第百四話 二年目の終わり
二年目も後半になると、学校の外へ出ること自体は珍しくなくなっていた。
最初の頃は、実習の日になるだけで教室が騒がしかった。
どこへ行くのか。
何をするのか。
昼食は持っていくのか。
そんな話ばかりしていたが、今ではヴァレンが予定を伝えても、
「明日は商会です」
「はい」
くらいで終わる。
エイルも同じだった。
ただし、行った先で質問する量はあまり変わっていなかった。
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この日の実習先は、街の外れにある農場だった。
春にも一度来た場所だ。
そのときは畑の手入れを手伝った。
今は収穫の時期を迎えている。
「これ、前に俺たちがやったところ?」
エイルが聞く。
農場の男が頷いた。
「そうだよ」
「育った」
「そりゃ育つさ」
「あのとき小さかったのに」
「育ててるんだからな」
エイルは畑を見る。
以前は土と小さな芽ばかりだった場所が、今は作物で埋まっている。
生徒たちは収穫したものを分ける作業を任された。
傷がないもの。
少し傷んでいるもの。
売り物にしにくいもの。
「これくらいの傷でも駄目?」
エイルが一つ持ち上げる。
「食べるだけなら問題ない」
農場の男が答えた。
「じゃあ売れる?」
「安くなら売れることもある」
「捨てない?」
「使えるものは使うよ」
エイルは別の籠へ入れた。
村で魔物に荒らされた畑を見たときにも、作物の値段や収穫について調べた。
あのとき紙の上で計算したものを、今は自分の手で分けている。
「エイル」
ミナに呼ばれた。
「何?」
「それ、違う籠」
「え?」
見る。
間違えていた。
「戻して」
「はい」
知っていることが増えても、間違えるときは間違える。
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学校へ戻ると、今度は普通の授業だった。
二年目の基礎魔力学も、そろそろ終わりに近い。
ヴァレンが術式を黒板に書いた。
一年目なら、それだけで教室中からため息が出そうな長さだった。
今は皆、黙って紙へ写している。
「この術式を読んで、問題点を一つ見つけてください」
エイルも線を追う。
最初の条件。
次。
その次。
途中で一度戻る。
「……ここ?」
隣の生徒の紙は見ない。
もう一度読む。
しばらくして、エイルは一か所に印をつけた。
答え合わせ。
「この接続です」
ヴァレンが示した場所は、エイルが選んだところと同じだった。
「よし」
小さく呟く。
ただし理由は少し違っていた。
エイルは出力条件の問題だと思っていたが、実際には発動順序との組み合わせが問題だった。
「半分?」
授業後、セレナに聞く。
「場所は合ってたんだから半分くらいじゃない?」
「じゃあ次は全部」
「その前に、どうしてそうなるか復習したら?」
「する」
一年目なら、術式を見ても何から考えればいいのか分からないことが多かった。
今は間違っていても、自分なりに読めるところが増えている。
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戦闘の授業でも試験があった。
走る。
武器を扱う。
身体強化を使う。
最後に短い模擬戦。
エイルの相手はレオンではなかった。
木剣を構える。
相手は盾を持っている。
以前なら正面から何度も打ち込んでいた。
今回は一度打つ。
止められる。
すぐには二撃目を出さず、横へ動く。
相手も向きを変える。
もう一度。
盾が動いたところで反対側へ回る。
木剣が相手の肩に触れた。
「そこまで」
教師の声が飛ぶ。
エイルは止まった。
「今のは?」
「悪くない」
「勝ち?」
「試験だ。勝ち負けだけ見てない」
「でも当たった」
「聞け」
教師に注意される。
少し離れたところでレオンが笑っていた。
試験が終わってから、エイルはすぐに近づいた。
「見た?」
「見た」
「盾、ちゃんと考えた」
「ああ」
「前より強くなった?」
「なった」
エイルが笑う。
「でも」
レオンが続けた。
「最後、足が揃ってた」
エイルが止まる。
「どこ?」
「当てた直後」
「当たったのに?」
「その後があるだろ」
「……そっか」
「あとでやるか?」
「やる」
「試験終わったばかりだぞ」
「レオンが言ったんじゃん」
「言ってない」
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二年目の終わりが近づくにつれ、食堂での話題も少し変わった。
「来年どうする?」
カイが言った。
エイルが顔を上げる。
「何が?」
「授業」
三年目には、選択できる内容がさらに分かれる。
二年目に触れたものの中から、より深く学ぶ授業を選ぶことになる。
ノアは迷わなかった。
「魔道具」
「即答だな」
「うん」
「工房も?」
「取れるなら」
カイは商業関係を続けるつもりだった。
「店やるの?」
エイルが聞く。
「まだ決めてないって」
「でも商業?」
「使えそうだからな」
「何に?」
「それを来年考える」
「決まってないじゃん」
「お前に言われたくない」
セレナは行政と法を続ける。
レオンは戦闘と護衛に関わる授業。
ミナは文書や記録に加えて、人に教えることにも興味を持ち始めていた。
「エイルは?」
全員が見る。
「俺?」
カイが言う。
「お前以外に誰がいる」
エイルは考えた。
二年目にやったことを思い出す。
戦闘。
魔術。
魔物。
商業。
実習では商店、工房、役所、農場、治療院、運送商会にも行った。
村で魔物による被害も調べた。
「戦闘は続ける」
「それは知ってる」
レオンが言う。
「魔物も」
「うん」
「魔術もやりたい」
カイが指を三本立てる。
「もう三つ」
「あと――」
「まだあるのかよ」
エイルは笑った。
「実習も色々行きたい」
「それ授業名じゃないだろ」
「じゃあ、まだ決めてない」
「結局それか」
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二年目最後の日。
ヴァレンが教室で三年目について説明した。
「来年は、この学校で過ごす最後の一年になります」
一年前なら、まだずっと先の話に聞こえただろう。
今は違った。
「授業は続きます。実習もあります。ただ、三年目は卒業後について考える時間も増えます」
就職する者。
家業へ戻る者。
さらに別の場所で学ぶ者。
親族の仕事を手伝う者。
道は一つではない。
「休暇中に決めてくる必要はありません。ただ、自分がこれまで何を学び、何に興味を持ったのかくらいは考えてみてください」
授業が終わる。
教室のあちこちで、休暇の話が始まった。
エイルも荷物をまとめる。
「今年は村帰るの?」
カイが聞く。
「帰るよ」
「また二週間?」
「うん」
「遠いなあ」
「慣れた」
「俺なら嫌だ」
「カイの家近いからでしょ」
「三日でも遠いと思ってる」
「近いよ」
「お前基準にするな」
二人で教室を出る。
一年目の終わりには、エイルは何を選べばいいのか分からなかった。
二年目が終わった今も、卒業後に何をするのかは決まっていない。
ただ、選べない理由は少し変わっていた。
知らないからではない。
実際に見てみると、面白いものがいくつもあったからだ。
「エイル」
先を歩いていたカイが振り返る。
「早くしろ。食堂混むぞ」
「待って!」
エイルは駆け出した。
三年目は、長い休暇のあとに始まる。




