第百三十八話 帰り道
炭焼き小屋を離れると、ガレスは来た道をそのまま村へ向かった。
エイルは少し後ろを歩く。
しばらく、会話はなかった。
ガレスは歩くのが速い。
走っているわけではないが、上りでも下りでもほとんど速度が変わらない。エイルも遅れないようについていった。
やがてガレスが振り返った。
「歳は?」
「十五です」
「卒業したばかりか」
「はい」
「バルガに俺を探せと言われたのか?」
「探せとは言われてません。魔物を狩る仕事をしてる人を知りませんかって聞いたら、ガレスさんを教えてくれました」
「余計なことを」
「知り合いなんですか?」
「昔、何度か仕事した」
エイルは少し驚いた。
「一緒に魔物を?」
「それもある」
「他には?」
「護衛」
ガレスは前を向いた。
「荷運びもしたな」
「ガレスさんも荷運びするんですか?」
「する」
返事は短かった。
「魔物の仕事だけじゃないんですね」
「毎日都合よく出てくると思ってるのか?」
「いや、それは思ってないです。俺もここまで来る間、荷運びばっかりしてたんで」
ガレスが一度だけエイルを見る。
「それで食えてるならいい」
⸻
しばらく歩いたところで、ガレスが急に止まった。
エイルも止まる。
「何です?」
ガレスは道の端を見ていた。
泥の上に跡がある。
エイルも近づこうとした。
「踏むな」
足を止めた。
ガレスはしゃがみ込む。
「これ、さっきのですか?」
「違う」
「分かるんですか?」
「小さい」
エイルも少し離れたところから見る。
四本指のような跡が、道を横切っていた。
「犬?」
「たぶんな」
ガレスは立ち上がる。
それだけで歩き始めた。
エイルは追いつく。
「確認しないんですか?」
「何を?」
「どこへ行ったかとか」
「犬を?」
「……必要ないですね」
「必要になったら見る」
ガレスはそのまま歩いた。
⸻
村が近づいた頃、エイルが聞いた。
「明日も炭焼き小屋へ行くんですよね?」
「ああ」
「俺も行っていいですか?」
「駄目だ」
あまりに早い返事だった。
「やっぱり?」
「お前が何できるか知らん」
「学校では剣と魔術も――」
「学校の話はしてない」
エイルは口を閉じた。
ガレスは歩きながら続ける。
「森で何か出た。まだ何かも分からん。そんなところに、会ったばかりの十五の奴を連れていく理由がない」
「それはそうですね」
「納得するのか」
「言ってることは分かるんで」
ガレスが少しだけ眉を上げた。
エイルは少し考えてから聞いた。
「じゃあ、今回の仕事が終わったら、少し話を聞いてもいいですか?」
ガレスがエイルを見る。
「話?」
「普段どうやって仕事してるのかとか。そういうのを聞きたいです」
少し間があった。
「それくらいならな」
「ありがとうございます」
それ以上、エイルは同行の話をしなかった。
⸻
村へ戻る頃には、日がかなり傾いていた。
宿へ入る。
女がガレスを見る。
「戻ったのかい」
「ああ」
「どうだった?」
「まだ分からん。明日も行く」
「夕飯は?」
「食う」
ガレスはそのまま部屋へ向かおうとした。
エイルが呼び止める。
「ガレスさん」
「何だ」
「明日の仕事には行かないですけど、終わるまでこの村にいてもいいですか?」
ガレスが振り返る。
「好きにしろ」
「さっきの話、終わったらお願いします」
「ああ」
ガレスは階段を上がっていった。
⸻
夕食の時、ガレスは一人で食べていた。
エイルは無理に隣へ座らなかった。
宿の女に頼んで食事を受け取り、少し離れた席に座る。
明日、ガレスが森へ行っている間どうするか。
何もせず宿で待つのも暇だった。
食事を運んできた女に聞く。
「この村で、一日だけでもできる仕事ってあります?」
「仕事?」
「はい。荷運びとか、畑とか」
「明日だけ?」
「たぶん」
女は少し考える。
「朝、市場の裏へ行ってみな。粉挽き小屋に運ぶ麦を積むって言ってたから、人手が足りなければ使ってもらえるかもね」
「ありがとうございます」
⸻
翌朝。
エイルが起きた時には、ガレスはもう宿を出ていた。
エイルも朝食を済ませ、市場の裏へ向かった。
麦袋を積んだ荷車が一台止まっている。
「人手、要ります?」
声をかけると、男がエイルを見る。
「持てるか?」
「はい」
「じゃあ一袋ずつ運べ」
身体強化を使い、袋を持ち上げる。
荷車へ積み、粉挽き小屋へ運び、そこでまた下ろす。
午前中いっぱいかかった。
昼には報酬を受け取った。
午後は仕事がなかった。
エイルは村の店で食料を補充し、靴の状態を確認した。
宿へ戻っても、まだガレスはいない。
日が傾き始めた頃。
外から複数の声が聞こえた。
エイルは宿を出た。
道の向こうから、昨日の猟師が歩いてくる。
その後ろにガレスがいた。
さらに二人で、棒に何かを吊って運んでいる。
灰色がかった毛。
犬よりずっと大きい。
エイルは近づいた。
「それ……魔物ですか?」
ガレスが答えた。
「ああ」
「何ていう魔物です?」
「森喰い犬だ」
エイルは初めて聞く名前だった。
「昨日の肉を取ったのは?」
「こいつだ」
「猪もいたんですよね?」
「いた。柵を壊したのはそっちだ」
二つの痕跡は、別々のものだった。
エイルが死骸を見る。
首の辺りに深い傷がある。
「ガレスさんが倒したんですか?」
「違う」
ガレスは隣の猟師を指した。
「こいつだ」
猟師が言う。
「追い込んだのはガレスだけどな」
ガレスはそれには答えなかった。
「話したいんだったな」
「はい」
「飯の後でいいか」
「はい」
ガレスは死骸を運ぶ二人の方へ戻った。
「先にこいつの金を決めるぞ」
エイルは少し離れて、その後をついていった。




