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THE GUILD  作者: axe
第二章 学びの街
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第百一話 村からの依頼



二年目の実習が始まってから、エイルたちは何度か学校の外へ出るようになった。


商店。


工房。


役所。


農場。


最初は大人たちの仕事を見て、簡単な作業を手伝うものがほとんどだった。


そんなある朝。


教室へ入ってきたヴァレンの後ろには、バルガがいた。


エイルはすぐに気づいた。


「バルガ先生だ」


「見れば分かる」


カイが言う。


「今日は何するんだろ」


「知らない」


ヴァレンが教卓に紙を置いた。


「今日の実習について説明します」


黒板に村の名前を書く。


学校のある街から、馬車で半日ほどの農村だった。


「この村から、学校へ協力の依頼がありました」


教室が少しざわつく。


エイルが手を挙げた。


「何の依頼ですか?」


「畑の被害についてです」


「魔物?」


「その可能性があります」


エイルはバルガを見る。


バルガが前へ出た。


「先に言っておく。今日は討伐訓練じゃない」


一年目の野外訓練を経験した生徒たちは静かに聞いていた。


「村の畑で作物が荒らされている。何がやったのか、どの程度の被害なのか、まだはっきりしていない」


黒板に三つ書く。


被害を見る。


痕跡を探す。


話を聞く。


「今日お前たちがやるのは、この三つだ」


「魔物がいたら?」


レオンが聞いた。


「距離を取って教師に知らせろ。追うな」


「危険があれば?」


「実習を中止する」


バルガは短く答えた。


エイルが聞く。


「倒さないんですか?」


「倒す必要があるかどうかも、まだ分からん」


「そっか」


被害がある。


だから魔物を倒しに行く。


そういう話ではないらしい。


「まず何が起きているのか確認する」


バルガはそう言った。


---


村へ着いたのは昼前だった。


大きな村ではない。


家々の周囲に畑が広がっている。


馬車を降りると、村の男が数人待っていた。


「学校の方ですか」


ヴァレンが代表して話をする。


生徒たちはその後ろで待った。


エイルは周囲を見る。


一見すると、普通の村だった。


自分の故郷にも少し似ている。


ただ、畑の一部だけ様子が違った。


作物が倒れている。


「行くぞ」


バルガの声で、生徒たちは班に分かれた。


エイルの班にはカイ、ミナ、ノアがいた。


教師が一人つく。


最初に向かったのは、被害が出た畑だった。


「思ったより広い」


カイが言う。


畑の端から中央にかけて、作物が何本も倒されている。


エイルはしゃがんだ。


「食べられてる」


茎の一部がなくなっている。


その隣は倒されただけだった。


「こっちは残ってるよ」


ミナが指した。


ノアは少し離れた地面を見ている。


「跡ある」


全員がそちらへ行こうとする。


「待て」


教師が止めた。


「踏むな。まず周囲から見ろ」


「あ」


一年目にも似たことをやった。


全員で痕跡に近づけば、自分たちで消してしまう。


エイルたちは少し離れて見る。


小さな足跡がいくつもあった。


一つではない。


「牙ネズミ?」


カイが言った。


エイルもそう思った。


一年目の事故以来、何度も授業で見た形だった。


教師が確認する。


「似ているな。ただ、今の段階では記録には『牙ネズミと思われる足跡』と書け」


「なんで?」


エイルが聞く。


「足跡しか見ていないからだ」


「ほぼ牙ネズミでも?」


「見ていないものまで見たことにするな」


エイルは記録用紙を見る。


そして、


『牙ネズミと思われる足跡。複数』


と書いた。


「何匹?」


ノアが聞く。


エイルは足跡を見る。


重なっている。


「……分からない」


「じゃあ分からないって書こう」


ミナが言った。


それも書いた。


---


次は村人から話を聞いた。


最初に話したのは、被害を受けた畑の持ち主だった。


「いつ気づきましたか?」


ミナが聞く。


「昨日の朝だ」


「その前の日は?」


「夕方には何ともなかった」


ミナが記録する。


エイルも横で聞いていた。


「魔物見ました?」


「俺は見てない」


