第百二十三話 次の行き先
翌朝、エイルは市場へ向かった。
昨日一日働いた店には仕事がない。
運送商会にも寄ったが、今日出る荷車はすでに人が足りていた。
「明日は?」
「一台あるが、まだ荷が決まってない」
「行き先は?」
「北」
エイルは少し足を止めた。
「どの辺です?」
男が町の名前を答える。
以前、北の牧場へ行った時よりもさらに先だった。
「人が必要になったらお願いします」
「必要になったらな」
商会を出る。
仕事は見つからなかった。
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昼前。
エイルは町の外へ出た。
昨日は一日荷物を運んでいたので、今日は身体が少し重い。
軽く走ってから、身体強化を使う。
何度か方向を変える。
そのあと剣を抜き、基本の動きを確認した。
しばらくして剣を鞘へ戻す。
今度は地面に小枝を立てた。
少し離れる。
弱い衝撃の術式を形成する。
発動。
外れた。
「またか」
もう一度。
今度は小枝が倒れた。
距離を少し伸ばす。
外れる。
エイルは位置を変えた。
学校で術式を形成していた時は、正しく形を作れるかを気にすることが多かった。
今は形成より、その先の方が難しい。
歩きながら使う。
外れる。
止まって使う。
当たる。
今度は身体強化で一歩動いてから使う。
また外れた。
「動くと全然違うな」
何度か繰り返す。
途中で、昨日ロッドが林へ手を向けていた場面を思い出した。
ロッドはすぐに発動しなかった。
鹿だと分かるまで待っていた。
エイルは術式を消した。
当てられるかだけ練習していても、実際には使わない方がいい場面もある。
そこはまだ、ほとんど経験がなかった。
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昼を過ぎた頃、町へ戻った。
安い食堂で食事を済ませ、午後は市場を歩く。
仕事を探しながら、北へ向かう商人がいないかも聞いてみた。
一軒目。
「北? 今週は行かんな」
二軒目。
「うちは西だ」
三軒目。
「どこまで行きたい?」
「まだ決めてません」
「じゃあ聞くなよ」
「そうですね」
店を出る。
別に北へ行かなければならない理由があるわけではない。
ただ、町の近くだけで働き続けるより、いろいろな場所を見てみたかった。
それに、魔物を狩る仕事をする人間について聞くなら、同じ町に居続けるより動いた方が話を拾えるかもしれない。
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夕方前。
運送商会の前をもう一度通ると、朝話した男がいた。
「おい、エイル」
「はい?」
「明日の荷、決まったぞ」
エイルは戻る。
「北ですか?」
「ああ。三日だ」
「どこまで?」
男が地図を出した。
目的地はラダという小さな町だった。
途中で一泊。
ラダで荷を下ろして一泊。
翌日に戻る予定。
「三日で戻れます?」
「何もなければな」
「延びたら?」
「一日なら追加を出す」
「食事と宿は?」
「こっち持ち」
報酬も聞く。
条件は悪くなかった。
「やります」
「明日の朝、ここに来い」
「はい」
仕事が決まった。
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宿へ戻る途中、エイルは食料品店へ寄った。
食事は商人持ちだが、水と少しの保存食は自分でも持っておく。
その隣の店で、縄も見る。
自分の縄はまだ荷物を縛る程度なら使える。
それでも遠出が増えてきた。
少し迷って、新しいものを一本買った。
「また減った」
財布を見て呟く。
だが、古い縄も捨てずに持っておく。
用途を分ければ使える。
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宿へ戻る。
明日から三日間なので、部屋は一度空けることにした。
主人に荷物を預け、必要なものだけ鞄へ入れる。
着替え。
水。
保存食。
雨具。
薬。
縄。
剣。
魔術のノートは一冊だけにした。
全部持っていくと重い。
学校で習った基本術式なら、ほとんど覚えている。
それでも旅先で確認したくなることはある。
鞄へ入れた。
「北か」
地図を広げる。
今回行くラダは、まだ行ったことのない町だった。
北の牧場で聞いた話とは別の方向になる。
ロッドとハンスも北へ向かったと言っていたが、どこへ行ったのかは知らない。
会うことはないだろう。
エイルは地図を畳んだ。
明日の仕事は、また荷運びだった。




