第百五十話 もう一人
牧場主との話を終えると、ガレスは村へ戻った。
エイルもついていく。
「誰を探すんです?」
「まず、ここで動ける奴がいるか聞く」
「昨日の山羊の人とか?」
「違う」
「ですよね」
ガレスは村の中心へ向かった。
最初に入ったのは、小さな食料品店だった。
干した豆や塩、油などが棚に並んでいる。
ガレスは店の女に聞いた。
「この辺で猟をしてる奴は?」
「何人かいるよ」
「大きい獣を追える奴」
女は少し考えた。
「それならデリクかな」
「どこにいる?」
「今日は森じゃないかな。朝から弓持って出てったよ」
「戻るのは?」
「日暮れ前じゃない?」
ガレスは礼を言って店を出た。
「待ちます?」
エイルが聞く。
「他も聞く」
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次に向かったのは、村の外れにある畑だった。
そこで働いていた男にも同じことを聞く。
「デリクなら腕はいいぞ」
「他には?」
「大きい獣なら……ボーマンもやるな」
「今いるか?」
「いない。二日前に荷の護衛で東へ行った」
一人は森。
一人は別の仕事。
ガレスはそれだけ確認して村へ戻った。
「ガレスさんの知り合いじゃないんですね」
「ああ」
「知らない人と一緒に魔物を狩ることもあるんですか?」
「ある」
「腕が分からなくないです?」
「だから聞いてる」
ガレスは歩きながら、もう一人の村人を捕まえた。
デリクについて聞く。
返ってきたのは、
「鹿ならよく獲る」
という答えだった。
別の男は、
「猪もやる」
と言った。
さらに別の老人は、
「森牙は知らんな」
と首を振った。
三人に聞いて、少しずつ分かってきた。
「鹿と猪はできる。でも森牙をやったことがあるかは分からない」
エイルが言う。
「ああ」
「それでも頼むんですか?」
「会ってからだ」
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デリクを待つ間、ガレスは別の仕事を探した。
エイルは少し驚いた。
「今日も?」
「戻るまで何するんだ」
「待つのかと」
「金になるなら働く」
結局、村の端で薪を移す仕事が見つかった。
大きな仕事ではない。
家の裏に積んであった薪を、雨の入りにくい小屋へ運ぶ。
ガレスとエイル、それに家の男の三人で始めた。
エイルは何度も薪を抱えて往復した。
身体強化を使えば一度に多く持てる。
ただ、昨日の石運びの疲れがまだ残っていた。
「痛っ」
薪を持ち上げた時、腕に張りを感じた。
ガレスが見る。
「どうした」
「昨日のが残ってます」
「減らせ」
「持つ量?」
「ああ」
エイルは抱えていた薪を何本か戻した。
「身体強化すれば持てますけど」
「持てるのと、一日続くのは別だ」
「はい」
その言葉には覚えがあった。
以前、農作業をした時にも似たことを聞いた。
エイルは少し量を減らして運んだ。
その方が、最後まで速さは落ちなかった。
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昼を過ぎた頃には、薪はほとんど移し終わった。
家の男から二人分の賃金を受け取る。
少額だったが、昼食代くらいにはなる。
「まだ戻ってないですかね」
エイルが言った。
「見に行くか」
二人は村へ戻った。
食料品店の前まで来たところで、弓を背負った男が歩いているのが見えた。
三十代くらい。
背はそれほど高くない。
腰には短い刃物があり、肩から小さな獲物を下げている。
店の女がその男を指した。
「ちょうど戻ったよ。デリク」
ガレスが声をかけた。
「少しいいか」
男が足を止める。
「何だ?」
「森牙をやったことは?」
いきなりだった。
デリクが眉を寄せる。
「ある」
「何頭」
「二頭」
「一人で?」
「まさか」
デリクは笑った。
「一頭は三人。もう一頭は四人だ」
ガレスが続ける。
「追ったのか、待ったのか」
「最初は追った。見失って、翌日に餌場で待った」
「仕留めたのは?」
「俺じゃない」
「何をした」
「弓。あと追い込み」
ガレスは少し考えた。
デリクもガレスを見る。
「何なんだ。仕事か?」
「ああ」
そこで初めて、ガレスは牧場の話をした。
牛一頭。
消えた山羊。
大きな足跡。
森の中で見つけた、小さな足跡。
デリクの表情が変わった。
「子連れか?」
「可能性がある」
「面倒だな」
「ああ」
「いくら出る?」
ガレスが金額を伝える。
デリクはすぐには返事をしなかった。
「二人で割るのか?」
「討伐まで行けばな」
「そこの坊主は?」
デリクがエイルを見る。
「調査についてきてる」
「戦えるのか?」
「まだ数には入れん」
本人の前で普通に言われた。
エイルももう反論しなかった。
デリクはエイルを一度見ただけで、ガレスへ戻る。
「子供まで倒すのか?」
「まだ決めてない」
「親だけなら?」
「それも現場を見てからだ」
デリクは顎をかいた。
「明日の朝、足跡を見せろ」
「それでいい」
話が決まった。
⸻
デリクと別れたあと、エイルはガレスに聞いた。
「今ので分かるんですか?」
「何が」
「デリクさんが大丈夫かどうか」
「全部は分からん」
「じゃあ、明日一緒に行ってから?」
「ああ」
「森牙を二回やったって言ってましたよ」
「言ったな」
「それだけじゃ足りない?」
ガレスは少し考えた。
「二回やった奴と、二回やったと言う奴は同じじゃない」
エイルは思わずデリクが去った方を見る。
「嘘ついてるってことですか?」
「そうは言ってない」
「じゃあ?」
「明日見ればいい」
ガレスはそれ以上説明しなかった。
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その日は村の宿に泊まった。
夕食のあと、エイルは自分の剣を確認していた。
ガレスは向かいで靴の泥を落としている。
「明日も俺、森に入るんですよね」
「ああ」
「デリクさんもいる」
「ああ」
「じゃあ、三人ですね」
ガレスの手が止まる。
「調査はな」
「分かってます」
エイルは笑った。
「戦う時は二人」
「今のところはな」
「もし俺のところに来たら?」
「逃げろ」
「それでも来たら?」
「避けろ」
「避けられなかったら?」
ガレスが顔を上げた。
「その時は剣でも魔法でも使え」
エイルもガレスを見る。
「使っていいんですね」
「死ぬよりはいい」
「そりゃそうですよね」
「ただし」
ガレスは続けた。
「自分からその状況を作るな」
エイルは頷いた。
「はい」
翌朝は、三人で森へ入ることになった。




