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THE GUILD  作者: axe
第三章 外の世界へ
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第百十三話 仕事を探す


村へ戻って十日ほど経った朝、エイルは荷物をまとめていた。


着替え。


水筒。


保存の利く食べ物。


雨具。


縄。


薬。


学校で使っていた何冊かのノート。


そして剣。


全部を床に並べてから、一つずつ鞄へ入れていく。


「多いな」


戸口からトーマが言った。


「減らした方がいい?」


「自分で持てるなら好きにしろ」


「じゃあ持っていく」


トーマはそれ以上何も言わなかった。


エイルは鞄を背負う。


身体強化を使えば、この程度の重さは問題ない。


だが、ずっと使い続けるつもりもなかった。


村から学校のあった町までは遠い。


馬車を乗り継いでも十日以上かかる。


途中で食べ物を買うこともあるし、宿に泊まる日もある。


荷物が増えれば、それだけ面倒になる。


「行ってきます」


「ああ」


「仕事見つからなかったら帰ってくるかも」


「その時は畑がある」


「それは最後にします」


「そうか」


トーマはいつもの調子だった。


エイルは笑って家を出た。


⸻


最初の数日は、村へ帰ってきた時とほとんど同じ道だった。


違うのは、一人だということだった。


乗合の荷車に乗れる区間もあれば、歩かなければならない区間もある。


夕方。


小さな宿場へ着く前に、空が暗くなった。


まだ道は見える。


だが、このまま歩けば着く頃にはかなり暗くなる。


エイルは立ち止まり、鞄を下ろした。


「これ、使えるな」


学校の授業を思い出す。


手を前へ出す。


頭の中で完成した術式を確認し、形成する。


淡い光が手元に生まれた。


灯りの術式。


授業では何度も使った基本的なものだった。


「おお」


誰もいないのに声が出た。


学校の教室で使った時より、ずっと便利に感じる。


そのまま歩き出す。


しばらくして、エイルは手元の光を見た。


「でも、これずっと使うの疲れるな」


消す。


少し歩く。


暗くなる。


また使う。


「こっちの方がいいか」


必要な時だけ使えばいい。


そんなことを試しながら歩いているうちに、宿場の灯りが見えた。


⸻


別の日には雨が降った。


雨具を着て歩いたが、それでも袖や裾は濡れる。


宿へ着く頃には靴も湿っていた。


部屋へ入ると、エイルは濡れた上着を見た。


学校で習った乾燥の術式を思い出す。


「これも使えるか」


ノートを開いた。


授業で使った術式は覚えている。


ただ、濡れた服全体へ使ったことはなかった。


術式そのものを変える必要はない。


対象と使い方を確認する。


形成。


発動。


布から少しずつ湿気が抜けていく。


「便利だな」


今度は靴を見る。


同じように使おうとして、少し迷った。


革だ。


授業では布を乾かした。


革に同じことをしていいのかは知らない。


「……やめとくか」


靴は壁際へ置いた。


翌朝、宿の主人に聞くと、


「急に乾かすと革が傷むことがあるぞ」


と言われた。


「やっぱり?」


「何だ、やったのか?」


「やる前にやめました」


「ならいい」


魔術が使えることと、何に使っていいか知っていることは別らしい。


エイルはそれを覚えておくことにした。


⸻


旅の途中では、エイル以外にも魔術を使う人を何度か見た。


宿の女主人が竈へ火をつける。


御者が身体強化を使って重い荷を持ち上げる。


街道沿いの農家では、男が水を移す簡単な術式を使っていた。


どれも珍しい光景ではなかった。


ただ、使う術式は人によってかなり偏っていた。


ある夜。


同じ宿に泊まった御者が、エイルの灯りを見て言った。


「それ、明るいな」


「学校で習いました」


「俺のよりいい」


男も灯りを使ってみせた。


光は出る。


ただ、エイルのものより小さい。


「形、少し違いますね」


「そうなのか?」


「はい。ここが――」


説明しようとして、エイルは止まった。


男は首を傾げている。


「俺は親父からこれで覚えただけだ」


「術式の設計は?」


「知らん」


「形成は?」


「その言葉なら聞いたことはある」


男は笑った。


「光りゃいいんだよ」


「まあ、確かに」


エイルも笑った。


学校では、術式を読む。


なぜその形になるのかを学ぶ。


設計し、形成し、発動する。


だが、全員がそこまで勉強して魔術を使っているわけではなかった。


完成した形を覚え、それを繰り返し使っている人も多い。


身体強化も同じだった。


エイル自身、学校へ入る前から似たようなことをしていた。


⸻


十日以上かけて、ようやく町へ着いた。


学校へ通っていた頃には見慣れていた町だった。


だが、今日は学校へ向かわない。


まず宿を探した。


安い宿を見つけ、三泊分を払う。


部屋へ入る。


狭い。


寝台と小さな棚だけだった。


