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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百四十四話 林の手前


ガレスが林へ入ってから、しばらく経った。


エイルは農場に残り、柵の修理を手伝っていた。


最後の杭を打ち終えたところで、農場の男が腰を伸ばす。


「これで猪くらいなら、少しはましだろ」


「下のところ、もう少し塞ぎます?」


「いや。全部やってたら日が暮れる」


男は道具を片づけ始めた。


エイルも手についた土を払う。


林の方を見る。


まだガレスは戻ってこない。


「気になるか?」


「そりゃ気になります」


「追いかけないんだな」


「行くなって言われましたから」


「真面目だな」


「勝手に入って怪我したら、怒られるだけじゃ済まないですし」


農場の男が笑った。


「そこは分かってるのか」


「それくらいは」


エイルも笑った。


⸻


ガレスが戻ってきたのは、日が高くなってからだった。


服に枝葉がついている。


怪我はない。


「どうでした?」


「跡はあった」


ガレスは水筒を取り出した。


「昨日のと同じ?」


「たぶんな」


「何だったんです?」


「まだ見てない」


エイルは少し肩を落とした。


「また分からないんですね」


「足跡だけで全部分かったら楽なんだがな」


ガレスは水を飲んだ。


農場の男も近づいてくる。


「どこまで行った?」


「林の中に古い獣道がある。そこを使ってる」


「巣は?」


「見つけてない」


「じゃあ、どうする?」


ガレスは少し考えた。


「もう一度入る」


農場の男が林を見る。


「今日中に終わるか?」


「分からん」


「また金がかかるのか?」


「かかる」


男の顔が曇った。


「昨日から結構払ってるぞ」


「だから決めてくれ」


ガレスは淡々としている。


「ここで終わるなら、昨日と今日の調査分まで。続きをやるなら、その分を決める」


「でもまだ何も倒してないだろ」


「そうだな」


「鶏三羽だぞ」


ガレスは答えなかった。


農場の男も黙る。


エイルは二人を見ていた。


やがて男が頭をかいた。


「……もう少し安くならんか」


「どこまでやる?」


「正体を見つけてほしい」


「見つけるだけ?」


「危ない魔物なら倒してほしい」


「それは別にする」


「また別か」


「見つけたものによって変わる。俺一人でやれるとも限らん」


農場の男は大きく息を吐いた。


しばらく話した末、今日もう一度林を調べる分だけ頼むことになった。


何かを見つけたら、その時点で改めて相談する。


⸻


ガレスは荷物を確認した。


水。


短い縄。


布。


小さな袋。


剣。


エイルは少し離れて見ていた。


「ガレスさん」


「なんだ」


「俺はここで待ってればいいですか?」


「ああ」


エイルは頷いた。


それだけ聞いて、農場の方へ戻ろうとする。


「エイル」


呼ばれて振り返った。


ガレスが見ている。


「荷物は?」


「ありますけど」


「水は」


「あります」


「飯」


「あります」


「剣」


エイルは腰を見る。


「あります」


「森を歩いたことは?」


「あります。学校の実習でも、村でも」


「魔物がいる森は?」


エイルは少し考えた。


「いるかもしれない森なら」


「それはどこでも同じだ」


「じゃあ、ちゃんといると分かってる森は……学校の実習くらいです」


ガレスはエイルの靴を見る。


次に背負い袋。


「昨日、俺が止まれと言った時は止まったな」


「はい」


「さっきも勝手に入ってこなかった」


「はい」


「足跡は踏むな」


「はい」


「俺より前に出るな」


エイルは一瞬、返事が遅れた。


「……行っていいんですか?」


「林の入口から少しだけだ」


エイルの顔が明るくなる。


「はい」


「喜ぶな」


「いや、でも」


「遊びじゃない」


「分かってます」


ガレスは農場の男を見る。


「こいつも連れていく。金はいらん」


「好きにしてくれ」


農場の男はもう疲れたような顔をしていた。


⸻


林へ入ると、すぐに歩きにくくなった。


道らしい道はない。


ガレスは枝を避けながら進む。


エイルも同じところを通った。


「そこ」


ガレスが止まる。


エイルも足を止めた。


目の前には、何もないように見える。


「何です?」


「下」


落ち葉の間に薄い窪みがあった。


「足跡?」


「ああ」


エイルは横から見る。


昨日のような柔らかい土ではない。


これを足跡と言われても、自分だけなら気づかなかったと思う。


ガレスが進む。


エイルもついていく。


しばらくすると、また止まった。


今度は低い枝だった。


灰色の毛が一本引っかかっている。


「これ、朝のと同じですか?」


「似てる」


ガレスは周囲を見る。


「ここから先は獣道だ」


エイルにもようやく分かった。


草が少し倒れている。


何かが繰り返し通ったような細い筋が、林の奥へ続いていた。


ガレスはそこへ入る。


エイルも続こうとした。


「待て」


すぐに止まる。


ガレスがしゃがんだ。


しばらく地面を見てから、手招きした。


「ここまで」


エイルが近づく。


ガレスの指した先に、足跡があった。


一つではない。


「二匹?」


エイルが聞く。


「少なくともな」


大きな跡と、それより少し小さな跡。


同じ方向へ続いている。


「昨日、農場に来たのは?」


「どっちかは分からん」


「両方かも?」


「それもある」


ガレスは立ち上がった。


そして、来た道を見る。


「戻るぞ」


エイルは思わず林の奥を見た。


「もう?」


「ああ」


「まだ入ったばかりですよ」


「二匹いることが分かった」


「でも何なのかは――」


「分からん」


ガレスは歩き始めた。


エイルも慌てて追う。


「だから戻る」


「正体を見つけるって仕事ですよね?」


「二匹いると分かる前に決めた仕事だ」


エイルは少し考えた。


「あ」


ガレスが振り返る。


「一匹だと思って進むのと、二匹いると分かって進むのは同じか?」


「違います」


「なら、一回戻る」


それ以上は言わなかった。


⸻


林を出る。


農場の男がすぐに寄ってきた。


「見つけたか?」


「二匹いる」


「二匹?」


男の顔が変わる。


「何が?」


「まだ分からん」


「またそれか」


「だから相談する」


ガレスは農場の男の前に立った。


「ここから先は、さっきの金ではやらん」


「二匹になったから?」


「それもある」


「払えば行くのか?」


ガレスはすぐには答えなかった。


「もう一人欲しい」


「誰か呼ぶのか?」


「ああ」


農場の男が困った顔をする。


「また金が増えるじゃないか」


「増える」


「鶏三羽だぞ」


「知ってる」


「だったら――」


男はそこで止まった。


ガレスも何も言わない。


エイルは二人の間で黙っていた。


しばらくして、農場の男が林を見る。


「……今日は、もういい」


「分かった」


ガレスはあっさり答えた。


「え?」


エイルが思わず声を出した。


ガレスがこちらを見る。


「何だ」


「終わるんですか?」


「依頼主が終わりと言った」


「でも、何かいるんですよね?」


「いるな」


「二匹」


「ああ」


ガレスは荷物を背負い直した。


「それと、俺がただで林に入るかは別の話だ」


農場の男は、修理したばかりの鶏小屋を見ていた。

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