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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百五十四話 立つ場所


翌朝、エイルとガレスが牧場へ着くと、デリクはすでに来ていた。


昨日傷つけた左腕には、新しい布が巻かれている。


「どうだ」


ガレスが聞いた。


「少し痛む」


デリクは弓を持ち、ゆっくり弦を引いた。


途中で一度止める。


そのまま最後まで引き、戻した。


もう一度。


「使える」


「無理してないか?」


「これくらいならな」


ガレスはデリクの腕を見たあと、それ以上は言わなかった。


「途中で駄目になったら言え」


「ああ」


牧場主もやってくる。


昨日用意した羊の残りは、布に包まれて置かれていた。


「これでいいのか?」


「使える」


ガレスは森の方を見る。


「今日は奥まで追わない」


デリクが頷く。


「出てこなけりゃ?」


「今日はやらん」


牧場主が少し嫌そうな顔をしたが、何も言わなかった。


---


ガレスとデリクは、放牧地の端をもう一度歩いた。


エイルもついていく。


昨日も見た場所だったが、二人は森からの距離や木の位置を確かめながら何度か立ち止まった。


やがてガレスが足を止める。


「エイル」


「はい」


「お前はここだ」


示されたのは、牛舎の横だった。


森からはかなり離れている。


少し高くなっていて、放牧地の端まで見渡せた。


「ここで待つんですね」


「ああ」


ガレスは牛舎の裏を指した。


「何かあったら、まずこっちへ下がれ」


「牧場主たちも?」


「一緒にだ」


エイルは牛舎の裏まで歩いてみた。


そこからさらに村側へ抜けられる。


戻ってくる。


「森牙がこっちまで来たら?」


「逃げられるなら逃げろ」


「追いつかれそうなら?」


「その時は自分を守れ。剣でも魔法でも使え」


「はい」


「ただし」


ガレスがエイルを見る。


「俺たちを助けようとして前へ出るな」


エイルは頷いた。


「分かりました」


「俺かデリクが戻ってきても、すぐ近づくな。合図するまで待て」


「昨日と同じですね」


「ああ」


昨日は言われたことを守った。


今日も同じだった。


ただ、今回は待つ場所と逃げる方向まで決まっている。


---


羊の残りを置く場所を決めるのにも時間がかかった。


デリクが森側から見て首を振る。


「そこだと木が邪魔だ」


ガレスが包みを動かす。


「こっちは?」


「もう少し右」


「ここか」


デリクが自分の立つ場所へ移動する。


そこから餌を見る。


「それなら通る」


今度はガレスが森の方へ歩き、別の位置から確認した。


「逃げるなら向こうへ行くな」


「分かってる」


二人が何を気にしているのか、エイルにも少しずつ見えてきた。


デリクから餌までの間に、矢を邪魔するものがないか。


ガレスが森牙との間に入れるか。


逃げた森牙が牛のいる方へ向かわないか。


餌を置けば、それで終わりではなかった。


ようやく場所が決まる。


ガレスがエイルを見る。


「戻れ」


「はい」


エイルは牛舎へ向かった。


ガレスとデリクは別々に森の近くへ移動していった。


---


それからは、待つだけだった。


最初のうちはエイルも森をじっと見ていた。


だが、何も起きない。


風で草が揺れる。


鳥が飛ぶ。


牛が鳴く。


それだけだった。


牧場主の息子は途中で牛舎へ入り、仕事を始めた。


牧場主も柵を見に行く。


エイルは水を飲み、一度腰を下ろした。


それでも、ガレスに言われた場所から大きく離れなかった。


しばらくすると牧場主が戻ってくる。


「来ないな」


「ですね」


「いつまで待つんだ?」


「それはガレスさんたちが決めると思います」


「今日も何もなかったら困るんだがな」


エイルは森を見る。


「でも、出てこないものはどうしようもないですよ」


「そりゃそうだが」


牧場主はため息をついた。


エイルも少しだけ気持ちは分かった。


牛を一頭失っている。


森牙がいると分かっている。


金を払って人まで頼んだ。


それでも、すぐに片づくわけではない。


---


日が高くなってしばらくした頃だった。


森の方から鳥が何羽か飛び立った。


エイルが立ち上がる。


牧場主も気づいた。


「来たか?」


「まだ分かりません」


