小話:悪友達の戯れ
前回から2年ぐらい時間が経った頃の、グレイ達が悪ガキぶりを発揮してるだけの話。
※あまり品はない
10歳を迎えてから数日経ったある日、急に声がガラガラして出にくくなったと思ったら、前より声が低くなった。
「それ、本で読んだんだけど成長期の一種で声変わりってやつだよ。グレイもそうだったんだね」
「なんだそういうことか…ていうかウィルもちょっと声変わってきてるな」
「そうそう、こんな変な声じゃしばらく女の子を口説けないからしばらくつまらなくて堪らないよ〜」
「相変わらずだなお前は…」
声がおかしくなったことで、風邪でもこじらせてしまったかと若干不安だったが、宮廷で偶然ウィルと鉢合わせ、相談したらすぐに解決した。
ウィルの方も、俺ほどではないが前より少し低めの声に変わりつつあるらしい。
「まあ、声はもう少し経ったらどうにかなるとして…男にとって1番大切なのはアレらしい」
「アレ??」
珍しく真剣な面持ちをしているウィルに、俺はなんだなんだと耳を傾けた。
小声が聞こえる距離に近づいた俺に、ウィルが囁いた。
「……あそこに毛が生えているか、あとは子作りが出来るようになったか…だよ」
「真面目に聞いた俺がバカだった。俺はそんなもん興味ねぇ」
「待って待って!これは将来的に大事なことなんだよ!特に毛が生えてないといざという時に男としての威厳が出ないから死活問題なんだ」
「死活問題ねぇ…だったら女好きのウィリアム・ハワード君は今の時点で毛が生えてなかったら一生女を口説けないってことか?」
「まあどちらにせよ15を超えるまで子作りは禁止されてるから、今生えてようがなかろうが正直関係ないんだけどね」
「それを先に言えよ。知ってたけどさぁ」
いくらウィルでも、大前提の禁止事項はちゃんと守るらしい。果たしてこいつがそういう倫理観を持っていられるのはいつまでなんだろうか。
「ていうかさ、めんどくせぇって顔で聞いてるってことはもう生えてるんだ?」
「なんでわざわざ教えなきゃならないんだよ…って何してんだ!?ずらして覗こうとすんじゃねぇ!!」
「確かめるだけだから良いじゃん!僕だって野郎のブツなんかわざわざ見たくないからチラッとだけでも!」
「〜〜〜〜っ!!はっ、そんなに言うならテメェのも見せろ!!脳みそと同じでさぞかしつるっつるなんだろうなぁ!」
「うわっ!!僕のは後で見せるからまずはグレイをっ…!!」
アホみたいなやり取りから下着をずらして覗こうとするうちに、段々とじゃれ合いになっていく。
ウィルも中々力が強くて何度も脱げそうになったが、俺はやっとウィルのを掴んでチャンスが訪れた。
「おらっ!!もう離さねぇぞ脳みそペラペラ軽薄野郎!!」
俺が先にウィルのを見てやろう。
自分でも悪い笑顔をしながら、下着をずらして覗こうとした。
「おいうるさいぞ貴様ら!!少しは静かにせんか!!!」
「ッ!?」
良いところだったのに突然脂ぎった野太い声が割り込んできて、俺とウィルは驚きのあまりしばらく硬直した。
誰だ邪魔しやがってと思いながら振り向くと、そこには派手に着飾っているが禿げた頭に小太りのおっさんがいた。俺はこのおっさんを見て、何か既視感を覚えた。
「もしや…御子息の不祥事を示談で無理やり収めた……?」
「無理やりではない!!私の息子は被害者だ!!生意気な小娘に因縁をつけられたこっちがむしろ名誉毀損で訴えてやりたいくらいだったのを示談で穏便に済ませただけだ!!」
このおっさんは、俺が芋虫を肩に投げて追い払ったろくでなし男の父親だ。いやらしい目つきがどことなく似ていたから、まさかとは思ったが本人からペラペラと正体を明かしてくれたおかげで確かめる手間が省けた。
俺がジルコニア家の子供で、ウィルがハワード候の長男と知らないのか、知ってて敢えてなのか、おっさんはやたらと偉そうだ。
俺が呆れ返っていると、黙って横で見ていたウィルが、冷め切った目をして口を開いた。
「あのさぁ、貴方が示談で済ませた相手のご令嬢は息子のせいでとても怖い思いをしたはずだよ?それなのに生意気だの名誉毀損だの喚いて人として恥ずかしくないの?ほんとにこの親にしてあの子ありってやつだね」
