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小話2:似て非なる悪意の形

小話その2は、ラルフの母視点です。

※再びあまり品がない



私はオリヴィア。

国王アウィンの妹であり、かつては騎士団に所属して騎士団長の補佐も行っていたが、今はエリオット・ヴィクトワールの妻として務めている。

また、アダムス王家の血を引く前王の娘のため、本名はオリヴィア・アダムスである。

浮気者で暗君の父を忌み嫌っていたため、父の姓が付くのは非常に不服だった。だからこそ、王位継承権と共にアダムスの姓を捨てて、エリオットと結婚できたのは幸いだ。


兄たちもそれぞれ、父が存命の頃に公爵位を与えられ、アウィン兄様がサッピールス、異母兄ディークがルベウスの姓を受けている。何処の馬の骨ともしれない踊り子の血を引くディークを、ルベウスの姓を授けて国境付近のベリルに遠ざけたことだけは、父にしては英断だったと思う。


何故なら、欲深い母親に似たディークは、長兄よりも先にウェスタ国の厚かましい女シャーロットと勝手に結婚して、王太子だった兄に対して「結婚は良いものだ」だの、「早く伴侶をお決めにならねばお世継ぎも危うい」と大変愚かしい発言をしていた。

どう考えても自分の妻が先に世継ぎを産むと宣言してるようなもので、その場にいた私は、ディークだけは油断ならない男だと改めて思った。私より数時間早く生まれただけのくせに、こんなのを兄と呼ばなければならないのは理不尽極まりない。

まあ、いつまで経っても妃を迎えず、ずっとフローラに想いを寄せていたくせに、年が五つも離れてるからだとか、苦労をさせたくないだのなんだの言って覚悟を決められなかったヘタレのアウィン兄様にも問題はあったが。


今日はというと、王族とその親類の集まりがあり、久々に国王夫妻の可愛い三兄弟に会える。それは嬉しいことだが、同時に会いたくない人間も来ることになる。


「あらぁ、お久しゅうございますヴィクトワール公夫人」

「………お元気そうで何よりです、ルベウス公夫人」


早速、1番会いたくない女が私に話しかけてきた。いくら私に王位継承権がないとはいえ、仮にも王の妹に対し、他国出身かつ異母兄の嫁の分際で自ら話しかけるなど本当に常識知らずで苛立ちを覚える。

このねっとりした高い声と目つきは相変わらず不快だ。ただでさえ翡翠色の髪と目は目立つと言うのに服装や装飾品も華美で、いつかグランディエが言っていたように、派手な魚のようだとしか思えない。

このシャーロットへの軽蔑を隠しながら、私は軽く挨拶だけを済ませてこの女から遠ざかろうとした。


「オリヴィアにシャーロット、久しぶりね!今日は貴女達に会えるのをずっと楽しみにしていたのよ」

「っ!!王妃陛下、お久しゅうございます。本日はこのような場にお招きいただき誠にありがとうございます」

シャーロットから離れようと思っていたが、フローラが声をかけにわざわざ来てくれたので、やはりここにいて良かったと思った。

「今日だけとは言わずに一ヶ月に一回来てくれたら良いのに…オリヴィアと昔みたいにお話したいわ」

「兄上共々ご公務でお忙しいでしょうから、年に数回お招き下さるだけで光栄なことです」

それにしても太陽のように輝く黄金の髪を持ちながら、本人の純粋で柔らかい気質を引き出すような淡いエメラルドグリーンのドレスはフローラにとても似合っている。

王妃であり、私にとっては二つ年下の可愛い義姉のフローラがそこにいるだけで、シャーロットのせいで荒んだ心が晴れていく。

隣にいるシャーロットは何が悔しいのか、フローラからは見えないように歯軋りをしている。見えないようにしたって、嫉妬に塗れた姿は隠せないと言うのに。


「シャーロット、久しぶりね。今日もとても華やかで素敵ね。どんなドレスも着こなせるなんて羨ましいわ」

「っ……あ、ありがとうございます、王妃陛下。適当に選ぶと胸が苦しいので、毎度ドレス選びが本当に大変で困っていますの」


私はわかっている。シャーロットはフローラにマウントを取っているのだと。

「私はアンタより胸が大きいから、能天気に選んでいるようで結局種類が限られているアンタと違って胸元の空いたドレスも着れるのよ」

とでも言いたげな、謙遜の笑顔に見せかけたドヤ顔。

胸など所詮脂肪の塊でしか無く、フローラの愛らしさの前ではそんなものは全て霞む。それに、この厚かましい女の無駄に細い腰と足に見合わず、不自然な谷間のせいで胸が人工的に見えて仕方ない。

