第百四十話 次の仕事
まだ空が暗いうちに、エイルは宿を出た。
ガレスはすでに外にいた。
背負い袋を背負い、剣を腰に下げている。
「おはようございます」
「ああ」
「早いですね」
「昨日言っただろ」
「言ってましたけど、本当に暗いうちなんですね」
ガレスは歩き始めた。
エイルもその隣へ並ぶ。
村を出る頃、東の空が少しずつ明るくなり始めた。
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二人は南へ向かった。
昨日までとは違って、今日は急ぐ理由がない。
それでもガレスの歩く速度は速かった。
「次の仕事、どこで探すんです?」
エイルが聞いた。
「途中の村で聞く」
「誰に?」
「人に」
「それは分かります」
ガレスが横を見る。
「宿。農家。猟師。商人。知ってる奴がいればそいつにも聞く」
エイルはこれまで自分がやってきたことを思い出した。
あまり変わらない。
「ガレスさんくらい長くやってても、同じなんですね」
「何が」
「仕事の探し方です」
「他に何がある」
「もっと知り合いから仕事が来るのかと思ってました」
「来ることもある」
「今回は?」
「ない」
ガレスは淡々と答えた。
「だから探す」
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日が昇ってしばらくした頃、道沿いの小さな集落へ着いた。
ガレスはまず、畑で柵を直していた男に声をかけた。
「最近、獣か魔物の被害は?」
「うちじゃないな」
「近くは?」
「東の方で羊が減ったって聞いたが、いつだったかな」
それだけ聞くと、ガレスは礼を言って離れた。
次は井戸の近くにいた女。
その次は荷車を直していた男。
話は少しずつ違った。
羊が一頭。
いや二頭。
東ではなく南。
先月だったという者もいれば、数日前だという者もいる。
集落を出てから、エイルが聞いた。
「行かないんですか?」
「どこへ」
「羊が減ったところです」
「場所も日も分からん」
「もう少し聞けば分かるかもしれませんよ」
「誰に?」
エイルは少し考えた。
「羊を飼ってる人」
「それはそうだな」
ガレスが足を止めた。
「じゃあ探すか」
「え?」
「聞きたいんだろ」
「はい」
二人は集落へ戻った。
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羊を飼っている家はすぐ分かった。
だが、被害を受けた家ではなかった。
「それなら東じゃなくて、川向こうの村だと思うぞ」
男が言った。
「いつだ?」
ガレスが聞く。
「十日くらい前かな」
「何がやった?」
「知らん。羊が一頭いなくなったって話だけだ」
「その後は?」
「聞いてない」
ガレスは礼を言った。
今度こそ集落を出る。
「行かないんですか?」
エイルが聞いた。
「十日前に羊が一頭消えただけだ」
「魔物かもしれないですよ」
「人に売ったかもしれん」
「あ」
「崖から落ちたかもしれん。盗まれたかもしれん。狼かもしれん」
「確かに」
「仕事を頼まれてもいない」
エイルは頷いた。
ガレスはそのまま南へ歩いた。
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昼頃、街道脇で休んだ。
パンと干し肉を食べる。
エイルが水を飲んでいると、ガレスが聞いた。
「金はあるのか」
「あります」
「どれくらい」
エイルは答えようとして止まった。
「全部言うんですか?」
「言いたくないならいい」
「何日か仕事なくても宿と食事には困らないくらいです」
「ならいい」
「ガレスさんは?」
「何が」
「何日くらい仕事なくても大丈夫なんです?」
ガレスは干し肉を噛みながら答えた。
「今ならしばらく」
「結構貯めてるんですね」
「怪我したら働けん」
エイルは自分の財布を思い出した。
宿代と食費。
道具の修理。
移動費。
それまでは考えていた。
「怪我してる間の分も残してるんですか?」
「残せる時はな」
「残せない時も?」
「ある」
ガレスは水筒をしまった。
「道具が壊れる。薬を買う。仕事がない。そういうのが重なるとな」
「じゃあ今回の報酬も、全部使える金じゃないんですね」
「使おうと思えば使える」
「使ったら困る?」
「あとでな」
休憩を終え、また歩き始めた。
⸻
午後になると、少し大きな村が見えてきた。
今日はここで泊まるらしい。
ガレスは宿へ行く前に、村の雑貨屋へ入った。
針と糸、それから小さな油の瓶を買う。
「何に使うんです?」
「革」
「自分で直すんですか?」
「直せるところはな」
店を出る。
次にガレスが向かったのは村の猟師の家だった。
知り合いらしい。
「久しぶりだな」
猟師が言った。
「何かあるか」
挨拶もそこそこにガレスが聞く。
「仕事か?」
「ああ」
「ちょうど一つある」
エイルがガレスを見る。
猟師は続けた。
「西の農場で、夜に家畜小屋の周りを何かが歩いてる」
「被害は?」
「鶏が三羽」
「見た奴は?」
「農場の親父。影だけだそうだ」
「足跡は?」
「あるらしい」
「いつから?」
「ここ数日だ」
ガレスは少し考えた。
「誰か行ったか?」
「まだだ」
「金は?」
「そこまでは知らん。親父と話せ」
「分かった」
ガレスが家を出る。
エイルもついていった。
「行くんですか?」
「まず話を聞く」
「西の農場に?」
「ああ」
少し歩いたところで、ガレスが止まった。
エイルを見る。
「お前、まだ俺についてくる気か」
「はい」
「昨日、魔物の仕事を見たいと言ったな」
「言いました」
「明日、農場へ話を聞きに行く」
「はい」
「まだ狩ると決まったわけじゃない」
「分かってます」
ガレスは少し黙った。
「話を聞くところまでなら来い」
エイルは一瞬、返事が遅れた。
「いいんですか?」
「農場だ。森には入らん」
「はい」
「勝手なことはするな」
「しません」
「俺が危ないと言ったら離れろ」
「分かりました」
ガレスはまた歩き始めた。
エイルも追いつく。
「それと」
「はい」
「金は出ないぞ」
「俺の分ですか?」
「ああ。お前はまだ雇われてない」
「分かりました」
「宿代も自分で払え」
「それも分かってます」
二人は宿へ向かった。
明日はまず、鶏が三羽いなくなった農場へ行くことになった。




