場所も少し分かった」
「そうだな」
エイルは指を折る。
「でも人数は分からない」
「ああ」
「武器も分からない」
「ああ」
「……これで受けるんですか?」
ガレスは答えず、歩き続けた。
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夕方。
宿の部屋で、ガレスは地図を広げた。
エイルも向かいに座る。
町からラクトまでの街道。
途中に小さな村が二つ。
御者が話していた場所は、その先だった。
「ここですか?」
エイルが指す。
「たぶんな」
「林が近いところ」
「ああ」
「盗賊がいるなら、またそこにいるんですか?」
「分からん」
「場所を変えるかもしれない?」
「そもそも盗賊がまだいるかも分からん」
エイルは地図を見る。
「分からないこと多いな……」
独り言のように呟く。
ガレスが顔を上げる。
「全部分かるまで待ってたら、仕事にならん」
「じゃあ、どこまで分かったら決めるんですか?」
「自分が受けられる危険かどうか判断できるところまでだ」
「今は?」
「微妙だな」
エイルは少し驚いた。
「ガレスさんでも迷うんですね」
「迷うだろ」
「もっと、すぐ決めるのかと思ってました」
「知らんことが多いほど、すぐ決める理由がない」
エイルは地図へ目を戻した。
「明日の朝までに、もう少し聞きます?」
「ああ」
「それで駄目なら?」
「断る」
「仕事なくなりますよ?」
「また探す」
エイルは少し黙った。
宿代も食事代もかかる。
仕事を受けなければ、その分だけ金は減っていく。
それでも、分からないことだらけの仕事に飛びつく必要もない。
「明日、俺も聞いてみます」
「誰に」
「南から来た人です」
「何を聞く」
エイルは少し考える。
「最近、街道で変わったことがなかったか。盗賊を見た人を知らないか。それと……」
ガレスが待つ。
「護衛を増やしてる商人が多いか」
「なんでだ」
「危ないって思ってる人が増えてるなら、何か理由があるかもしれないからです」
「聞いてみろ」
「はい」
エイルは地図を見た。
次の仕事は、まだ決まっていなかった。