マウントを取られたなどと一ミリも思っていない純粋なフローラは、ただ笑顔で話を弾ませるだけだ。そういうところも可愛いが、逆に言えば非常に危なっかしくてたまらない。


「イザベラもこっちでお話ししましょうよ!」

話を弾ませていたかと思ったら、フローラがジルコニア公の妻イザベラに声をかけた。

私達に気づいたイザベラは、相変わらず意図の読みにくい笑顔をしてこちらに近づいてきた。

「王妃陛下、これは皆様お揃いで…とても珍しい組み合わせですね」

「っ!!ジルコニア公夫人、たまたまですよ」

「ねぇイザベラ、今日はグレイだけじゃなくサミュエルも来ているの?」

「はい。一昨年から随分と体調も良くなったので、少しずつですが社交界の場に出させております」

「それは良かった!アレンも喜ぶわ!」

「そう仰っていただいて、本当に息子達には勿体無いお言葉です」

心が見え辛いイザベラとも楽しげに話を弾ませるフローラは、誰もが聖女か女神のように見てもおかしくないだろう。"ジルコニアの毒蛇"と呼ばれるジルコニア公ですら恐れるイザベラを全く警戒しない女性は、余程命知らずで無礼な女を除けば、フローラしかいないだろう。


しばしフローラと楽しく話していたイザベラだったが、話の輪に入らないシャーロットに目を向けた。

「あら、ルベウス公夫人。そのドレスは…」

「我が父がケレス帝国から頂いた絹を送って下さって、それで仕立てていただいたものよ。まあでも、この体型もあって狭い選択肢からドレスを作ることになったのでとても時間がかかりましたわ」

またこの厚かましい女は、マウントを取り始めた。しかもイザベラよりは確実に地位が上ということもあり、フローラの時よりもわかりやすく自慢してきている。

ただ、フローラとは違い、イザベラは褒めずただ話を聞いているだけだ。しかも、いつもの意図の読めない笑顔で。私がイライラしながらその様子を見ていると、黙っていたイザベラが口を開いた。

「たしかにそのドレスは、貴女の良さを引き立てる素晴らしいものですね」

「あらあら、そう言って下さって嬉し」

「特にそのデコルテ辺りの美しさは、まるで()()()のようでとっても素晴らしいですわ。うふふふふ」

「ッ!?!?」


イザベラがシャーロットに対して放った嫌味に、場の空気が凍りつくのを感じた。


フローラと違って絶対わざと言っただろうから、シャーロットは動揺を隠せず、顔を引き攣らせている。

「つ、作り………物…………!?」

「ああ、申し訳ございません。他意はありませんの。私は見て感じたことをついそのまま口にしてしまう性分なので、お気になさらいでくださいまし」

そう謝罪していても、イザベラは全然申し訳なさそうな顔をしていない。むしろ、まだ心の読めない笑顔を貫いている。

イザベラのこういうところが、騎士団でのどんな過酷な訓練にも耐えてきた私でも肝が冷えるぐらい非常に恐ろしいと感じる。

「ッ〜〜〜〜〜!!!もう結構ですわ!息子の様子を見に行きます!!」

思いっきり赤っ恥をかかされたシャーロットは、イザベラを睨みつけてからさっさと逃げていった。

そのままあの厚かましい女がここに帰って来ないことを、本気で神様に願った。


「シャーロット…一体どうしたのかしら?」

「さあ?どうしたんでしょうね?きっと虫の居所が悪かったのでしょう」


突然怒ったと思い込んでいるフローラに、イザベラは笑顔ですっとぼけている。

アンタのせいだろと言いたいが、一応イザベラのおかげで平穏を取り戻せたため、敢えて黙っておこう。


それにしても、よく耳にするあのグレイ・ジルコニアの悪戯ぶりは、恐らくイザベラに似たのかもしれない。

ああいう風に、挑発を間に受けずに冷静に返すか、逆にお上品に煽り返す所は是非とも我が息子には見習ってほしいと、私は今日の出来事で改めて思った。



ラルフの母は、元々カッコいい系として女性人気は凄かったですが、女騎士だった頃から一気に令嬢のファンが増えたという設定。

小話の時点ではグレイは10歳ですが、その年では特に事件は起きないので、また次回から年は経ちます。

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