エイルは森を見る。


少しして、草が揺れた。


さっきの風とは違う。


何かが動いている。


「牛舎の近くにいてください」


エイルが言った。


牧場主が息子を呼ぶ。


三人が牛舎のそばへ集まった。


エイルは剣を抜かなかった。


森の端を見る。


やがて、茶灰色の頭が現れた。


森牙だった。


「……来た」


牧場主が小さく言う。


森牙はすぐには出てこない。


鼻先を動かしながら、辺りを見ている。


エイルは動かなかった。


森牙が一歩出る。


大きな身体が木々の間から現れた。


前に森の中で見た時より、ずっとよく見える。


太い前脚。


盛り上がった肩。


口元から覗く牙。


そして、その後ろ。


小さな影が動いた。


子だ。


親の後ろから少しだけ顔を出している。


エイルはガレスたちを探した。


見えない。


どこにいるのか分からなかった。


森牙が餌を見る。


一歩。


止まる。


また一歩。


長い時間をかけて、少しずつ近づいていく。


デリクは撃たない。


ガレスも出てこない。


エイルは自分の位置からそれを見ていた。


森牙がさらに進んだ。


その時だった。


親が急に顔を上げた。


鼻先が動く。


餌ではない方向を見る。


森の横。


しばらく動かなかった。


そして身体の向きを変えた。


子も親についていく。


二頭は、そのまま森の中へ消えた。


「……行ったぞ」


牧場主が言った。


エイルも見ていた。


だが動かなかった。


まだ合図がない。


しばらくして、森の別の場所からデリクが出てきた。


弓は手に持っている。


矢は放っていない。


デリクもすぐにはこちらへ来ず、森を見ている。


さらに遅れてガレスが出てきた。


二人で周囲を確認する。


やがてガレスがエイルたちへ手を上げた。


「もういいみたいです」


そこで初めて三人は牛舎から離れた。


---


「なんで撃たなかったんです?」


戻ってきたデリクに、エイルが聞いた。


「気づかれた」


「どこでです?」


「たぶん風だな」


デリクは森の方を見た。


「こっちの匂いを拾われた」


「それで戻ったんですね」


「ああ」


「でも、横向いた時なら撃てそうに見えました」


デリクが少し笑った。


「見えただけだ」


「届かなかった?」


「届く」


デリクは弓を軽く持ち上げる。


「当てるだけならな」


ガレスが続けた。


「半端に傷つけて森へ戻したくない」


エイルは森を見る。


「傷ついたまま逃げたら、また追わないといけない?」


「それもある」


「他にも?」


「警戒される」


デリクが答えた。


「次は今日みたいに出てこなくなるかもしれん」


「ああ……」


だから撃てるだけでは足りない。


仕留められるところまで来るのを待っていたのだ。


牧場主が近づいてくる。


「今日は終わりか?」


「いや」


ガレスが答えた。


「場所を変える」


「また待つのか?」


「ああ」


「今日中に倒せるのか?」


「それは分からん」


牧場主は不満そうだったが、今度は何も言わなかった。


---


ガレスとデリクは、森牙が出てきた場所へ向かった。


エイルも途中までついていく。


草には足跡が残っていた。


ガレスがしゃがむ。


デリクは森牙が顔を上げた辺りから、自分が隠れていた場所を見る。


「やっぱり俺だな」


「風か?」


「たぶん」


ガレスが草を一本ちぎり、手から落とした。


風に流される。


デリクがそれを見る。


「少し変わったな」


「ああ」


二人は次に隠れる場所を探し始めた。


エイルも周囲を見る。


さっきまで自分には、森牙が出てきて、途中で帰ったようにしか見えなかった。


二人はその中から、何に気づかれたのかまで探している。


「エイル」


ガレスが呼んだ。


「はい」


「お前も場所を変える」


「どこです?」


ガレスが少し離れた柵の近くを指した。


「次はあそこだ」


エイルは森との位置を確認した。


その後ろには物置がある。


「何かあったら物置の裏?」


「ああ。そこから村側へ抜けろ」


「分かりました」


ガレスはそれだけ確認すると、デリクの方へ戻った。


エイルも自分の新しい場所へ向かう。


今は、言われた場所に立つ。


それが今日のエイルの仕事だった。


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