↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
PR
103/402

第百三話 違う実習


村での実習が終わってからも、二年目の授業は続いた。


毎週外へ出るわけではない。


学校で普通に授業を受ける日の方が多く、その合間に実習が入る。


商店で商品を数えたり。


工房で道具を作ったり。


農場で収穫を手伝ったり。


役所で書類を整理したり。


実習先が変われば、やることもまったく違った。


---


ある日の実習先は、街の運送商会だった。


建物の裏には何台もの荷車が並び、人が忙しく荷物を積み込んでいる。


「今日は荷運び?」


エイルが聞く。


案内役の男が笑った。


「お前たちに全部運ばせたら日が暮れる」


「俺、結構持てますよ」


「そういう問題じゃない」


生徒たちに渡されたのは、荷物ではなく紙だった。


「今日出る荷車が三台ある。荷物を間違えないように分けてくれ」


紙には行き先と品物が書かれている。


北の村。


西の町。


南の農場。


エイルは木箱に付けられた札を見る。


「これ簡単じゃない?」


「そう思うだろ?」


カイが言った。


「何?」


「たぶん何かある」


「なんで?」


「こういう課題、だいたい途中で何かあるから」


商業の授業で何度も引っかかった経験から、カイは慎重になっていた。


エイルも紙を最初から読む。


「……あ」


「何?」


「西の町に行く荷車、途中の橋が使えない」


「書いてあるな」


「じゃあ行けない?」


近くにいた商会の男が答える。


「別の道がある」


地図を見せてもらう。


確かに迂回路があった。


ただし、距離が長い。


「荷物減らすんですか?」


エイルが聞く。


「なぜ?」


「遠くなるから」


「遠くなったら荷物を減らすのか?」


「……分からない」


男が笑う。


「今回は減らさない。ただ、到着は遅くなる」


「じゃあ相手に言う?」


「そうだな」


男は別の紙を取り出した。


到着予定の変更を知らせるためのものだった。


「運ぶだけじゃないんだ」


「運ぶために必要なことが色々あるんだよ」


---


荷物を分け終えると、今度は実際の積み込みを手伝った。


重い箱は大人が運ぶ。


生徒たちは比較的軽い荷物を担当する。


エイルは箱を一つ持ち上げた。


「これ、奥でいい?」


「待て」


商会の男が止める。


「何が入ってる?」


札を見る。


「瓶」


「その上に重い箱を積んだら?」


「割れる」


「だから先に積めばいいわけでもない」


荷車の中を見る。


重いもの。


壊れやすいもの。


途中で先に降ろすもの。


全部を考えて積む必要がある。


エイルは箱を一度下ろした。


「面倒だ」


「また言ってる」


カイが笑う。


「商店でも言ってたよね」


ミナまで覚えていた。


「だって本当に考えること多い」


「仕事だからね」


---


別の日には、治療院へ行った。


ここでは仕事を手伝うというより、見学が中心だった。


薬草や包帯などの保管場所。


患者について記録する帳面。


治療に使う道具。


生徒たちは治療そのものには触れない。


エイルは棚に並んだ薬草を見る。


魔物と薬草の授業で見たものもあった。


「これ知ってる」


「何に使う?」


治療師に聞かれる。


エイルは止まった。


「傷……?」


「広すぎるな」


「授業では見たんです」


「見ただけか」


「はい」


「なら勝手に使うなよ」


「使いません」


治療師は乾燥した葉を一枚取った。


「同じ薬草でも、使う部分や処理の仕方が違うことがある。量もある」


「食べたら?」


「物による」


「いっぱい食べたら早く治る?」


「ならない」


「そうなんだ」


「薬は飯じゃない」


後ろでカイが笑っていた。


---


その日の後半、エイルたちは倉庫の整理を手伝った。


包帯。


消毒に使う薬。


薬草。


清潔な布。


それぞれ決められた場所へ置く。


ミナが棚の札を確認していた。


「こっち、残り少ない」


治療師が見る。


「本当だな」


帳面を確認する。


「補充を書いておくか」


エイルが聞く。


「なくなってから買うんじゃ駄目なんですか?」


「急に必要になったらどうする?」


「買いに行く」


「怪我人に待ってもらうのか?」


「あ」


エイルは棚を見る。


まだ残っている。


だから足りていると思った。


けれど、次に何人来るかは分からない。


「余ったら?」


「腐るものなら余らせすぎても困る」


「また両方だ」


「何が?」


「足りなくても駄目で、多すぎても駄目」


治療師が笑った。


「大抵の仕事はそんなもんだ」


---


季節が進むにつれて、選択授業の内容も少しずつ難しくなった。


基礎魔力学では、一年目より複雑な術式を読むようになった。


エイルは形成そのものでは困らない。


けれど条件が増えると、どの部分が何を決めているのか分からなくなることがある。


「ここ」


セレナが紙を指す。


「この条件が先に働くの」


「こっちじゃなくて?」


「それだと、この部分につながらないでしょ」


エイルは線を追う。


「……あ、本当だ」


「形成する前に読んで」


「読んだよ」


「読めてないから言ってるの」


その代わり、実際に形成する段階になるとエイルの方が早い。


同じ授業でも、得意なところは違った。


---


戦闘の授業では、初めて盾を持った相手との模擬戦をした。


エイルは正面から打ち込んだ。


止められる。


もう一度。


また止められる。


三度目。


教師が止めた。


「同じところを三回殴ってどうする」


「どかそうと思って」


「相手もどかされないように持っている」


「じゃあもっと強く?」


「まず頭を使え」


横で見ていたレオンが笑った。


「笑うなよ」


「いや」


「レオンならどうする?」


「自分で考えろ」


「カイみたいなこと言う」


「誰だそれは」


---


夜。


食堂にはいつもの六人がいた。


「今日何した?」


エイルがノアに聞く。


「魔道具の修理」


「作るんじゃなくて?」


「今日は壊れたやつ」


「直った?」


「一個は」


「もう一個は?」


「原因が分からなかった」


「先生も?」


「先生は分かってた」


「教えてもらえばよかったじゃん」


「最後に教えてもらった」


ノアはパンを食べながら続ける。


「でも、自分で探す時間が面白かった」


「やっぱりノア、魔道具好きだね」


「たぶん」


以前なら「まだ分からない」と言っていたノアが、少しだけ言い方を変えていた。


エイルはカイを見る。


「カイは?」


「商会」


「俺もこの前行った」


「うちは別のところ。帳簿見せてもらった」


「面白かった?」


「結構」


セレナは行政関係の実習。


ミナは文書整理と、街の小さな学校で授業の補助。


レオンは衛兵の訓練見学と基礎訓練。


それぞれ違う場所へ行くことが増えていた。


「エイルは結局、何が一番面白いの?」


ミナが聞いた。


「一番?」


「うん」


エイルは考える。


戦闘は好きだった。


魔術も面白い。


魔物について知るのも好きだ。


商売も、実際にやってみると思っていたより面白かった。


工房もまた行きたい。


村での調査も覚えている。


「……まだ決められない」


カイが笑う。


「二年目終わっても言ってそう」


「まだ終わってないよ」


「だから言ってるんだよ」


エイルはパンを食べながら、少し考えた。


「でも前よりは、何してる仕事なのか分かるようになった」


「それはそうかもね」


ミナが言う。


学校の外へ出るたび、知らない仕事があった。


同じ仕事でも、見ただけでは分からないことがあった。


二年目は、そうやって少しずつ過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。