第百九話 仕事の探し方
三年目も半ばを過ぎると、卒業後の話が教室のあちこちで聞こえるようになった。
レオンは騎士団の試験に向けて訓練を続けている。
ノアは候補にしている工房をいくつか訪ねていた。
セレナは卒業後、領地へ戻ることが決まっている。
ミナは文書を扱う仕事と、子供に教える仕事の両方を見ている。
カイは家へ戻るか、一度別の商会で働くかを家族と相談していた。
エイルも、まったく何も決めていないわけではない。
卒業したら、すぐ村へ戻って一つの仕事に就くのではなく、外で働いてみたい。
できれば、いろいろな場所へ行く仕事がいい。
そこまでは決まった。
問題は、その先だった。
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野外活動の授業が終わったあと、エイルは道具を片づけているバルガのところへ行った。
「先生」
「なんだ」
「仕事って、どうやって探すんですか?」
バルガの手が止まる。
「何の仕事だ」
「外でするやつ」
「広すぎる」
「じゃあ、護衛とか。採取とか。魔物が出たところへ行く仕事とか」
「全部探し方が違う」
「そうなの?」
バルガは道具を棚へ戻した。
「護衛なら、商会が人を探すことがある。隊商を組む商人が、知っている人間へ直接声をかけることもある」
「採取は?」
「薬屋や工房が、必要な物を集める人間を探すことがある。自分で採って、買い取る相手を探す奴もいる」
「魔物は?」
「それが一番決まってない」
エイルは首を傾げた。
「決まってない?」
「畑を荒らされた農家が、近くの狩人に頼むこともある。村で手に負えなければ、町へ来た商人に腕の立つ奴を知らないか聞くこともある。以前頼んだ相手へ人を送ることもある」
「じゃあ、どこか一か所に行けば仕事が並んでるわけじゃない?」
「ない」
「知らない町だったら?」
「聞け」
「誰に?」
「何をしたいかで変わる。荷運びなら運送をしているところ。護衛なら商人や商会。採取なら買う店だ」
「魔物は?」
「被害が出ている場所を知っていそうな人間に聞く」
「誰が知ってる?」
「それを探すところからだ」
「大変だな」
「だから仕事なんだ」
エイルは少し考えた。
学校では、授業を受ける場所が決まっている。
教室へ行けば先生がいる。
必要な本は図書館へ行けば探せる。
けれど、外の仕事はそうではないらしい。
「魔物への対応をしてる人って、どうしてるんですか?」
「長くやっている奴なら、以前の相手からまた声がかかる。知り合いの商人から話が回ってくることもある」
「始めたばっかりなら?」
「経験のある奴についていくのが一番ましだな」
「仕事を教えてもらうため?」
「それもある」
バルガはエイルを見る。
「誰が信用できるか。どの村なら誰に話を聞けばいいか。どの宿に商人が集まるか。そういうことも一緒に覚えられる」
エイルは頷いた。
「じゃあ、卒業したら誰かについていくのがいい?」
「相手が連れていってくれればな」
「そこもあるのか」
「当然だ」
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数日後。
三年生の授業で、ヴァレンから一枚の紙が配られた。
「今日は街へ出ます」
教室が少しざわつく。
「ただし、仕事を受けに行くわけではありません」
紙にはいくつかの欄があった。
仕事の種類。
どこで探したか。
誰に聞いたか。
必要な経験。
雇われ方。
「卒業後に興味のある仕事を一つか二つ選び、この街ではどうやってその仕事へたどり着くのか調べてください」
エイルは紙を見る。
「たどり着く?」
「例えば、商店で働きたいなら店へ直接聞く方法があります。工房なら見習いを募集しているかもしれません。では、皆さんが考えている仕事はどうでしょう」
カイがエイルの紙を覗く。
「何にする?」
「外の仕事」
「また広い」
「じゃあ荷運びと護衛」
少し考える。
「あと魔物」
「増えてるぞ」
「二つまで?」
「先生は一つか二つって言ったな」
「じゃあ途中で聞けたら聞く」
「そういうところだけ自由だな」
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二人はまず、以前の実習で訪れた運送商会へ向かった。
理由は簡単だった。
場所を知っていたからだ。
受付の男に学校の実習だと説明すると、仕事の合間に話を聞かせてもらえた。
「卒業したあと、荷運びの仕事をしたかったら、ここに来ればいいんですか?」
「人が足りなければ雇うことはある」
「いつ足りなくなります?」
「それが分かれば楽なんだがな」
男が笑う。
大きな荷が入る時期。
急に人が来られなくなった日。
遠くまで荷車を出すとき。
必要な人数は、その都度変わる。
一方で、倉庫の仕事や御者など、長く雇う人間を探す場合もあるという。
「じゃあ、今日来て仕事ありますかって聞いても、ないこともある?」
「もちろん」
「明日なら?」
「明日もないかもしれん」
「来週は?」
「分からん」
エイルは紙に書き込む。
カイが横から見る。
「何て書いた?」
「行っても仕事があるとは限らない」
「そのままだな」
「分かりやすいだろ」
受付の男が笑った。
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次に薬屋へ行った。
これは採取の仕事について聞くためだ。
「薬草って、採って持ってきたら買ってくれますか?」
店の女主人が首を振った。
「物によるよ」
