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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第百二話 被害の向こう


村での実習から戻った翌日。


教室の机には、昨日集めた記録が並べられていた。


畑の位置。


作物の被害。


足跡。


糞。


村人から聞いた話。


それぞれの班が集めた情報を、一枚の大きな地図にまとめていく。


「ここ」


ミナが地図を指した。


「私たちが見た、一番被害が大きかった畑」


エイルが印をつける。


「その北に、二匹見たって言ってた人がいた」


「何日前?」


「何日か前」


「そのまま書く?」


「うん。勝手に三日前とかにしない方がいいと思う」


エイルは、


『数日前・二匹を目撃』


と書き込んだ。


隣ではカイが、被害を受けた作物の量を整理していた。


「カイ、それ何?」


「被害の計算」


「計算できるの?」


「正確には無理。どれだけ収穫できたはずか分からないから」


「じゃあ何してるの?」


「先生が、分かる範囲だけ出せって」


昨日確認した畑の広さと、被害を受けた範囲。


村人から聞いた作物の値段。


それらを使って、おおよその損失を考えるらしい。


エイルも紙を覗き込んだ。


「これくらい?」


「たぶんな」


「思ったより少ない」


「一日分ならな」


カイが答えた。


「でもまた来たら増える」


エイルは地図を見た。


三か所の畑に印がある。


「毎日来たら?」


「もっと増える」


「収穫するまでずっと?」


「だから困ってるんだろ」


「そっか」


昨日、村長が退治してもらえるのかと聞いていた。


そのときより少しだけ、理由が分かった。


---


授業の途中で、教師が村についての資料を追加で配った。


どんな作物を育てているのか。


どの時期に収穫するのか。


どこへ売るのか。


村で食べる分はどれくらい必要なのか。


商業の授業で見たような数字もあった。


「これも必要なんですか?」


エイルが聞く。


「被害の大きさを考えるならな」


「畑見たら分かるんじゃないんですか?」


「同じ広さを荒らされても、何を育てているかで違うだろう」


教師は二つの例を黒板に書いた。


収穫直前の作物。


植えたばかりの作物。


「どちらも同じように荒らされたとして、村の人にとってまったく同じ被害か?」


エイルは考える。


「違う」


「なぜ?」


「収穫前の方は、もう育てた後だから」


「それもある」


カイが手を挙げた。


「売る予定だった量も減ります」


「そうだな」


別の生徒が言う。


「植え直せる時期かどうかも違う」


教師が頷く。


黒板に条件が増えていった。


エイルは昨日見た畑を思い出した。


倒れた作物。


食べられた茎。


足跡。


昨日は、それを見て「結構荒らされている」と思った。


けれど、村の人にとって何がなくなったのかまでは考えていなかった。


---


午後には、昨日採取したものについても簡単な報告があった。


足跡。


糞。


食べられた作物の痕。


どれも牙ネズミの特徴と一致する部分が多かった。


「じゃあ牙ネズミだったんですね」


エイルが言う。


「現時点では、その可能性がかなり高い」


魔物学の教師が答える。


「何匹ですか?」


「それは分からない」


「まだ?」


「足跡が重なっている。目撃情報も場所と時間が違う。同じ個体を別々に見た可能性もある」


エイルは地図を見る。


「じゃあ二匹かもしれないし、もっといるかもしれない」


「そういうことだ」


「退治するなら、数が分からないと困りますよね」


「困るな」


レオンが地図を見ながら聞いた。


「この後は学校が討伐するんですか?」


「学校は討伐を請け負っていない」


教師が答える。


「今回の実習で学校が引き受けたのは、被害の確認と調査だ」


「じゃあ村はどうするんですか?」


今度は別の生徒が聞いた。


「村の側で相談することになる。自分たちで対策する場合もあれば、領主側へ相談することもあるし、魔物を狩る者に仕事として頼むこともある」


エイルが顔を上げた。


「魔物を狩る人?」


「いるだろう。護衛や狩り、素材採取などを仕事にしている者たちだ」


魔物学でも聞いたことはあった。


街道の護衛。


危険な場所での採取。


魔物の討伐。


それを仕事にする者はいる。


ただ、エイルの周囲にはいなかった。


「どうやって頼むんですか?」


「町で探すことが多いな。酒場や宿に仕事の話が持ち込まれることもあるし、商人などを通して人を紹介してもらうこともある」


「へえ」


エイルは素直に頷いた。


それ以上、教師も詳しくは話さなかった。


今日の授業は仕事の頼み方を学ぶ時間ではない。


---


数日後。


実習のまとめとして、班ごとに短い報告書を作ることになった。


エイルが最初に書いたものをミナが読む。


「長い」


「必要なこと書いたよ」


「村に着いた時間から書かなくていいと思う」


「でも行ったよ」


「行ったけど、今回の報告に必要?」


エイルは考える。


「……いらない?」


「たぶん」


そこを消す。


「あと、ここ」


『大きな畑がすごく荒らされていた』


「すごく、ってどれくらい?」


「結構」


「それも分からない」


「じゃあどう書くの?」


「確認した範囲を書けばいいんじゃない?」


二人で昨日の記録を見直す。


被害のあった場所。


食害が確認された範囲。


痕跡。


聞き取り。


分からなかったこと。


エイルは書き直した。


「こっちの方が短い」


「その方が読む人も分かるよ」


「ミナ、これ得意だね」


「最近ずっとこういう授業やってるから」


「俺も取ればよかった」


「もう時間割いっぱいでしょ」


「そうだった」


---


報告書が完成すると、教師が班ごとに確認した。


大きな間違いはなかった。


最後にヴァレンが言った。


「今回の実習では、魔物そのものを見ることはありませんでした」


確かにそうだった。


エイルたちが見たのは、荒らされた畑と痕跡だけだ。


「ですが、魔物による問題を見るという意味では、これも一つの形です」


エイルは机の上の報告書を見る。


牙ネズミは小さい。


一匹なら、バルガが一撃で倒せる。


エイルだって以前よりは戦えるようになった。


けれど今回、村の人たちが困っていたのは、牙ネズミとの戦いそのものではなかった。


畑が荒らされる。


食べるものが減る。


売るものが減る。


また来るかもしれない。


「先生」


エイルが手を挙げた。


「はい」


「牙ネズミって、小さい魔物ですよね」


「比較的小型ですね」


「でも村だと結構困るんですね」


ヴァレンは頷いた。


「そうですね」


それだけだった。


---


授業が終わる。


カイが鞄を持ち上げた。


「飯行こう」


「うん」


教室を出ながら、エイルは聞いた。


「カイの家の店も、作物売れなくなったら困る?」


「そりゃ困るだろ。農家が金なくなったら、店でも買わなくなるし」


「農具も?」


「買い替えるの後にするかもしれないな」


「塩は?」


「なんで塩だけ気にするんだよ」


「前に余ったから」


「まだ言ってるのか」


二人は階段を下りていった。


実習で見たのは、ただ荒らされた畑だった。


けれど授業で調べてみると、その周りにはいろいろなものがつながっていた。


エイルはまだ、それを面白がっているだけだった。


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