第百話 作る側
次の実習先は、学校から少し離れた工房だった。
前回見学した工房よりも大きく、建物もいくつかに分かれている。
木工をする場所。
金属を加工する場所。
完成した部品を組み立てる場所。
そして奥には、魔道具を扱う区画もあった。
「ノア」
エイルが隣を見る。
「何?」
「嬉しそう」
「まだ何もしてない」
「でも嬉しそう」
「うるさい」
否定はしなかった。
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工房の職人が、生徒たちを作業台の前に集めた。
「今日は簡単な照明具を作ってもらう」
机の上には、手のひらほどの木製の台と、薄い金属板、小さな透明板などが置かれていた。
エイルが聞く。
「光るんですか?」
「最後までちゃんとできればな」
「魔術使う?」
「使う。ただし、先に道具を作る」
職人は部品を一つずつ説明した。
土台を整える。
金属板を決められた位置に固定する。
魔力を通す部分を作る。
その上で、あらかじめ決められた術式を組み込む。
「術式だけできても駄目なんですか?」
「その術式をどこに入れる?」
「ここ?」
「そこに入るように作れていればな」
エイルは部品を見る。
基礎魔力学では、完成した術式そのものを扱うことが多い。
けれど魔道具では、その術式を入れる場所から作らなければならない。
「面白い」
横を見る。
ノアはもう説明用の見本を覗き込んでいた。
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作業が始まった。
エイルは木製の土台に金属板を取り付ける。
「……入らない」
押す。
入らない。
向きを変える。
やはり入らない。
「ノア」
「何?」
「これ入らない」
ノアが見る。
「土台削った?」
「削ったよ」
「足りないんじゃない?」
「でも線まで削った」
ノアが土台を手に取る。
少し見る。
「ここ斜めになってる」
「どこ?」
「ここ」
指を差されても、エイルにはほとんど違いが分からない。
「ちょっとだけじゃん」
「だから入らないんだよ」
前の工房でも似たようなことを言われた気がする。
エイルはもう一度削った。
今度は金属板が入った。
「入った!」
「押し込みすぎ」
「え?」
少し深く入っている。
「取れる?」
「取れると思う」
二人で外す。
「壊すなよ」
職人から声が飛んできた。
「はい!」
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ノアは速く作るわけではなかった。
むしろエイルより遅い。
部品を合わせる。
外す。
見る。
少し削る。
また合わせる。
「まだ?」
エイルが聞く。
「まだ」
「入るじゃん」
「少し動く」
「動いたら駄目なの?」
「たぶん」
「たぶん?」
ノアが職人を呼んだ。
「これ、これくらい動いても大丈夫ですか?」
職人が確認する。
「この程度なら使える。ただ、長く使っていると緩みやすいな」
「じゃあ直します」
「そうした方がいい」
ノアはまた部品を外した。
エイルが見る。
「使えるって言ってたよ」
「長く使ったら困るって言っただろ」
「今は使えるのに?」
「今だけ使えても仕方ないだろ」
ノアは当然のように答えた。
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土台が完成すると、ようやく魔術を扱う作業になった。
決められた術式を、魔力を通す板へ形成する。
ここはエイルが得意だった。
見本を見る。
構造を確認する。
形成する。
一度で形が整った。
「できた」
ノアが振り向く。
「早いな」
「うん」
エイルは少し嬉しくなる。
ノアはまだ形成している。
こちらはエイルの方が明らかに速かった。
ところが。
「じゃあ組み込め」
職人に言われ、エイルは完成した板を土台へ取り付けようとした。
止まった。
「……入らない」
ノアが見る。
「また?」
「今度はちゃんと削ったよ」
職人が来る。
板を見る。
土台を見る。
「ここの留め具が逆だ」
「これ?」
「そう」
エイルは外して付け直す。
今度は入った。
「できた」
魔力を通す。
透明板の向こうに、小さな光が灯った。
「おお」
思ったより嬉しかった。
エイルは手のひらほどの照明具を見る。
自分が普段使う魔術とは違う。
誰かが魔力を通せば、同じように光る。
隣でも光が灯った。
ノアのものだった。
「できた!」
珍しく大きな声だった。
「ノアのも光った」
「うん」
ノアは照明より、その周りを確認している。
「何見てるの?」
「ちゃんと固定できてるか」
「光ってるよ」
「光ってても外れたら駄目だろ」
エイルは自分の照明具を見る。
少し振ってみる。
「振るな!」
職人に怒られた。
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午後は、完成品の検査を手伝った。
作ったものを動かして終わりではない。
一定時間光るか。
途中で暗くならないか。
部品が緩まないか。
熱を持ちすぎないか。
いくつか確認する。
「全部見るんですか?」
エイルが聞く。
「売るものならな」
「作った人がちゃんと作ったって言っても?」
「間違えることはある」
「職人でも?」
「職人でもだ」
エイルは自分が最初に留め具を逆につけたことを思い出した。
「じゃあ見る」
「そうしてくれ」
何個か確認していると、ノアが一つを止めた。
「これ、少し暗くないですか?」
職人が比較する。
確かにわずかに暗い。
「よく気づいたな」
中を確認すると、接触部分に小さなずれがあった。
「使えない?」
エイルが聞く。
「今は使える」
職人が答える。
「でも、このまま売るのはよくないな」
修正する箱へ入れる。
ノアはその箱を見ていた。
「面白い?」
エイルが聞く。
「うん」
「失敗なのに?」
「なんで暗くなったか分かったから」
エイルには少し変な答えに聞こえた。
けれどノアは本当に楽しそうだった。
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学校への帰り道。
「ノア」
「何?」
「工房で働きたい?」
ノアはすぐには答えなかった。
「まだ分からない」
「そうなの?」
エイルは意外だった。
あれだけ楽しそうだったから、もう決めたと思っていた。
「魔道具は好きだけど、工房にも色々あるだろ」
「今日のところじゃ駄目?」
「駄目じゃない。でも一個しか見てない」
「そっか」
少し歩く。
「でも、もっとやってみたい」
ノアが言った。
「俺も」
「エイルは何でもそう言うだろ」
「そんなことないよ」
「商店も面白いって言ってた」
「面白かった」
「戦闘も好きだろ」
「うん」
「魔物も」
「うん」
ノアが笑った。
「やっぱり全部じゃん」
エイルも笑った。
その日の実習で同じ照明具を作った。
エイルは術式を形成するところが一番早かった。
ノアはそこではエイルより時間がかかった。
けれど、部品のわずかなずれに気づいたのはノアだった。
長く使ったらどうなるかを気にしたのもノアだった。
二人は同じものを作っていても、見ているところが違った。
エイルは自分で作った小さな照明具を手の中で転がした。
「これ、持って帰っていいのかな」
「説明聞いてなかったの?」
「聞いてたよ」
「学校に提出だよ」
「そうだっけ」
「やっぱり聞いてないじゃん」
二人は工房でもらった荷物を抱えて、学校へ戻った。




