第百三十話 北へ行く荷
翌朝、エイルが運送商会へ入ると、受付の男が先に口を開いた。
「北ならあるぞ」
「本当ですか?」
「ただし、ラダまでじゃない」
エイルは受付の前まで行った。
「どこまでです?」
男が地図を引き寄せる。
指したのは、ラダより手前にある町だった。
「ここ。二泊三日」
昨日聞いた村までは、まだかなり遠い。
「そこから先へ行く荷車はあります?」
「向こうで聞け。ここじゃ分からん」
「仕事は何です?」
「荷積みと荷下ろし。道中の雑用。護衛は別にいる」
「報酬は?」
金額を聞く。
食事と宿泊は商人持ち。
予定より延びた場合は、一日ごとに追加。
「行きます」
「出発は昼だ」
「分かりました」
ようやく北へ向かう。
ただ、ガレスを探しに行くための旅ではない。
三日分の報酬が出る仕事だった。
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昼前に宿へ戻り、荷物をまとめた。
必要な着替え。
雨具。
水。
新しく買った縄。
剣。
魔術のノートは一冊だけ入れる。
残りは宿に預けた。
昼過ぎ、北門へ向かう。
今回の荷車は二台だった。
布、酒、塩、それに農具。
商人が一人。
御者が二人。
護衛が二人。
エイルを含めて六人だった。
「お前が手伝いか?」
一人の御者が聞く。
「はい。エイルです」
「若いな」
「よく言われます」
「荷車押せるか?」
「それはできます」
「ならいい」
それで話は終わった。
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最初の半日は何も起きなかった。
街道は広い。
荷車も多い。
途中で別の商隊とすれ違う。
昼を過ぎた頃、前を走っていた荷車が止まった。
「どうしました?」
エイルが近づく。
御者が車輪を見ていた。
「石が噛んでる」
大きな石が車輪のすぐ脇にはまり込んでいる。
エイルが手をかける。
「待て待て」
御者が止めた。
「先に荷車を少し戻す」
「あ、はい」
後ろから押す。
身体強化を使って力を加えると、荷車がゆっくり下がった。
御者が石を蹴り出す。
「よし」
それだけだった。
また進む。
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夕方。
小さな宿場に入った。
荷車を預け、全員で宿へ入る。
夕食を待っている間、エイルは御者に聞いた。
「この先って、ラダまで道はつながってますよね?」
「つながってるぞ」
「ラダより北は?」
「道はある」
「荷車も多いです?」
「場所によるな」
「この村、知ってます?」
昨日ノートに書いた村の名前を出した。
御者は知らなかった。
もう一人の御者にも聞く。
「聞いたことはある」
「行ったことあります?」
「ない」
「どの辺か分かります?」
「ラダから東へ入るんじゃなかったか?」
地図で教えてもらった位置と合っている。
「そこへ行く荷車ってあります?」
「あるだろ。村なら何か運ぶ」
「この辺から?」
「さあな。ラダで聞いた方が早いんじゃないか」
やはりそうなる。
エイルは頷いた。
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夕食が運ばれてきた。
護衛の一人がエイルを見る。
「お前、あの村に何かあるのか?」
「人を探してます」
「家族か?」
「違います。魔物を狩ってる人です」
「知り合い?」
「まだ会ったことないです」
護衛が止まった。
「会ったことない奴を探してるのか」
「はい」
「何で?」
「一緒に仕事できないかなと思って」
「断られたら?」
「別の仕事探します」
護衛が笑った。
「軽いな」
「まだ会ってもないですから」
もう一人の護衛も笑った。
それ以上、話は続かなかった。
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翌朝。
再び北へ向かう。
昼頃から道が少し荒れ始めた。
荷車が何度も大きく揺れる。
エイルは荷台の横を歩きながら、縄を確認した。
一か所緩んでいる。
「止めてください」
御者に声をかける。
荷車が止まる。
縄を締め直す。
「よく気づいたな」
「前に緩んだことあったんで」
「一回やると見るようになるよな」
「はい」
出発する。
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午後。
街道脇に小さな集落が見えた。
商人が一軒の店へ寄る。
塩を三袋だけ下ろすらしい。
エイルも手伝った。
受け取りに出てきた男が、荷を確認する。
その腰には短い鉈が下がっていた。
店の入口近くには、動物の皮が数枚干してある。
荷下ろしが終わったあと、エイルは聞いた。
「この辺って猟師います?」
「いるぞ」
「魔物も狩ります?」
「出ればな」
「最近何か出ました?」
男が少し考える。
「北の森で牙猪が出たって話は聞いた」
「いつです?」
「先週くらいじゃないか」
「被害は?」
「畑をやられたとか」
「どこの村です?」
男が北東を指した。
「ここから半日くらい」
エイルは村の名前を聞いた。
探している村とは違った。
「誰か退治に行ったんですか?」
「さあ。そこまでは知らん」
「ありがとうございます」
荷車へ戻る。
商人が言った。
「行かないぞ」
「分かってます」
「ならいい」
エイルは笑って荷車の横へ戻った。
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二日目の夕方。
目的の町へ着いた。
ラダより小さいが、最初の町よりは北にある。
荷を倉庫へ運び込む。
酒樽は転がさず、二人で持つ。
農具は種類ごとに分ける。
最後の荷を置いた頃には、外は暗くなり始めていた。
商人が宿代を渡してくる。
「明日の朝、ここに集合」
「何時です?」
時間を確認する。
「分かりました」
まだ少し明るい。
エイルは宿へ向かう前に、町の通りを見た。
運送屋らしい建物が一軒ある。
今日はもう閉まりかけていた。
エイルは入口まで行った。
「すみません」
中にいた男が顔を出す。
「何だ?」
「明日の朝、ラダ方面へ行く荷車があるか聞きたいんですけど」
「乗りたいのか?」
「できれば仕事として」
「明日?」
「はい」
男は首を振った。
「明日はない」
「近いうちなら?」
「二日後に一台」
エイルは少し考えた。
自分は明日の朝、今の商人と戻る契約になっている。
「じゃあ無理ですね」
「そうだな」
「分かりました。ありがとうございます」
宿へ向かう。
北へは近づいた。
けれど、仕事の途中で勝手に別の荷車へ乗り換えるわけにはいかなかった。
明日は、約束通り戻る。
それで金を受け取る。
次に北へ来られる仕事があれば、またその時だった。