「薬草なら何でもじゃない?」
「こっちが余るほど持ってる物を、さらに持ってこられても困るからね」
今欲しい薬草をいくつか教えてもらう。
学校で名前を習ったものもあった。
ただし、採れば終わりではない。
傷んでいないか。
必要な部分を正しく採っているか。
別の植物と間違えていないか。
乾燥が必要なものなら、状態はどうか。
同じ植物でも、それで値段が変わる。
「結構見るんですね」
「薬にするんだからね」
「採るだけじゃ駄目か」
「採るだけなら誰でもできるよ。使える状態で持ってくるところまでが仕事さ」
エイルはまた紙へ書いた。
『欲しい物を、使える状態で持っていく。』
少し考えて、その下に付け足す。
『何が欲しいか先に聞く。』
「それ大事だね」
女主人に言われた。
「ですよね」
エイルは少し嬉しくなった。
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昼過ぎに学校へ戻ると、それぞれが調べた内容を持ち寄った。
レオンは商会や隊商の護衛について聞いていた。
「初めての人でも雇う?」
エイルが聞く。
「雇うところもある。ただ、長距離や高価な荷になると、以前頼んだことのある人間を優先するところが多い」
「なんで?」
「荷を預けるからだろ」
「ああ」
知らない人間に高価な荷物を任せる。
考えてみれば、怖い。
別の生徒は農場を回っていた。
忙しい時期だけ人手を増やす農場もある。
工房を調べた生徒は、短期間だけ働く人間より、長く技術を覚える見習いを探しているところが多かった。
役所の仕事を調べた者は、募集の時期や試験について話している。
同じ「働く」でも、入口から違う。
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ヴァレンが前へ出た。
「では、知らない町へ行って仕事を探すとします。どうしますか?」
何人かが手を上げる。
「働きたい店へ直接行きます」
「商会を探します」
「工房なら、見習いを取っているか聞きます」
それぞれ答えが違う。
エイルも手を上げた。
「魔物が出たところへ行く仕事は?」
「エイルなら、どう探しますか?」
「……それが難しいです」
「なぜ?」
「店みたいに、そこへ行けばあるって場所がないから」
ヴァレンが頷く。
「では、どうします?」
エイルはバルガとの話を思い出す。
「商人に聞く」
「その人が知らなければ?」
「宿の人」
「知らなければ?」
「……別の人」
教室の何人かが笑った。
エイルも笑う。
「ずっと聞くことになる」
「そうなる場合もあります」
ヴァレンは黒板に、いくつか言葉を書いた。
商人。
店。
農場。
工房。
知人。
紹介。
「仕事によっては、働きたい人と、働いてほしい人が簡単には出会えません。だから、家族や知人からの紹介が重要になることもあります」
レオンが手を上げる。
「経験者について働くのも、そのためですか?」
「それもあります。仕事そのものを覚えるだけではありません。その人が誰から仕事を受け、誰に相談し、誰を信用しているのかも知ることができます」
エイルは黒板を見る。
仕事をするためには、仕事そのものができればいい。
どこかで、そんなふうに思っていた。
でも実際には、その前がある。
誰が困っているのか知る。
その人に会う。
自分に頼んでも大丈夫だと思ってもらう。
そこまで行かなければ、仕事は始まらない。
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授業が終わったあと、エイルはまたバルガのところへ行った。
「先生」
「今度はなんだ」
「魔物の仕事、思ったより探すの大変です」
「前にも言った」
「今日は実際に聞いてきたから、前より分かった」
「そうか」
バルガは道具の手入れを続ける。
エイルは少し迷ってから聞いた。
「先生、そういう仕事を長くやってる人、知ってます?」
「いる」
「どんな人?」
「魔物への対応もする。護衛もする。採取もする。必要なら荷運びもする」
「何でもやるんだ」
「何でもじゃない。自分にできる仕事をやって食ってるだけだ」
「会って話を聞けます?」
バルガの手が止まった。
「今はいない」
「どこに?」
「知らん」
「先生の知り合いなのに?」
「知り合いなら居場所が全部分かると思うな」
「いつ戻ります?」
「それも知らん」
エイルは困った。
「じゃあ、どうやって会うんです?」
「この町へ戻ったときに、よく使う宿はある」
「そこに行けば?」
「いれば会える」
「いなかったら?」
「いない」
「それだけ?」
「それだけだ」
エイルは少し笑った。
仕事を探すのと同じだった。
行けば必ず会えるわけではない。
「名前は?」
「ガレス」
「ガレス」
エイルは一度、口に出して覚えた。
「長くやってる?」
「十年以上だ」
「一人で?」
「今は一人で動くことが多い。仕事によっては誰かと組む」
「卒業までに戻ってきたら、話聞いてみたい」
「本人がいいと言えばな」
「先生から頼んでくれない?」
「自分で頼め」
「そこも自分?」
「仕事を探したいんだろ」
「……そうだった」
バルガが鼻で笑う。
「宿の場所だけ教えてやる」
「ありがとう」
エイルは紙の端に宿の名前を書いた。
ガレスがいつ戻るかは分からない。
卒業までに会えるかどうかも分からない。
だから、待っていればいいわけではない。
エイルはその紙を折って鞄へ入れた。
明日は、別の商会にも話を聞きに行ってみることにした。




