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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百十六話 西の村


翌日は朝から市場で働いた。


仕事は小麦袋の積み替えだった。


倉庫から荷車へ運び、荷車が戻ってくると今度は別の荷を下ろす。


単純な仕事だったが、昼を過ぎる頃には腕も背中も重くなっていた。


「兄ちゃん、力あるな」


一緒に働いていた男が言った。


「身体強化使ってるので」


「ずっとか?」


「重いの持つときだけです」


「そりゃそうか。ずっと使ってたら先に魔力が切れるな」


エイルは袋を荷台へ置いた。


学校にいた頃なら、身体強化を使って荷物を運ぶこと自体は珍しくなかった。


だが、仕事では速ければいいというものでもない。


周りと歩調を合わせないと荷が詰まる。


急いで積めば崩れる。


何度か注意されながら、夕方まで働いた。


賃金を受け取る。


昨日は一日歩いて収入なし。


今日は一日働いて収入あり。


分かりやすい違いだった。


---


その翌朝。


エイルは西の村へ向かった。


二日前に聞いた、畑が荒らされているという話を確かめるためだ。


ただし、今回は北の牧場へ行ったときより少し準備を変えた。


宿を出る前に主人へ聞く。


「西のラウル村って、泊まれるところあります?」


「宿はなかったと思うぞ」


「じゃあ、日帰りできなかったら?」


「村の誰かに頼むしかないんじゃないか」


「飯を出してくれる店は?」


「知らん」


「ですよね」


昼食だけでなく、夕方まで足りる程度の食べ物を買った。


少し金がかかった。


それでも、村へ着いて何もないよりはいい。


---


西へ向かう街道を歩き、途中から細い道へ入る。


村へ着いたのは昼前だった。


北の牧場へ行ったときと同じように、まず人を探した。


畑で作業していた女性へ声をかける。


「すみません。畑が魔物に荒らされてるって聞いたんですけど」


女性が手を止めた。


「ああ。それならドランさんのところじゃない?」


「ドランさん?」


「村の西の端。大きい納屋がある家」


「ありがとうございます」


教えられた通りに歩く。


大きな納屋はすぐに見つかった。


家の前では、年配の男が木の柵を直していた。


「ドランさんですか?」


「ああ」


「町で、畑が荒らされてるって聞いて来ました」


「町で?」


男が不思議そうな顔をする。


「誰から聞いた」


「この近くで荷車を引いてた人です。その人も、別の人から聞いたみたいです」


「なんだそりゃ」


「俺も詳しくは分からないです」


男は少し笑った。


「で、何しに来た?」


「魔物なら、退治する仕事がないかと思って」


「お前がやるのか?」


また同じところを聞かれた。


「一人で危ない相手ならやりません」


「正直だな」


「死にたくないので」


「そりゃそうだ」


男は柵から手を離した。


「畑は向こうだ」


---


荒らされたという畑は、家から少し離れたところにあった。


土が何か所も掘り返されている。


葉を食われた作物もある。


エイルはしゃがんで地面を見る。


小さな足跡がいくつも残っていた。


「いつからです?」


「最初に気づいたのは五日前だ」


「毎日?」


「いや。最初の日と、その二日後。それから昨日」


「見た人は?」


「俺の息子が一度だけ。暗かったからよく分からんらしい」


「大きさは?」


「膝より低かったって言ってたな」


エイルは足跡を見る。


一匹ではなさそうだ。


ただ、同じ個体が何度も通った跡も混じっている。


「何か頼んだりしました?」


「誰に?」


「猟師とか、魔物を狩る人とか」


「まだだ」


エイルが顔を上げる。


「じゃあ、仕事あります?」


「いくらだ?」


今度はエイルが止まった。


「……いくら?」


「退治してくれるんだろ。いくらでやる?」


考えていなかった。


北の牧場では、すでに猟師が金額を提示していた。


今回は違う。


自分が金額を決める側だった。


「ちょっと待ってください」


「おう」


エイルは畑を見る。


何がいるのか。


何匹いるのか。


どこにいるのか。


どのくらい時間がかかるのか。


まだ何も分からない。


「今は決められないです」


「なんだそりゃ」


「何がいるのか分からないので」


「じゃあ調べてくれ」


「それは……」


エイルはまた止まった。


調べる。


どのくらい時間がかかる?


今日中に分かる?


森まで追う?


何も見つからなかったら?


「調べるだけなら、いくらもらえます?」


今度はドランが止まった。


「見るだけで金取るのか?」


「……駄目ですか?」


「いや、駄目とは言わんが」


二人で顔を見合わせる。


どちらも相場が分からなかった。


「こういうの頼んだことないんですか?」


「ない」


「俺も初めてです」


「知ってる」


「ですよね」


ドランが笑った。


---


結局、その場では金額を決めなかった。


エイルは畑の周囲だけ見せてもらうことにした。


森へは入らない。


近くに残っている痕跡だけを見る。


畑を一周すると、北側の柵の下に穴があった。


「ここですね」


「穴?」


「たぶん、ここから入ってます」


柵の下の土が掘られている。


毛も少し引っかかっていた。


茶色。


エイルは触らずに観察する。


「分かるか?」


「たぶん小型です。でも種類までは」


少し離れたところにも穴があった。


こちらは古い。


畑の外側には草地があり、その先に林がある。


足跡は途中まで続いていたが、乾いた地面に入ると分からなくなった。


「追えるか?」


「俺には無理です」


「そうか」


「経験ある人なら分かるかもしれないですけど」


ドランは頭を掻いた。


「じゃあどうするかな」


エイルも考える。


「柵の下、塞いでみたらどうです?」


「また掘るんじゃないか?」


「掘るかもしれません」


「退治した方が早くないか?」


「何がいるか分かれば」


結局そこへ戻る。


---


帰る前、ドランが野菜をいくつか持ってきた。


「持ってけ」


「え?」


「何もなしで帰すのも悪い」


「でも、俺、退治してないですよ」


「穴は見つけただろ」


エイルは野菜を見る。


「もらっていいんですか?」


「いらんなら置いてけ」


「いります」


受け取った。


金ではない。


だが、夕食にはなる。


「また荒らされたらどうします?」


「誰か探す」


「俺じゃなくて?」


「お前、退治できるのか?」


「相手によります」


「なら相手が分かってから呼ぶ」


「どうやって俺を呼ぶんです?」


ドランが黙った。


エイルも黙った。


町の宿は教えられる。


だが、エイル自身がいつまでそこにいるか分からない。


「……しばらくは町の宿にいます」


宿の名前を伝えた。


「分かった」


「でも、ずっとはいないかもしれません」


「その時は別の奴を探す」


「ですよね」


エイルは野菜を鞄へ入れた。


---


帰り道。


今日も現金の収入はなかった。


ただ、食べ物は少し手に入った。


畑の穴も見つけた。


仕事になったのかと聞かれると、よく分からない。


エイルは歩きながら考えた。


北の牧場では、猟師の金額が高くて仕事にならなかった。


今回は依頼する側も、受ける側も金額が分からなかった。


学校では、仕事の条件を確認しろと習った。


報酬。


期間。


場所。


危険。


必要な道具。


それは今でも正しいと思う。


ただ、その条件自体が最初から決まっているとは限らなかった。


町へ戻った頃には、日が傾いていた。


宿へ帰る前に市場へ寄る。


「明日、仕事あります?」


顔を覚えてくれた店主が首を振った。


「明日はない」


「明後日は?」


「分からん」


「分かりました。また来ます」


今日は野菜。


明日はまだ何もない。


エイルは宿へ向かった。


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