第百三話 違う実習
村での実習が終わってからも、二年目の授業は続いた。
毎週外へ出るわけではない。
学校で普通に授業を受ける日の方が多く、その合間に実習が入る。
商店で商品を数えたり。
工房で道具を作ったり。
農場で収穫を手伝ったり。
役所で書類を整理したり。
実習先が変われば、やることもまったく違った。
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ある日の実習先は、街の運送商会だった。
建物の裏には何台もの荷車が並び、人が忙しく荷物を積み込んでいる。
「今日は荷運び?」
エイルが聞く。
案内役の男が笑った。
「お前たちに全部運ばせたら日が暮れる」
「俺、結構持てますよ」
「そういう問題じゃない」
生徒たちに渡されたのは、荷物ではなく紙だった。
「今日出る荷車が三台ある。荷物を間違えないように分けてくれ」
紙には行き先と品物が書かれている。
北の村。
西の町。
南の農場。
エイルは木箱に付けられた札を見る。
「これ簡単じゃない?」
「そう思うだろ?」
カイが言った。
「何?」
「たぶん何かある」
「なんで?」
「こういう課題、だいたい途中で何かあるから」
商業の授業で何度も引っかかった経験から、カイは慎重になっていた。
エイルも紙を最初から読む。
「……あ」
「何?」
「西の町に行く荷車、途中の橋が使えない」
「書いてあるな」
「じゃあ行けない?」
近くにいた商会の男が答える。
「別の道がある」
地図を見せてもらう。
確かに迂回路があった。
ただし、距離が長い。
「荷物減らすんですか?」
エイルが聞く。
「なぜ?」
「遠くなるから」
「遠くなったら荷物を減らすのか?」
「……分からない」
男が笑う。
「今回は減らさない。ただ、到着は遅くなる」
「じゃあ相手に言う?」
「そうだな」
男は別の紙を取り出した。
到着予定の変更を知らせるためのものだった。
「運ぶだけじゃないんだ」
「運ぶために必要なことが色々あるんだよ」
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荷物を分け終えると、今度は実際の積み込みを手伝った。
重い箱は大人が運ぶ。
生徒たちは比較的軽い荷物を担当する。
エイルは箱を一つ持ち上げた。
「これ、奥でいい?」
「待て」
商会の男が止める。
「何が入ってる?」
札を見る。
「瓶」
「その上に重い箱を積んだら?」
「割れる」
「だから先に積めばいいわけでもない」
荷車の中を見る。
重いもの。
壊れやすいもの。
途中で先に降ろすもの。
全部を考えて積む必要がある。
エイルは箱を一度下ろした。
「面倒だ」
「また言ってる」
カイが笑う。
「商店でも言ってたよね」
ミナまで覚えていた。
「だって本当に考えること多い」
「仕事だからね」
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別の日には、治療院へ行った。
ここでは仕事を手伝うというより、見学が中心だった。
薬草や包帯などの保管場所。
患者について記録する帳面。
治療に使う道具。
生徒たちは治療そのものには触れない。
エイルは棚に並んだ薬草を見る。
魔物と薬草の授業で見たものもあった。
「これ知ってる」
「何に使う?」
治療師に聞かれる。
エイルは止まった。
「傷……?」
「広すぎるな」
「授業では見たんです」
「見ただけか」
「はい」
「なら勝手に使うなよ」
「使いません」
治療師は乾燥した葉を一枚取った。
「同じ薬草でも、使う部分や処理の仕方が違うことがある。量もある」
「食べたら?」
「物による」
「いっぱい食べたら早く治る?」
「ならない」
「そうなんだ」
「薬は飯じゃない」
後ろでカイが笑っていた。
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その日の後半、エイルたちは倉庫の整理を手伝った。
包帯。
消毒に使う薬。
薬草。
清潔な布。
それぞれ決められた場所へ置く。
ミナが棚の札を確認していた。
「こっち、残り少ない」
治療師が見る。
「本当だな」
帳面を確認する。
「補充を書いておくか」
エイルが聞く。
「なくなってから買うんじゃ駄目なんですか?」
「急に必要になったらどうする?」
「買いに行く」
「怪我人に待ってもらうのか?」
「あ」
エイルは棚を見る。
まだ残っている。
だから足りていると思った。
けれど、次に何人来るかは分からない。
「余ったら?」
「腐るものなら余らせすぎても困る」
「また両方だ」
「何が?」
「足りなくても駄目で、多すぎても駄目」
治療師が笑った。
「大抵の仕事はそんなもんだ」
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季節が進むにつれて、選択授業の内容も少しずつ難しくなった。
基礎魔力学では、一年目より複雑な術式を読むようになった。
エイルは形成そのものでは困らない。
けれど条件が増えると、どの部分が何を決めているのか分からなくなることがある。
「ここ」
セレナが紙を指す。
「この条件が先に働くの」
「こっちじゃなくて?」
「それだと、この部分につながらないでしょ」
エイルは線を追う。
「……あ、本当だ」
「形成する前に読んで」
「読んだよ」
「読めてないから言ってるの」
その代わり、実際に形成する段階になるとエイルの方が早い。
同じ授業でも、得意なところは違った。
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戦闘の授業では、初めて盾を持った相手との模擬戦をした。
エイルは正面から打ち込んだ。
止められる。
もう一度。
また止められる。
三度目。
教師が止めた。
「同じところを三回殴ってどうする」
「どかそうと思って」
「相手もどかされないように持っている」
「じゃあもっと強く?」
「まず頭を使え」
横で見ていたレオンが笑った。
「笑うなよ」
「いや」
「レオンならどうする?」
「自分で考えろ」
「カイみたいなこと言う」
「誰だそれは」
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夜。
食堂にはいつもの六人がいた。
「今日何した?」
エイルがノアに聞く。
「魔道具の修理」
「作るんじゃなくて?」
「今日は壊れたやつ」
「直った?」
「一個は」
「もう一個は?」
「原因が分からなかった」
「先生も?」
「先生は分かってた」
「教えてもらえばよかったじゃん」
「最後に教えてもらった」
ノアはパンを食べながら続ける。
「でも、自分で探す時間が面白かった」
「やっぱりノア、魔道具好きだね」
「たぶん」
以前なら「まだ分からない」と言っていたノアが、少しだけ言い方を変えていた。
エイルはカイを見る。
「カイは?」
「商会」
「俺もこの前行った」
「うちは別のところ。帳簿見せてもらった」
「面白かった?」
「結構」
セレナは行政関係の実習。
ミナは文書整理と、街の小さな学校で授業の補助。
レオンは衛兵の訓練見学と基礎訓練。
それぞれ違う場所へ行くことが増えていた。
「エイルは結局、何が一番面白いの?」
ミナが聞いた。
「一番?」
「うん」
エイルは考える。
戦闘は好きだった。
魔術も面白い。
魔物について知るのも好きだ。
商売も、実際にやってみると思っていたより面白かった。
工房もまた行きたい。
村での調査も覚えている。
「……まだ決められない」
カイが笑う。
「二年目終わっても言ってそう」
「まだ終わってないよ」
「だから言ってるんだよ」
エイルはパンを食べながら、少し考えた。
「でも前よりは、何してる仕事なのか分かるようになった」
「それはそうかもね」
ミナが言う。
学校の外へ出るたび、知らない仕事があった。
同じ仕事でも、見ただけでは分からないことがあった。
二年目は、そうやって少しずつ過ぎていった。




