↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
PR
115/402

第百十五話 北の牧場


翌朝、エイルは日の出から少し経った頃に宿を出た。


水と昼までの食事。


雨具。


縄。


薬。


剣。


昨日聞いた話では、牧場までは歩いて半日ほどだった。


もし何もなければ、そのまま町へ戻る。


魔物がいたとしても、一人で戦うつもりはない。


まずは話を聞く。


それだけ決めて、北へ向かった。


---


道は途中までは広かった。


荷車とも何度かすれ違ったが、村へ近づくにつれて細くなっていく。


昼前になって、ようやく家が見えてきた。


畑があり、その先に牧草地が広がっている。


エイルは道端にいた男へ声をかけた。


「すみません。この辺で羊が襲われた牧場ってありますか?」


「ああ。それなら向こうだ」


男が指した。


「森の近くですか?」


「そうだ」


「ありがとうございます」


教えられた道を進む。


しばらくすると柵が見えてきた。


その向こうに羊がいる。


柵の近くで作業していた男がエイルに気づいた。


「何だ?」


「町で、羊が一頭やられたって聞いて来ました」


男が手を止める。


「何しに?」


エイルは一瞬詰まった。


考えてみれば、そこをちゃんと決めていなかった。


「魔物なら、そういう仕事を探してます」


「お前が?」


「はい」


男はエイルを上から下まで見た。


「若いな」


「十五です」


「十五?」


「学校を卒業したばかりです」


男の顔がさらに怪しくなる。


「魔物を狩ったことは?」


「一人ではないです」


「じゃあ駄目だ」


早かった。


「話だけでも聞けませんか?」


「話?」


「何が出たのか知りたいです」


男は少し迷ってから、森の方を指した。


「三日前の朝だ。向こうで一頭死んでた」


「夜に?」


「たぶんな」


「見た人は?」


「いない」


「足跡があったって聞きました」


「あった」


「残ってます?」


「もうほとんど消えてるだろ」


「見てもいいですか?」


「好きにしろ。ただし森には入るなよ」


「はい」


エイルは柵に沿って歩いた。


---


羊が死んでいたという場所には、まだ血の跡が少し残っていた。


地面を見る。


泥は乾き始めている。


いくつか窪みがあるが、形はかなり崩れていた。


エイルはしゃがんだ。


四本の指らしき跡。


爪も見える。


ただ、それだけで種類までは分からない。


少し離れた場所にも跡がある。


こちらはさらに薄い。


エイルは周囲を見る。


森まではそれほど遠くない。


学校の実習なら、ここから先は先生と相談していた。


今は一人だ。


エイルは立ち上がった。


牧場の男のところへ戻る。


「足跡、かなり消えてました」


「だろうな」


「羊は、どんな感じでやられてたんです?」


「首を噛まれてた」


「食べられてました?」


「腹のあたりを少し」


「一頭だけ?」


「ああ」


「それから被害は?」


「ない」


エイルは考える。


「隣村の猟師に声をかけたって聞いたんですけど」


「ああ」


「来ました?」


「昨日来た」


エイルは顔を上げた。


「昨日?」


「見て帰ったよ」


「何て言ってました?」


「灰犬かもしれんって」


「退治は?」


「してない」


「なんでです?」


「いくら払うかで折り合わなかった」


エイルは少し意外だった。


「いくらだったんです?」


男が金額を言う。


エイルには、それが高いのか安いのか分からなかった。


「一頭かもしれんのに、そんなに払えん」


男は言った。


「それに、あれから何も出てない」


「じゃあ、もう頼まないんですか?」


「また出たら考える」


「でも、また羊がやられるかもしれないですよね」


「かもしれんな」


「だったら――」


そこでエイルは口を止めた。


男が牧草地を見る。


「羊一頭の値段は分かるか?」


「いえ」


男が教えた。


次に、猟師が求めた金額をもう一度言う。


エイルは二つを比べた。


「あ」


「そういうことだ」


猟師を雇う金額の方が高い。


「でも二頭やられたら?」


「損だな」


「三頭ならもっと」


「当たり前だ」


「じゃあ今頼んだ方が――」


「灰犬がまだいるならな」


エイルは黙った。


もうどこかへ移動しているかもしれない。


そもそも本当に灰犬だったのかも確定していない。


猟師に金を払っても、見つからない可能性がある。


「難しいですね」


「こっちだって金が余ってるわけじゃない」


男はそう言って、作業へ戻った。


---


エイルはもう一度、羊が死んでいた場所を見た。


森には入らなかった。


足跡だけでは、これ以上分からない。


しばらくして牧場を離れた。


仕事にはならなかった。


往復すれば一日が終わる。


今日の収入はゼロ。


持ってきた昼食を道端で食べながら、エイルは昨日聞いた話を思い返した。


町で聞いたときには、


羊が襲われた。


足跡があった。


猟師を呼んだらしい。


そこまでだった。


実際に来てみると、猟師はすでに来ていた。


魔物らしいものも確認していた。


それでも仕事にはならなかった。


「来れば仕事があるってわけじゃないんだな」


パンを食べ終え、水を飲む。


帰ろうとしたところで、後ろから荷車の音が聞こえた。


道の端へ寄る。


荷車を引いていた男が、エイルの剣を見た。


「狩りか?」


「違います。仕事を探して牧場まで行ってました」


「仕事?」


「魔物が出たって聞いたので」


「ああ、あそこの羊か」


「知ってるんですか?」


「この辺じゃ話になってる」


男は荷車を止めた。


「魔物の仕事なら、西の方があるんじゃないか?」


「西?」


「ここから二つ先の村だ。畑を荒らされてるって聞いたぞ」


エイルは少し身を乗り出した。


「何が出てるんです?」


「知らん」


「いつから?」


「さあ」


「誰から聞いたんです?」


「昨日、村から来た奴が言ってた」


昨日。


今度は比較的新しい。


「その村、ここからどのくらいです?」


「歩けば半日くらいだな」


エイルは空を見る。


今から向かえば、着く頃にはかなり遅くなる。


泊まる場所があるかも分からない。


「今日はやめときます」


「そうか」


「でも、村の名前教えてください」


男から名前を聞き、覚える。


「ありがとうございます」


荷車が走り去っていった。


---


町へ戻った頃には、もう夕方だった。


エイルは宿へ戻る前に市場へ寄った。


何軒か、明日の仕事がないか聞いて回る。


一軒で朝から荷運びがあると言われた。


一日働けば、確実に金が入る。


一方、西の村へ行けば魔物の仕事があるかもしれない。


ただし、ないかもしれない。


エイルは店の前で少し迷った。


「明日、来るのか?」


主人に聞かれる。


「……行きます」


「朝からだぞ」


「はい」


まずは金を稼ぐことにした。


西の村へ行くのは、その次でもいい。


宿へ戻り、夕食を食べる。


部屋へ上がってから、エイルは荷物の中から紙を出した。


北の牧場。


羊一頭。


三日前。


灰犬の可能性。


猟師が確認済み。


報酬が合わず、依頼成立せず。


そこまで書いて、次の行に今日聞いた村の名前を書く。


その横には、


**畑の被害。詳細不明。昨日聞いた話。**


とだけ記した。


紙を畳んで荷物へ戻す。


明日は荷運び。


その次の日に、まだ話が残っているようなら西へ行ってみよう。


今は、それで十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。