↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
PR
108/402

第百八話 進路相談


三年目に入ってから、教室では進路の話をすることが増えた。


卒業後に家へ戻る者。


家業を継ぐ者。


商店や工房へ入る者。


役所の仕事を目指す者。


騎士団の試験を受ける者。


さらに学びたい分野を決め、専門の師や職場を探す者もいる。


同じ教室に三年近くいた生徒たちが、少しずつ別々の方向を向き始めていた。


---


「次、エイル」


ヴァレンに呼ばれ、エイルは教室の隣にある小さな部屋へ入った。


机を挟んで座る。


「卒業後について、何か考えていますか?」


「考えてます」


「何を?」


「それがまだ決まってません」


ヴァレンが少し笑った。


「では、そこから話しましょう」


机の上には一枚の紙がある。


これまで受けた授業や実習について書かれていた。


「まず、やりたくないことはありますか?」


エイルは考える。


「ずっと机に座ってる仕事」


「私の前で言いますか」


「あ」


ヴァレンは教師だった。


「先生の仕事が嫌って意味じゃないです」


「分かっています」


エイルは少し安心した。


「ほかには?」


「うーん……」


すぐには出てこない。


逆に、気になるものはいくつもあった。


魔術は好きだ。


身体を動かすのも嫌いではない。


魔物について知るのも面白かった。


商売の授業では、品物がどこから来て、誰を通って、どこへ行くのかを見るのが面白かった。


村へ行った実習も覚えている。


「一つに決めないと駄目ですか?」


「卒業したその日に、一生の仕事を決める必要はありません」


「じゃあ、いろいろやってもいい?」


「雇ってくれるところがあれば」


「そこか」


「そこです」


学校を出れば、授業ではない。


興味があるからといって、好きな仕事を好きなだけ試せるわけではない。


働くなら、相手にも自分を雇う理由が必要になる。


「エイルは、どんな仕事なら自分が役に立つと思いますか?」


「魔術は使えます」


「学校で習った範囲ですね」


「はい」


エイルは少し考える。


「身体強化も使えます。剣も少し」


「少し、という自覚はあるんですね」


「レオンにずっと負けてるので」


「それは比較する相手の問題もありますが」


「あと、歩くのは慣れてます」


「それは仕事を探すうえでは悪くありません」


「本当?」


「外を回る仕事なら」


エイルは少し前のめりになった。


「そういう仕事あります?」


「あります。ただし、何をするかはかなり違います」


ヴァレンは指を折っていく。


「商人の荷物に同行する仕事。各地へ品物を届ける仕事。測量や調査の補助。農地や山林を見る仕事。魔物の被害が出た場所で、詳しい者の補助をする仕事」


「魔物を倒す仕事も?」


「あります。ただ、それだけをして生活している人ばかりではありません」


エイルは頷いた。


魔物学でも聞いたことがある。


農作業をしながら、必要なときだけ周辺の魔物への対処を手伝う者。


狩猟や護衛をしながら、依頼があれば魔物も見る者。


魔術を使える者が同行することもある。


仕事の形は一つではない。


「俺、外を回る仕事がいいかもしれない」


「なぜです?」


「まだ行ったことない場所が多いから」


「なるほど」


「それに、村にいたときは、学校があることもよく知らなかったし」


エイルは少し考えて続けた。


「学校に来たら、知らない仕事もいっぱいあったから。もう少し見たいです」


ヴァレンは紙に何かを書いた。


「それなら、卒業後すぐに職種を一つへ絞るより、いくつかの現場を経験できる仕事を探すのもいいでしょう」


「そんな都合のいい仕事ある?」


「都合がいいかどうかは、働いてみないと分かりません」


「ですよね」


---


「ただし」


ヴァレンが続けた。


「外を回るなら、自分にできないことも分かっておいた方がいい」


エイルは顔を上げる。


「戦闘?」


「それもです」


「魔術?」


「それも」


「いっぱいあるな」


「三年学校へ通っただけで、何でもできるようにはなりません」


エイルは頷いた。


それはもう分かっている。


形成なら得意だ。


だが、知らない術式をその場で自在に作れるわけではない。


身体強化も使える。


けれど、レオンのように剣を扱えるわけではない。


魔物についても習った。


それでも、実際の森で教師より先に危険へ気づけるわけではなかった。


「だから最初は、経験のある人と働きなさい」


「一人で行かない?」


「少なくとも、危険のある仕事はそうしてください」


「分かりました」


「本当に?」


「分かってますよ」


「エイルは気になるものを見つけると近づくので」


「最近はちゃんと止まります」


「最近は、ですね」


「……前よりは」


ヴァレンは少し笑った。


---


「ところで、村へ戻ることは考えていませんか?」


エイルは少し考えた。


「帰りたいとは思います」


父も母もリナもいる。


村のみんなもいる。


「でも、すぐずっと村にいるのは違う気がします」


「ご家族とは話しましたか?」


「休みに帰ったときに少し」


「何と?」


「好きにしろって」


「お父さんが?」


「父さんも母さんも」


実際には、母は心配そうな顔をしていた。


父も「危ない仕事だけはよく考えろ」と言った。


それでも最後には、自分で決めろと言われた。


「なら、卒業までにもう少し具体的に探しましょう」


「どうやって?」


「それも次に考えることです」


エイルは首を傾げた。


「学校が仕事を決めてくれるんじゃないの?」


「紹介できるところはあります。ですが、全員分の仕事を学校が用意するわけではありません」


「じゃあ自分でも探す?」


「はい」


「どこで?」


ヴァレンが少し笑った。


「それを知らないまま卒業するのは困りますね」


「教えてください」


「次の授業でも扱います」


「今は?」


「まず、自分が何を探すのかを考えてください」


エイルは少し不満だったが、頷いた。


---


面談を終えて廊下へ出ると、カイが待っていた。


「どうだった?」


「まだ決まってない」


「俺も」


「カイ、店に戻るんじゃないの?」


「それもあるけど、別の店で働いてみるのもいいかなって」


「なんで?」


「うちのやり方しか知らないから」


エイルは少し驚いた。


「店って、店ごとに違うの?」


「違うだろ」


「何が?」


「仕入れる物も、客も、売り方も」


「へえ」


「商業の授業受けただろ」


「受けたけど、カイの家の店見たことないし」


「今度来いよ」


「遠い?」


「お前の村よりは近い」


「じゃあ行ける」


カイが笑う。


「卒業してからな」


---


その日の夕方。


寮へ戻る途中、エイルは校門の前で立ち止まった。


三年前。


ここへ来たときは、学校の中に何があるのかさえほとんど知らなかった。


今は、卒業したあとのことを考えている。


けれど、外の仕事については、まだ知らないことの方が多い。


「何してる?」


後ろからカイが来た。


「仕事のこと考えてた」


「決まった?」


「外を回るやつ」


「広すぎるだろ」


「俺もそう思う」


「じゃあもうちょっと考えろ」


「だから考えてたんだよ」


二人は寮へ向かって歩き出した。


どこで働くのか。


誰と働くのか。


どうやって仕事を見つけるのか。


まだ、どれも決まっていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。