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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百四十一話 鶏小屋の跡


翌朝、二人は宿で簡単に腹を満たしてから村を出た。


西の農場までは、それほど遠くないらしい。


ガレスは街道を外れ、畑の間を通る細い道へ入った。


「昨日言ったこと、覚えてるか」


「勝手なことをしない。危ないと言われたら離れる」


「ああ」


「今日は話を聞くだけですよね?」


「まずはな」


二人はそのまま農場へ向かった。


⸻


農場には母屋のほかに、納屋と家畜小屋がいくつかあった。


牛。


羊。


少し離れたところに鶏小屋。


近づくと、五十ほどの男が待っていた。


「ガレスか?」


「ああ」


「そっちは?」


男がエイルを見る。


「ついてきただけだ」


ガレスが答える。


エイルも頭を下げた。


「エイルです」


「手伝いか?」


「まだ違います」


農場の男は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。


ガレスはすぐに仕事の話へ移った。


「被害は鶏が三羽?」


「ああ」


「一度に?」


「最初に一羽。その次の日に二羽だ」


「昨夜は?」


「何もなかった」


「見たのは?」


「二度目の夜だ。音がして外に出たら、向こうを何かが走っていった」


男が畑の端を指す。


「大きさは?」


「犬より大きかったと思う」


「色は?」


「暗くて分からん」


「鳴き声は?」


「聞いてない」


ガレスは一つずつ聞いていく。


エイルは横で黙って聞いていた。


学校の実習でも、現場へ着いてすぐ動くなとは教わった。


ただ、ガレスが聞いているのは魔物の特徴だけではなかった。


「鶏は普段どこにいる?」


「夜は小屋だ」


「戸は閉めてたか?」


「閉めてた」


「壊された?」


「いや」


そこでガレスが鶏小屋を見る。


「見せてくれ」


⸻


戸は壊れていなかった。


ガレスはしゃがみ込み、留め具を見る。


そのあと、小屋の横へ回った。


エイルも少し離れてついていく。


板の一枚が浮いていた。


「これ、前からか?」


「いや……どうだったかな」


農場の男もしゃがむ。


ガレスは板に触れず、その下を見る。


土が少し掘れている。


羽も落ちていた。


「ここから入った?」


エイルが聞く。


「たぶんな」


ガレスは周囲を見る。


「足跡は?」


農場の男が小屋の裏へ案内した。


「昨日まではもっと残ってたんだが」


地面にはいくつか跡がある。


人。


鶏。


犬らしいもの。


他にも形の崩れた跡が混じっていた。


ガレスはしばらく見ていた。


エイルも横から見る。


学校で動物の足跡をいくつか習ったことはある。


ただ、泥が崩れた跡から種類を判断できるほどではない。


「分かります?」


「まだ」


ガレスは場所を変えた。


小屋の裏から畑の端まで歩く。


何度かしゃがみ、また歩く。


エイルは後ろからついていった。


やがてガレスが止まった。


「これ」


エイルも見る。


柔らかい土に、一つだけ比較的きれいな跡が残っていた。


「犬……ですか?」


「似てる」


「違う?」


「少し大きい」


ガレスは自分の指を横に置いて幅を見た。


「爪も長い」


農場の男が聞く。


「魔物か?」


「まだ分からん」


昨日と同じ答えだった。


⸻


次にガレスは柵を見た。


畑の外側を囲う簡単な木柵だ。


一か所、下に毛が引っかかっている。


ガレスが摘まむ。


茶色がかった硬い毛だった。


「猪?」


エイルが聞く。


「かもしれん」


「でも鶏を?」


「食うことはある」


「じゃあ足跡は?」


「別かもしれん」


エイルは黙った。


また二種類。


炭焼き小屋と似ている。


一つの被害に、一つの原因があるとは限らない。


ガレスは農場の男へ向き直った。


「犬は飼ってるか?」


「ああ」


「どこだ」


母屋の裏から、一匹の大きな犬が出てきた。


繋がれている。


エイルは足を見る。


さっきの跡より小さい。


「夜も繋いでる?」


「ああ」


ガレスは犬の足も確認した。


「こいつじゃない」


農場の男が少し安心した顔をする。


「じゃあ、やっぱり魔物か?」


「だからまだ分からん」


「いつ分かる?」


「跡が残れば」


ガレスは鶏小屋へ戻った。


「今夜、鶏はここへ入れるのか?」


「ああ」


「板は直すな」


「え?」


「今夜だけだ」


男の顔が曇る。


「また取られたらどうする」


「それも含めて話をする」


⸻


三人は母屋の前へ戻った。


そこで初めて、ガレスは金の話をした。


今日の調査分。


夜まで残って確認する場合の分。


何かが現れ、それを狩る必要が出た場合は別。


農場の男は金額を聞いて腕を組んだ。


「高いな」


「なら今日はここまででもいい」


「ここまで?」


「跡を見た分だけもらって帰る」


「それじゃ何も解決してないだろ」


「だから続きを頼むなら、その分が要る」


農場の男はしばらく黙った。


「魔物じゃなかったら?」


「夜まで見る分は同じだ」


「何も来なかったら?」


「同じだ」


「何もしてないじゃないか」


ガレスは農場を見回した。


「ここで待ってる」


「待つだけだろ?」


「ああ」


農場の男は納得していない顔だった。


エイルも少し分かる気がした。


何かを倒せば、金を払う理由は見える。


だが、一晩待って何も出なかったら、払う側には何も残らない。


「少しまけられないか?」


農場の男が聞く。


ガレスは少し考えた。


「飯を出すなら、その分は下げる」


「二人分か?」


「一人分だ」


ガレスがエイルを見る。


「こいつは仕事じゃない」


エイルも頷いた。


「俺の分は自分で払います」


農場の男がエイルを見る。


「じゃあ、お前は何しに来たんだ?」


「見に来ました」


「金にもならんのに?」


「はい」


男はますます不思議そうな顔をした。


⸻


結局、ガレスは夜まで残ることになった。


農場の男が母屋へ戻ってから、エイルが聞く。


「何も来なかったら、本当に待つだけですか?」


「ああ」


「それでも同じ金?」


「俺の一日がなくなる」


エイルは少し考える。


「でも、頼む側からしたら払いたくないですよね」


「だから最初に決める」


ガレスは鶏小屋の方を見た。


「嫌なら頼まなければいい」


「それで仕事なくなったりしません?」


「する」


「じゃあ安くした方が――」


「安くすれば仕事は取れる」


「ですよね」


「その金で宿と飯と薬と道具が払えるならな」


エイルは口を閉じた。


ガレスは腰の袋から小さな布を出し、さっき拾った毛を包んだ。


「今日は俺が払うものは少ない。ここまで近かったし、飯も出る」


「遠かったら?」


「もっと欲しい」


「依頼する人が払えなかったら?」


「受けられんこともある」


「危なくても?」


ガレスはエイルを見る。


「俺がただで全部片づけてたら、俺が先に食えなくなる」


エイルは何も言わなかった。


ガレスは立ち上がった。


「日が落ちる前に、もう一回周りを見るぞ」


「俺も?」


「見るだけなら来い」


エイルも立ち上がった。


今夜、何かが来るかはまだ分からない。


それでもガレスの仕事は、もう始まっていた。

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