「音は?」


「寝てたからなあ」


「前にもありました?」


「小さいのならある」


エイルが聞く。


「どれくらい?」


「たまにな」


「たまにって?」


男が困った顔をする。


「たまには、たまだよ」


エイルも困った。


ミナが横から聞く。


「今年に入ってからだと、何回くらい覚えていますか?」


男は少し考えた。


「二回……いや、三回か」


「今回ほど大きかったですか?」


「いや。前は端をちょっと食われたくらいだ」


ミナがそれを書いた。


エイルが小声で言う。


「上手いね」


「何が?」


「聞くの」


「エイルの『たまにって?』でも意味は分かるけどね」


「答え分からなかった」


「だから聞き方変えたの」


「なるほど」


---


別の村人にも話を聞いた。


「牙ネズミなら見たぞ」


年配の女性が言った。


「いつ?」


エイルが聞く。


「何日か前だね」


「どこで?」


「森の方」


「何匹?」


「二匹だったかな」


ミナが記録する。


「畑の近くですか?」


「いや、もう少し北だよ」


次の男は違うことを言った。


「俺は三日前に一匹見た」


場所も少し違う。


さらに別の人は、


「最近は見てない」


と言った。


エイルは集まった記録を見る。


「みんな違う」


教師が聞く。


「何が?」


「見た場所も、数も」


「そうだな」


「誰か間違ってる?」


「そうとは限らない」


エイルは考える。


「別々の牙ネズミを見たかもしれない?」


「その可能性もある」


「同じやつが動いたかもしれない?」


「それもある」


「じゃあ分からない」


「だから記録するんだ」


教師が答えた。


---


午後。


別の畑も確認した。


こちらは被害が小さい。


端の作物が数本食べられているだけだった。


少し離れたところには糞らしきものも見つかった。


ノアがしゃがむ。


「これも持って帰る?」


「採取する」


教師が専用の容器を取り出した。


「触るなよ」


「触りません」


エイルが覗き込む。


「これ調べたら何食べたか分かる?」


「場合によってはな」


「すごい」


カイが少し離れたところから言う。


「よく糞見てすごいって言えるな」


「だって分かるんだよ」


「俺は遠くから見てる」


---


調査を終え、村の集会所へ戻った。


各班が集めた情報を出す。


被害があった畑は三か所。


大きな被害は一か所。


牙ネズミと思われる足跡。


複数の目撃情報。


ただし、数は確定できない。


教師たちは地図に情報を書き込んでいった。


村長が聞く。


「やっぱり牙ネズミですか?」


ヴァレンが答える。


「可能性は高いと思います。ただ、今日確認できた情報だけで数までは判断できません」


「退治してもらえるんですか?」


「今日は調査までです」


村長は少し残念そうな顔をした。


「そうですか」


エイルはそのやり取りを聞いていた。


学校へ戻れば、今日の実習は終わる。


けれど村では、畑は明日もここにある。


---


帰りの馬車。


カイが座席にもたれた。


「疲れた」


「戦ってないのに?」


エイルが聞く。


「歩いたし、ずっと書いてただろ」


「俺は面白かった」


「糞まで見てたしな」


「調べたら色々分かるんだよ」


向かいに座っていたミナが記録を整理している。


エイルはその紙を見る。


「畑、どれくらい困るんだろ」


カイが答える。


「そりゃ困るだろ」


「でも少し食べられただけのところもあった」


「少しならな」


ミナが顔を上げる。


「最初の畑は結構広かったよ」


「うん」


エイルは倒された作物を思い出した。


魔物学の本で見る牙ネズミは、小型の魔物として書かれている。


危険度も、それほど高い方ではない。


けれど畑に来れば、作物を食べる。


倒す。


村の人が育てたものがなくなる。


「次の授業で今日の記録まとめるんだよね?」


「そう言ってた」


「じゃあ、ちゃんと書かないと」


エイルは自分の記録用紙を取り出した。


馬車が揺れる。


字が曲がった。


「学校着いてからにしたら?」


ミナが言う。


エイルは紙を見た。


「そうする」


記録を鞄へ戻す。


窓の外には、畑が続いていた。


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