ウィルがここまで人を煽って馬鹿にする姿を見るのは初めてだ。ただの女好きではないのが分かるほど、このおっさんに軽蔑の眼差しを向けていた。
「なっ…このガキっ…!!!なんと生意気なっ……!!どこの家の人間だ!?名前を名乗れ!!生意気な小僧共を全員訴えてやる!!」
「ははっ、なんか猿みたいに喚いてんな。にしても、アンタさっきから訴える〜ってキレてる割に生意気しか語彙ねぇのか?自分より立場の弱い令嬢を見下したりこんなガキ共相手に偉そうにしてる割に相応な語彙力も知能も低すぎんだろ。さっき猿って言ったけどさ、その辺の猿の方がよっぽどアンタなんかより賢いから訂正しといてやるよ(笑)」
「なんだとぉっ!?名誉毀損にも程がっ……!!!」
「それにしても奥方が本当にお気の毒だな。こんな器だけじゃなく背も脳みそも視野も小さい男なんかが夫で。名誉毀損で訴えたいのは、アンタと馬鹿息子のせいで風評被害受けてる妻の方だろ」
「グレイの言う通りだよねぇ。政略結婚でもない限り、こんな男の風上にも置けない何もかもがミニマムおじさんなんかと結婚するぐらいなら死んだ方がマシだよ〜(笑)」
俺が一度猿以下と馬鹿にしたら、おっさんは面白いぐらい顔を真っ赤にさせてブチギレた。その姿は大人気なくキレていた芋虫ナンパ野郎との血の繋がりを感じて、最早笑えてくる。
立て続けに煽りまくると、ウィルも段々と軽蔑の眼差しから嘲りのものに変わり、言葉遣いは柔らかいが他人の神経を逆撫でする嘲笑を向けられ、低語彙力野郎はただ怒りで震えるしかできなくなっていた。
「あ、もしかしてまだ心が子供か?下の毛もろくに生えてなくてアレも短小ならこんな何もかも小さい人間になってもしょうがねぇか」
「グレイやめなよ〜、本当のこと言われたらこの人も可哀想でしょ?それにまだ心が子供だって言うんならさ、茶会デビューもまだしてない小さい子達だと思って優しくしてあげなきゃ」
「ああそうだったなぁ、俺としたことがすっかり忘れていた。ボク〜?おうちはどこかなぁ〜?ママのところにかえりまちょうねぇ〜?なんてな(笑)」
こんなガキ共に煽られた上に五歳児未満の子供扱いされ続けたことで、おっさんは声にならない奇声を上げて地団駄を踏んでいる。
大の大人がそんなみっともない振る舞いをして、自分で自分の名誉を下げるだけなのに。
何から何まで"名誉"にご縁のある男だ。
「貴様ら!!覚えておけ!!名前も調べ上げて訴えてやるからな!!!!」
捨て台詞を吐いて逃げて行くのを見届けると、笑いを堪えていたウィルがもう我慢できなくなっていた。
「ぶふっ…!!あはははははっ!!!グレイ何今の言葉遣い…ふふふっ…!!」
「自分でも気色悪いって思いながらやったんだからそれ以上言うなっての」
「はははっ…でもスカッとしたなぁ。訴えるなんて言ってるけど名前がバレたら逆に向こうが土下座するだろうにね。特にグレイの名前を知った時は漏らしちゃうんじゃない?」
あのおっさんも不幸な男だ。自分の子供はクソだし、今日絡んて名誉毀損で訴える相手はガキとは言えハワード候の一人息子とジルコニア家の次男坊だ。
逆に俺たちが恫喝されたと訴えたら、軽くても確実に謹慎処分になる。まあ、俺もウィルも些細なことですぐに訴える程度の低い男みたいにはなりたくはないからやらないが。
「…はは、言えてるな。ま、とりあえずああいう大人にだけはなりたくねぇってことが学べたってことで」
「あんなのになるぐらいなら下の毛なんていらないや」
「おいおい、下の毛が生えてないのは死活問題じゃないなかったのか?」
「もう死活問題じゃないから良いも〜ん」
「じゃあなんだったんだよあの下着の覗き合いは…」
ウィルに呆れながら、俺はこの後今日の騒ぎが伝えられた両親に色々根掘り葉掘り聞かれるなど考えもせず、またいつものように呑気に過ごしたのだった。
同じ時間軸での小話は次回もありますが、グレイ視点ではありません。ルベウス家夫妻アポ無し突撃事件にいたチラッと出てきたあの人です。




