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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百三十五話 一日先へ


酒屋の荷車は、その日の夕方に目的の村へ着いた。


大きな村ではない。街道沿いに家が並び、その向こうには畑が広がっている。村の端には馬を繋ぐ場所と、小さな宿が一軒あった。


「今日はここまでだ。先に荷を下ろすぞ」


「はい」


残っていた酒樽を下ろしていく。


身体強化を使えば重さには耐えられるが、樽は抱えにくい。受け取る側と声を掛け合いながら倉まで運び、最後の一樽を置いたところで仕事は終わった。


「明日は?」


「朝出る。帰りに二か所寄る」


「分かりました」


夕食までには少し時間がある。


エイルは昼間に話した猟師たちを探してみることにした。


⸻


三人は村の端にいた。


獲ってきた小さな獣を処理している。


「また来たのか」


年上の猟師が顔を上げた。


「もう少しだけ聞いていいですか?」


「何をだ?」


エイルは地図を広げた。


「さっき教えてもらった北東の村なんですけど、ここで合ってます?」


男が覗き込む。


「いや、そこじゃない。もう少し北だ」


指で示された場所に、エイルは印をつけ直した。


「この道ですか?」


「途中まではな。そこから森沿いに入る」


「歩いて行けます?」


「今なら問題ない。雨が続いた後はぬかるむが」


「ここからだと?」


「朝出れば、明るいうちには着くだろ」


エイルは地図を見る。


思っていたより近かった。


ここまで何日もかけて北へ来たが、今いる村からなら一日で届く。


「そこにも猟師はいるんですよね?」


「ああ。何人かいる」


「ガレスのことを知ってる可能性はあります?」


「それは知らん」


「ですよね」


男は手を動かしながらエイルを見る。


「明日行くのか?」


「行きたいですけど、仕事があるんで」


「酒屋の?」


「町まで戻るところまでです」


「なら無理だな」


「はい」


横にいた若い猟師が笑った。


「ずいぶん遠回りしてるな」


「仕事しながら探してるんで」


「そんなに会いたいのか?」


エイルは少し考えた。


「どんな仕事してるのか見てみたいんです」


「弟子入りか?」


「そこまでは決めてません。そもそも会ってもらえるかも分からないですし」


「そりゃそうだ」


年上の猟師が笑った。


エイルは地図をしまった。


今のところ、分かったのは道だけだ。


それでも、一日先まで来ている。


⸻


宿へ戻ると、酒屋が食堂にいた。


エイルも向かいに座る。


「何か分かったか?」


「北東の村まで、ここから歩いて一日くらいみたいです」


「近いじゃないか」


「はい」


「行きたい顔してるな」


「行きたいですよ」


「じゃあ行けばいい」


エイルが酒屋を見る。


「明日の帰りは?」


「冗談だ」


「びっくりした」


酒屋は笑いながら酒を飲んだ。


「次にここへ来るまで待つのか?」


「それも考えてます」


「次がいつか分からんぞ」


「そこなんですよね」


酒屋からの次の配達を待てば、またここまで働きながら来られる。


だが、それが来週なのか来月なのかは分からない。


一方、自分で来れば、その間は収入がない。


エイルはパンをちぎった。


「帰ったら、ここまで自分で来る場合にいくらかかるか見てみます」


「歩いてくる気か?」


「全部は嫌です。途中まで荷車に乗れたら、その方がいいです」


「そりゃそうだ」


「片道だけの仕事って、あんまりないですけど」


「人を運ぶために荷を出してるわけじゃないからな」


「ですよね」


それでも、以前より考えやすくはなっていた。


どこへ行けばいいか分からなかった頃とは違う。


今は道が分かる。


途中の村も分かる。


必要なのは、そこまで行く方法だった。


⸻


翌朝。


予定通り村を出た。


帰り道では二つの集落へ寄った。


一つ目では空の樽を回収する。


二つ目では次回の注文を受け取った。


「四樽か」


酒屋が紙を見る。


「次はいつ届けるんです?」


エイルが聞く。


「これだけじゃ行かん。他の注文がまとまってからだ」


「なるほど」


「お前のために一樽積んで北へ行ったりはしないぞ」


「分かってますよ」


御者が笑った。


しばらく進むと、道が二つに分かれた。


片方は町へ戻る南の街道。


もう片方は、昨日猟師に教えてもらった道へ繋がっている。


エイルは地図を出さなかった。


もう位置は分かっていた。


⸻


町へ戻ったのは翌日の午後だった。


空樽を下ろし、荷台を片づける。


酒屋から報酬を受け取った。


「また人が要る時は声かけるぞ」


「お願いします」


「北じゃなくても?」


「仕事なら行きます」


「ならいい」


エイルは宿へ戻った。


部屋を取り、荷物を置く。


机の上に財布を出した。


これまでの仕事で、最初に町へ来た頃よりは金が残るようになっている。


宿代。


食費。


道中の食料。


荷車に乗るなら、その代金。


帰りの分も必要だ。


何日か仕事が見つからなくても困らない金も残しておきたい。


しばらく計算してから、エイルは財布をしまった。


自分の金だけで北東まで行けないわけではない。


ただ、今すぐ急いで三週間前や二月前の話を追いかけるより、もう少し新しい情報が欲しかった。


⸻


翌朝。


エイルは市場へ向かった。


仕事を探しながら、北から来た荷車があれば御者にも話を聞く。


昼前、一台の荷車から袋を下ろす仕事を手伝った。


北から来たというので、作業が終わってから御者に聞いてみる。


ガレスの名前には覚えがなかった。


次の荷車も知らない。


その次も同じだった。


午後。


乾燥させた薬草を積んできた小さな荷車が市場へ入ってきた。


エイルは積み下ろしを手伝う人間に混じった。


作業が終わったところで、御者に尋ねた。


「どこから来たんです?」


村の名前を聞く。


エイルは一瞬止まった。


昨日、猟師から教えてもらった北東の村だった。


「そこから?」


「ああ」


「ガレスって人、知ってます?」


御者が眉を寄せた。


「ガレス?」


少し考える。


「ああ、魔物を狩る奴か」


エイルが顔を上げた。


「知ってるんですか?」


「村の人間じゃないぞ」


「それは知ってます。最近来ました?」


「来たな」


「いつです?」


「俺が出る二日前にはいた」


エイルは聞き返した。


「二日前?」


「ああ」


これまで聞いた話とは違った。


二月前でも、一月前でもない。


御者が村を出たのが三日前。


その二日前なら、五日前だ。


「何の仕事してたか分かります?」


「知らん。俺は薬草運んでるだけだからな。ただ宿の前で見た」


「今もいると思います?」


「さあな」


御者は肩をすくめた。


「昨日までいたかもしれんし、とっくに出たかもしれん」


「そうですよね」


それでも十分だった。


エイルはすぐにノートを開いた。


村の名前。


御者が出発した日。


その二日前に、ガレスを見た。


今まで地図に書いてきた印の中で、一番新しいものだった。

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