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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第百七話 雨の帰路


朝食を終える頃になっても、雨は止まなかった。


激しい雨ではない。


ただ、細かい雨が途切れずに降り続いている。


中継所の軒下から街道を見ると、昨日より地面の色が濃くなっていた。


「帰れる?」


エイルが聞いた。


バルガは空を見上げた。


「その判断をするのも実習だ」


「先生が決めるんじゃないんですか?」


「危険なら俺が止める。それまではお前たちで考えろ」


班ごとに地図を広げた。


予定していた帰路は、昨日とは違う道だった。


街道から途中で外れ、小さな森を抜けて学校へ戻る。


「雨でも通れるかな」


エイルが言う。


レオンは地図を見ていた。


「昨日説明された道なら、途中に斜面がある」


「あったね」


「雨で滑るかもしれない」


「じゃあ昨日の道?」


別の生徒が言った。


「でも昨日の道も沢の近く通ったよね」


「ああ」


エイルは思い出す。


昨日休憩した場所だ。


細い沢だったが、周囲はすでにぬかるんでいた。


「雨降ったら水増える?」


「増えるだろうな」


「どっちも嫌だな」


エイルが言うと、レオンが頷いた。


「だから比べるんだろ」


---


出発前に、中継所を管理している男にも話を聞いた。


「森の道ですか?」


男は外を見る。


「この程度なら通れないことはないと思いますよ。ただ、あそこは雨の後だと足元が悪い」


「沢の方は?」


レオンが聞く。


「今朝くらいなら大丈夫でしょう。ただ、このまま降り続けば分かりません」


エイルが聞く。


「どっちがいいですか?」


「それを決めるのは私じゃないでしょう?」


笑われた。


エイルはレオンを見る。


「みんな同じこと言う」


「実習だからな」


班で相談する。


結局、昨日通った街道を戻ることにした。


距離も道の状態も、一度自分たちで確認している。


沢については、到着した時点で危険なら近づかず、別の道を考える。


「これでいい?」


エイルが聞く。


レオンが答える。


「俺はいい」


他の生徒たちも頷いた。


バルガは何も言わなかった。


それが出発の合図になった。


---


雨の中を歩くのは、昨日よりずっと疲れた。


雨具を着ている。


それでも袖や足元から少しずつ濡れていく。


地面は柔らかく、靴が沈む。


「昨日より荷物軽いのに重い」


エイルが言った。


「食料減ったからな」


「なのに重い」


「昨日も同じ話したぞ」


「今日は本当に重い」


レオンが振り返る。


「喋る元気あるなら大丈夫だ」


「レオンは?」


「大丈夫だ」


「じゃあ喋ろうよ」


「前見て歩け」


その直後、エイルの足が滑った。


「うわっ」


踏ん張る。


転びはしなかった。


レオンが見る。


「だから言っただろ」


「今のは雨のせい」


「雨の中歩いてるんだから同じだ」


エイルは黙って前を向いた。


---


しばらく進むと、先頭の生徒が止まった。


「ここ、昨日と違わない?」


街道の端から水が流れている。


小さな流れだった。


昨日にはなかった。


全員が近づきすぎないところで止まる。


エイルは地図を見る。


「川じゃないよね」


「雨水だろ」


レオンが周囲を見る。


山側から流れてきた水が、街道を横切って低い方へ抜けている。


深くはない。


歩いて渡れる程度だ。


ただ、地面はかなり柔らかくなっていた。


「行ける?」


「一人ずつなら」


「荷物あるぞ」


「杖使う?」


班で話す。


後ろからバルガが来た。


「決まったか?」


エイルが答える。


「渡ろうと思います。でも一人ずつ」


「他には?」


レオンが水の流れを見る。


「渡る前に、向こう側の地面も確認します」


「どうやって?」


少し考える。


長い枝を拾い、手前から届く範囲を確かめることになった。


水そのものより、その下や先の地面が崩れないかを見る。


問題なさそうだった。


最初の一人が渡る。


次。


エイルの番になる。


「行くよ」


「わざわざ宣言しなくていい」


レオンが言う。


「滑ったら助けて」