エイルは財布を見る。


「結構減るな」


移動中にも食事代がかかった。


宿代も必要だ。


まだ仕事では一枚も稼いでいない。


荷物を置くと、エイルはすぐ町へ出た。


⸻


最初に向かったのは運送商会だった。


「仕事を探してるんですけど」


受付にいた男がエイルを見る。


「何ができる?」


「荷運び。身体強化も使えます」


「経験は?」


「仕事ではないです」


「今日は足りてる」


「明日は?」


「明日にならんと分からん」


それで終わった。


次に市場へ行った。


何軒か店を回る。


「人、要りませんか?」


「今日はいい」


「明後日なら荷が来るかもしれん」


「来るかもしれない?」


「荷が予定通り来ればな」


仕事になるかどうかも確定していなかった。


薬屋では採取の話を聞いた。


指定された薬草を持ってくれば買うという。


「どこにあります?」


「北東の丘」


「歩いて?」


「一日以上だな」


往復。


食事。


場合によっては宿泊。


しかも、必要な量を採れる保証はない。


エイルは少し考えた。


「今回はやめます」


店主は気にした様子もなく、


「そうか」


と答えた。


⸻


夕方。


エイルは魔物に関わる仕事も探してみた。


だが、これはさらに難しかった。


運送商会のように聞きに行く場所がない。


宿の主人に聞く。


「魔物を狩る仕事って、どこで探せます?」


「さあな。被害が出てるところに行けばあるんじゃないか?」


「どこで出てます?」


「それを俺に聞くな」


「ですよね」


主人は少し考えた。


「商人とか、酒場にいる連中に聞けば何か知ってるかもしれんぞ」


エイルは何軒か回った。


東の村で家畜が襲われたらしい。


いや、それは先月の話だ。


南の森で何か出たという話もある。


でも、もう猟師が行ったらしい。


どれも曖昧だった。


その日は結局、一つも仕事を得られなかった。


⸻


翌朝。


エイルは町の一角にある宿へ向かった。


バルガから聞いていた場所だ。


ガレスという男が、この町へ来た時によく泊まる宿。


中へ入り、主人に聞く。


「ガレスって人、います?」


「いない」


「いつ戻ります?」


「知らん」


「最近いました?」


「一月くらい前だな」


「どこへ行ったかは?」


「東だったか……いや、違ったかもしれん」


「分からない?」


「本人に聞いてないからな」


エイルは少し考えた。


「戻るの、何日後くらいです?」


「数日かもしれんし、数月かもしれん」


それでは待てない。


宿代だけでも金が減っていく。


「もし戻ったら、エイルっていう奴が探してたって伝えてもらえます?」


「覚えてたらな」


「お願いします」


宿を出た。


ガレスを探すために来たわけではない。


会えればいいと思っていた。


いないなら、自分の仕事を探すしかなかった。


⸻


その日の午後。


市場へ行くと、荷車が一台入ってきた。


店の主人が周囲を見回している。


「誰か手が空いてないか!」


エイルが近づいた。


「手伝えます」


「荷下ろしだぞ」


「はい」


「割るなよ」


荷台を見る。


陶器の入った木箱だった。


エイルは身体強化を使う。


重さは問題ない。


だが、持ち上げたところで店主に止められた。


「待て。二箱まとめて持つな」


「持てますよ」


「持てるかじゃない。落としたら二箱割れるだろ」


「ああ」


一箱ずつ運ぶ。


身体強化があるからといって、多く持てばいいわけではない。


夕方まで働き、初めて賃金を受け取った。


多くはない。


それでも財布に金が入る。


「明日もあります?」


エイルが聞く。


「明日はない」


「そうですか」


また探さなければならない。


⸻


宿へ戻ると、エイルは食事を済ませて部屋へ入った。


今日は身体強化を何度も使った。


学校にいた頃より、ずっと実際的な使い方だった。


机にノートを置く。


少し迷ってから、魔術のノートを一冊開いた。


灯り。


着火。


乾燥。


身体強化。


ほかにも学校で習った術式はいくつもある。


その中から一つ選び、術式を読む。


形成する。


形はすぐに作れた。


一度消す。


もう一度。


今度も問題ない。


次の術式へ移る。


少し複雑なものになると、途中で手を止めた。


「ここ、何だったっけ」


形そのものは見覚えがある。


だが、なぜこの部分が必要なのかをすぐには思い出せなかった。


ノートを戻って確認する。


「ああ、そうだった」


理解してから、もう一度形成する。


今度は最後までできた。


エイルは術式を消した。


学校を卒業したからといって、三年間覚えたことをそのまま放っておけばいいわけではない。


明日も仕事を探す。


仕事がなければ、その時間で練習すればいい。


エイルはノートを閉じた。


町で暮らし始めて二日。


稼げたのは、今日の荷下ろし一回だけだった。

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