第百二十二話 町で使う金
翌朝。
エイルは昨日約束した店へ向かった。
店の前にはすでに荷車が二台止まっている。
「来たな」
「はい」
「今日は多いぞ」
店主の言葉通り、荷台には木箱や袋が隙間なく積まれていた。
エイルは上着を脱ぎ、袖をまくった。
身体強化を使い、一つ目の箱を持ち上げる。
倉庫へ運ぶ。
戻る。
次は袋。
また戻る。
しばらくすると、もう一人の男が荷車の上から声をかけた。
「それ、奥じゃなくて手前」
「こっち?」
「そう。午後に出す」
「分かりました」
ただ運ぶだけではない。
品物によって置く場所が違う。
エイルは店の者に確認しながら運んだ。
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昼。
休憩に入ると、エイルは店の裏で座り込んだ。
「疲れた……」
身体強化を使っていても、一日中動けば疲れる。
店主から昼食代として少しだけ金を渡された。
「食ってこい。午後もあるぞ」
「ありがとうございます」
近くの店で安いパンと煮込みを頼む。
食べながら、昨日の護衛仕事を思い出した。
ロッドとハンスは、今頃もう北へ向かっているはずだ。
二人とも次の仕事が決まっていた。
自分も今日は仕事がある。
明日は分からない。
食事を終え、店へ戻った。
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午後は荷下ろしだけではなかった。
倉庫から別の商品を出し、店頭へ運ぶ。
空になった箱をまとめる。
破れた袋から麦が少しこぼれれば、それも片づける。
「エイル、それ終わったら裏」
「はい」
「裏終わったら樽」
「はい」
次々に仕事が来る。
魔術を使うような場面はほとんどなかった。
重い物を運ぶ時に身体強化を使うくらいだ。
途中、倉庫の奥が暗かったので灯りを出そうとしたが、店の男が先に壁の灯具へ火をつけた。
「これでいい」
「はい」
そのまま作業を続けた。
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夕方。
ようやく全部終わった。
報酬を受け取る。
一日働いただけあって、半日の荷運びよりは多かった。
「また荷が来たら頼む」
「いつです?」
「来週かな」
「日にちは?」
「まだ分からん」
「分かったら教えてください」
「お前が来た時にな」
エイルは笑った。
「ですよね」
店を出た。
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新しい宿へ戻る途中、足の裏に違和感があった。
靴を見る。
底が少し浮いている。
「また金か」
翌朝。
仕事を探す前に靴屋へ持っていった。
男が靴をひっくり返す。
「ここだな」
「直せます?」
「直せる」
「いくらです?」
金額を聞く。
エイルは少し顔をしかめた。
「高くないですか?」
「ならそのまま履け」
「歩いてる途中で取れません?」
「取れるかもな」
「直してください」
靴を預ける。
夕方にはできるらしい。
替えの靴に履き替えて店を出た。
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市場へ向かう。
いつもの店を何軒か回った。
仕事はなかった。
運送商会にも行く。
「今日はないな」
「明日は?」
「今のところない」
エイルは外へ出た。
今日は空いた。
以前なら、すぐ町の外へ練習に行ったかもしれない。
だが、靴の修理が終わるまであまり遠くへ行きたくない。
宿へ戻る。
狭い部屋の机に、魔術のノートを広げた。
前に途中で迷った術式を読み直す。
設計を追う。
記号だけを見るのではなく、どこが何につながっているのかを確認する。
一度ノートを閉じる。
形成。
途中まで進む。
止まる。
「違うな」
消す。
もう一度ノートを見る。
今度は最後まで確認してから閉じた。
形成。
最後まで形ができる。
エイルはしばらく維持してから消した。
次は別の術式。
こちらは一度でできた。
「これは覚えてる」
そのまま何種類か確認する。
昼を過ぎたところで腹が減り、練習をやめた。
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安い食堂で昼を済ませたあと、エイルは市場をぶらついた。
仕事を探すというより、何を売っているのかを見る。
縄。
水筒。
雨具。
薬。
保存食。
刃物。
学校にいた頃は、必要なものは実習の前に揃っていることが多かった。
今は自分で買う。
値段も違う。
安い物もあれば、高い物もある。
同じ縄でも太さが違う。
昨日ハンスが傷んだ縄を交換していたのを思い出す。
エイルは自分の鞄から縄を出した。
端の方が少し毛羽立っている。
店主に見せる。
「これ、まだ使えます?」
「何に使う?」
「荷物を縛ったり」
「それならまだ使える」
「人を支えたりするなら?」
「新しいの買え」
用途によって違うらしい。
今日は買わなかった。
代わりに、少し安い保存食を売っている店を覚えておく。
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夕方。
修理された靴を受け取った。
底はしっかり戻っている。
履いてみる。
「大丈夫そうです」
「また剥がれたら持ってこい」
「また金かかります?」
「当たり前だ」
鍛冶屋でも同じことを言われた気がする。
エイルは代金を払った。
宿へ戻る。
今日の収入はゼロ。
靴の修理代。
宿代。
食事代。
財布の中身は朝より減っている。
それでも、明日になれば仕事があるかもしれない。
なければまた探す。
部屋へ戻ると、エイルは机の上に財布を置いた。
その隣には魔術のノート。
壁には剣。
床には修理した靴。
全部、自分で使うものだった。
エイルは明日の分の金を残して財布をしまった。