「滑る前にちゃんと歩け」


一歩。


もう一歩。


靴が水に入る。


冷たい。


「冷たっ」


「止まるな」


渡り切る。


エイルは振り返った。


「余裕だった」


「声出してただろ」


---


昼前。


昨日の沢へ近づくにつれて、水の音が大きくなった。


エイルにも分かった。


「増えてる」


昨日は細かった流れが、今日ははっきりした沢になっている。


水は濁っていた。


休憩に使った木陰の近くまで水が広がっている。


「昨日ここで水見たよね」


「ああ」


「全然違う」


班は沢から距離を取って止まった。


予定していた場所を通れるか確認する。


橋はない。


昨日は石を踏めば簡単に越えられる程度だった。


今は、その石のいくつかが水に隠れている。


「渡らない方がいい」


レオンが言った。


エイルも今回はすぐに頷いた。


「うん」


「じゃあどうする?」


地図を開く。


少し戻れば、街道から別の道へ分かれる場所がある。


かなり遠回りになる。


エイルは沢を見る。


「戻ろう」


誰も反対しなかった。


---


一時間近く余計に歩くことになった。


「疲れた」


エイルが何度目か分からない言葉を口にする。


「知ってる」


レオンが答える。


「沢渡った方が早かったかな」


「やめろ」


「渡るって意味じゃないよ」


「なら言うな」


「でも昨日なら渡れたのに」


「今日は今日だ」


その言葉に、エイルは少しだけ後ろを見る。


もう沢は見えない。


昨日通れた。


地図にも道がある。


それでも今日は使わなかった。


「外って面倒だね」


「それも何回目だ」


「だって毎回違うじゃん」


レオンは少し考えてから答えた。


「だから確認するんだろ」


「そっか」


今度はエイルも、それ以上何も言わなかった。


---


学校が見えたのは、予定よりかなり遅い時間だった。


門を通った瞬間、生徒たちから声が上がった。


「着いた!」


エイルも荷物を下ろしたかったが、まだ終わりではない。


教室へ戻る。


濡れた装備を決められた場所へ置く。


借りた道具を確認する。


それから簡単な振り返りを行った。


バルガが黒板の前に立つ。


「予定通りだった班は?」


誰も手を挙げなかった。


教室に笑いが起こる。


「なら、それぞれ何が変わった」


生徒たちが順番に答える。


雨。


道。


水量。


移動時間。


休憩場所。


装備。


エイルの班では、予定していた沢を渡れず迂回したことを報告した。


「予定より遅れました」


レオンが言う。


「判断を変えた理由は?」


「昨日より水量が増えていて、安全に渡れるか判断できなかったからです」


「結果は?」


「全員戻りました」


バルガが頷く。


「ならいい」


エイルが手を挙げた。


「遅れても?」


「遅れない方がいい」


「じゃあ駄目?」


「予定を守るために危ない沢を渡る方が駄目だ」


「ああ」


「予定は必要だ。だが、予定通りにすることが目的じゃない」


エイルは今日の地図を見る。


書き込みだらけになっている。


出発前に決めた道。


実際に歩いた道。


休憩した場所。


通らなかった沢。


全部が残っていた。


---


寮へ戻ると、カイが部屋にいた。


「おかえり」


「ただいま」


エイルは荷物を床に置いた。


「疲れた」


「昨日は楽しいって言ってなかった?」


「楽しかったよ」


「じゃあもう一泊してくれば?」


「今日はベッドで寝る」


カイが笑う。


「雨どうだった?」


「道が全然違った」


エイルは靴を脱ぎながら、沢の話を始めた。


昨日は通れたこと。


今日は水が増えていたこと。


遠回りしたこと。


予定より帰るのが遅くなったこと。


カイは一通り聞いてから言った。


「大変だったな」


「うん」


エイルはベッドに倒れ込んだ。


少しして、顔だけ上げる。


「でもまた行きたい」


「元気だな、お前」


「次は晴れてる日に」


「それじゃ今回習ったこと使わないだろ」


「……じゃあ、少しくらい雨でもいい」


「寝ろ」


「うん」


今度は言われた通り、エイルはそのまま目を閉じた。


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