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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百四十三話 残った跡


空が明るくなり始めると、ガレスはエイルを呼んだ。


「見るぞ」


二人で納屋を出る。


農場の男も起きてきた。


「結局、あれから何もなかったのか?」


「ああ」


ガレスは鶏小屋へ向かった。


昨夜の猪が残した跡は、まだはっきり残っている。


だがガレスが見ているのは、そこではなかった。


小屋の裏を通り、そのまま畑の端へ向かう。


エイルもついていった。


「昨日の犬みたいな跡を探すんですか?」


「ああ」


「猪とは別だったから?」


「それもある」


ガレスは地面を見ながら歩く。


やがて柵の近くで止まった。


「昨日、ここを見たの覚えてるか」


「はい」


エイルもしゃがんだ。


昨日は崩れた跡がいくつかあった場所だ。


今朝は違う。


夜露で湿った土に、新しい足跡が残っていた。


エイルにも分かる。


「猪じゃないですね」


「ああ」


犬に似ている。


ただし大きい。


昨日見つけたものとよく似ていた。


ガレスは足跡の横へ手を置き、大きさを見る。


それから周囲を確認した。


「こっちから来てる」


跡は林の方から続いていた。


「昨夜、来てたってことですか?」


「たぶんな」


「でも見てないですよね」


「鶏小屋までは来てない」


足跡は柵の近くで向きを変え、そのまま林の方へ戻っていた。


ガレスは少し先まで確認したが、林には入らなかった。


⸻


「どうする?」


農場の男が聞いた。


「もう一晩待つのか?」


「その前に聞きたい」


ガレスは足跡から顔を上げた。


「この辺りで犬がいなくなってないか?」


「犬?」


「野犬でもいい。大きいやつだ」


農場の男は首をひねった。


「知らんな」


「近くの家は?」


「何軒かある」


「聞いてくる」


「俺も行くか?」


「いや。昨日の板を直してくれ」


「直していいのか?」


「ああ。鶏は守っとけ」


昨日とは逆だった。


エイルはそれに気づいた。


「今日は入らせないんですね」


歩き出してから聞く。


「もう跡は取れた」


「なるほど」


「鶏をもう一羽使う理由がない」


⸻


近くの農家を何軒か回った。


一軒目では何も知らない。


二軒目も同じ。


三軒目で、老人が少し考えた。


「大きい犬なら、北の牧場にいたぞ」


「飼い犬?」


「そうだ。黒っぽいやつ」


「今もいる?」


「さあな。最近見てないな」


ガレスは牧場の場所を聞いた。


農場から歩いてそれほど遠くない。


二人はそのまま向かった。


⸻


牧場では若い男が羊の世話をしていた。


ガレスが犬について聞くと、男の表情が変わった。


「ボルのことか?」


「大きな黒い犬」


「ああ」


「いなくなった?」


「半月くらい前から戻ってない」


エイルとガレスが顔を見合わせる。


「逃げたのか?」


「分からん。夜に放して、朝になっても戻らなかった」


「普段から放してた?」


「牧場の周りだけな。勝手に遠くへ行くような犬じゃなかった」


「探した?」


「二日くらいは探した。見つからなかった」


ガレスが犬の大きさや毛の色を聞く。


男は腰のあたりを示した。


かなり大きい。


「足を見たら分かるか?」


「足?」


「跡だ。残ってないか」


男は少し考えてから、犬を繋いでいた小屋へ案内した。


地面は踏み固められていた。


古い足跡はほとんど残っていない。


ただ、小屋の中に使っていた敷物があった。


黒い毛が何本もついている。


ガレスは一本取った。


昨日、鶏小屋の近くで拾った毛とは違う。


「違いますね」


エイルが言う。


「ああ」


ガレスはすぐに毛を戻した。


「じゃあ、ボルじゃない?」


牧場の男が聞く。


「昨日の農場に来た奴とは違うと思う」


男は少し安心したような、残念なような顔をした。


「そうか」


「見つけたら知らせる」


「ああ。頼む」


ガレスはそれ以上聞かなかった。


⸻


農場へ戻る途中、エイルが口を開いた。


「外れましたね」


「何が」


「犬です」


「別の犬だっただけだ」


「結構歩いたのに」


「そうだな」


ガレスは普通に歩いている。


エイルは少し考えた。


「こういうの、多いんですか?」


「多い」


「聞いて、歩いて、違ったっていうの」


「ああ」


「その時間も仕事?」


「今回はな」


「依頼を受けて調べてるから?」


ガレスが頷いた。


「勝手に追いかけてたら?」


「誰も払わん」


エイルにはよく分かる話だった。


ガレスを探していた時も、似たようなことを何度もやった。


違うのは、今のガレスには依頼主がいることだった。


⸻


農場へ戻ると、鶏小屋の板は直されていた。


ガレスは農場の男に、牧場の犬は違ったことを伝える。


「じゃあ結局、何なんだ?」


「まだ分からん」


男は困った顔をした。


「また待つのか?」


ガレスはすぐには答えなかった。


昨日と今朝の足跡。


鶏小屋。


畑。


林。


それぞれを見渡す。


「一度、林の入口まで見る」


エイルが顔を上げた。


ガレスはそれに気づいた。


「お前は農場に残れ」


「はい」


エイルは素直に答えた。


ガレスが少しだけ意外そうに見る。


「何です?」


「いや」


「昨日言われましたから。森には入らないって」


「覚えてたならいい」


ガレスは農場の男に声をかけ、林へ向かった。


⸻


エイルは鶏小屋の近くで待った。


することがない。


剣を振るわけにもいかないので、壊れた柵を直していた農場の男を少し手伝った。


板を運び、杭を押さえる。


身体強化を使えば重い木も運びやすい。


「学校出たんだったな」


作業をしながら男が聞いた。


「はい」


「それで、なんでこんなことしてるんだ?」


「こんなこと?」


「金にもならんのに、あの男について歩いてる」


エイルは杭を支えたまま考えた。


「見たかったんです」


「何を?」


「魔物を狩って暮らす人が、普段どうやって仕事してるのか」


男が笑った。


「昨日から待ってばっかりじゃないか」


「そうなんですよ」


エイルも笑った。


「思ってたより、全然狩らないです」


⸻


しばらくして、ガレスが戻ってきた。


何かを持っている。


細い枝だった。


先端近くに、少量の毛が絡んでいる。


「ありました?」


エイルが聞く。


「あった」


ガレスは農場の男にも見せた。


灰色がかった毛。


昨日、柵で見つけた猪のものとは明らかに違う。


「何の毛だ?」


「これだけじゃ決められん」


ガレスは答えた。


「ただ、足跡の先にあった」


「魔物か?」


農場の男がまた聞く。


ガレスは毛を包みながら言った。


「可能性は上がった」


初めて少しだけ答えが変わった。


「それで?」


「もう少し見る」


「林を?」


「ああ」


農場の男がエイルを見る。


「こいつも?」


ガレスもエイルを見る。


少し考えてから首を振った。


「今日はまだ連れていかん」


「分かりました」


エイルは答えた。


ガレスはそれ以上何も言わなかった。


林の奥に何がいるのか。


まだ誰にも分かっていなかった。

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