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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百四十八話 いなくなった山羊


教えられた家は、村の南側にあった。


家の裏には小さな畑があり、その向こうに山羊を囲う柵が見える。


ガレスが声をかけると、年配の男が出てきた。


「山羊が一頭いなくなったと聞いた」


「ああ」


「いつだ?」


「六日くらい前だな」


牛が死んだのは四日前だった。


「どこからいなくなった?」


「裏の柵だ」


「夜か?」


「たぶんな。朝になったらいなかった」


男に案内され、三人で柵へ向かう。


中には二頭の山羊がいた。


「柵は壊れてたか?」


「いや」


「血は?」


「見てないな」


「毛は?」


「そこまでは分からん」


ガレスは柵の周囲を歩いた。


エイルも後ろから見る。


六日前のことだ。


地面には人や山羊の足跡が重なり、何があったのかほとんど残っていない。


「探しました?」


エイルが聞いた。


「ああ。息子と森の手前までな」


「見つからなかった?」


「何も」


ガレスが柵を見る。


「山羊が自分で越えることは?」


「ないとは言えんな」


「前にも逃げた?」


「一度ある。そん時は隣の畑にいた」


男は肩をすくめた。


「今回も最初は逃げたと思ったんだがな」


「誰かに探すのを頼んだか?」


「いや」


男は残った二頭を見る。


「山羊一頭を探すのに金を払って、何日も山へ入ってもらうわけにもいかん」


ガレスは頷いた。


⸻


家の裏から森までは近かった。


ガレスは柵の外を回り、そのまま森の方へ歩いていく。


「来い」


今度は最初からエイルにも声がかかった。


エイルは少しだけ嬉しくなったが、そのまま後ろについた。


地面を見る。


柵の周り。


畑との境目。


森へ続く草地。


自分でも探してみるが、どれが六日前のものなのか分からない。


ガレスは急がなかった。


途中で何度かしゃがみ、また歩く。


やがて足を止めた。


「エイル」


「はい」


「そこから右へ回れ」


エイルは足元を見た。


自分が進もうとしていた先に、倒れた草が続いている。


「あ」


「踏むな」


「はい」


横から回り込む。


草の根元に、白っぽい毛が何本か引っかかっていた。


「山羊ですか?」


「たぶんな」


ガレスは一本だけ取った。


近くの枝にも同じ色の毛が残っている。


森の方へ続いていた。


二人は少し先まで進む。


ガレスがまた止まった。


今度は土の柔らかい場所だった。


そこに大きな足跡が一つ残っている。


エイルもしゃがんだ。


昨日、牛の死骸の近くで見たものに似ていた。


「同じですか?」


「大きさは近い」


「向きは?」


「森の方だ」


エイルは白い毛と足跡を見る。


「山羊を追って入ったのかな」


「逆かもしれん」


「逆?」


「先に何かが来て、山羊が逃げた」


「ああ……」


「どっちかは、これじゃ分からん」


ガレスは立ち上がった。


「戻るぞ」


「追わないんですか?」


「六日前の跡だぞ」


「そうか」


エイルも立ち上がる。


今までなら、足跡が見つかればそのまま追うものだと思っていた。


実際には、古すぎる跡を追って森へ入っても、何も見つからないことの方が多いのかもしれない。


⸻


家へ戻ると、ガレスは男に見つけたものを伝えた。


「山羊の毛らしいものはあった。森の方へ続いてる」


「食われたか?」


「そこまでは分からん。ただ、近くに大きな獣の跡もある」


男の顔が曇った。


「魔物か?」


「その可能性はある」


「山羊はもう駄目だろうな」


ガレスは少し間を置いた。


「六日経ってる」


男は息を吐いた。


「だよな」


「残ってる二頭は、しばらく夜に外へ置かない方がいい」


「ああ。そうする」


ガレスはそこで、近くの牧場で牛も一頭死んでいたことを話した。


男の顔が変わる。


「知らなかった」


「同じものがやったなら、この辺にまだいるかもしれん」


「それは困るな」


「だから調べてる」


男はしばらく考えたあと、家の中へ戻った。


何か払うのかとエイルは思ったが、男は縄を持って出てきただけだった。


残った山羊を、夜は家の近くへ繋ぐつもりらしい。


二人はそのまま家を離れた。


⸻


「今の人からは、お金もらわないんですね」


歩きながらエイルが聞いた。


「あの男に雇われたわけじゃない」


「でも調べましたよね」


「俺が必要だったからな」


「牛の方を調べるために?」


「ああ」


エイルは少し考えた。


「こういうのって、どこからが仕事なんです?」


ガレスが横を見る。


「どういう意味だ」


「牧場主には調査を頼まれた。でも山羊の人には頼まれてない。だけど山羊を調べないと、牛のことも分からない」


「そういう時はある」


「その分も牧場主からもらう?」


「話をして決める」


「払わないって言われたら?」


「そこで終わるか、こっちが飲むかだ」


「こっちが飲むこともあるんですか?」


「一軒隣まで話を聞きに行くたびに金を取ってたら、話が進まん」


エイルは笑った。


「それはそうですね」


「ただ、何日も歩くなら別だ」


その境目も、決まりがあるわけではないらしい。


⸻


牧場へ戻ると、牧場主は牛舎の前にいた。


ガレスが山羊の話をすると、男の表情が険しくなる。


「牛だけじゃないのか」


「同じ奴ならな」


「森牙なんだろ?」


「可能性は高くなった」


今度はガレスも、前よりはっきり言った。


「足跡の大きさは近い。山羊が消えた場所も森のそばだ」


「だったら頼む。倒してくれ」


「先に条件を決める」


ガレスは牧場主と話し始めた。


ここまでの調査。


これから森へ入って確かめる分。


森牙だと判断して討伐する場合の報酬。


もう一人必要になった場合の取り分。


話を聞いていた牧場主が、途中で顔をしかめた。


「結構するな」


「森牙なら安くは受けん」


「一人じゃ駄目なのか?」


「状況を見て決める」


「お前なら倒せるんだろ?」


「倒したことはある」


「なら――」


「同じ場所で、同じ条件ならな」


牧場主が口を閉じた。


少しして、二人の話がまとまった。


まずは森の中を調べる。


そこで討伐が必要だと判断したら、改めて決める。


⸻


牧場主と別れたあと、ガレスは水筒を確認した。


エイルも自分の荷物を見る。


「明日、森に入る」


ガレスが言った。


「はい」


「お前も来い」


エイルが顔を上げた。


「いいんですか?」


「入口で待たせるなら、ここまで連れてきた意味がない」


エイルは思わず笑った。


「じゃあ、俺も手伝える?」


「調査だけだ」


「はい」


「戦うことになったら、俺が指示する」


「分かりました」


「勝手に追うな。勝手に術を撃つな。俺より前に出るな」


「はい」


ガレスはエイルを見る。


「逃げろと言ったら?」


「逃げます」


「本当に?」


「そこ疑います?」


「十五くらいの奴は、そこで余計なことするのがいる」


「俺はしませんよ」


「ならいい」


ガレスは荷物を閉じた。


「それと、明日は剣だけ持ってくるな」


「魔法も使うから?」


「違う」


ガレスは自分の水筒を持ち上げた。


「水と飯を忘れるな」


エイルは自分の荷物を見た。


「それは忘れません」


「なら寝ろ」


「まだ昼ですよ」


ガレスは空を見上げた。


「そうだったな」


「疲れてます?」


「石運びの次の日だからな」


エイルは笑った。


ガレスも荷物を肩にかける。


森へ入るのは、翌朝だった。

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