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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第二章 暁の探究者
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第33話 魔法紋の使い手

『魔力障壁!』

 

 通路の奥で魔力が弾けた気配を感じ、エルノーは咄嗟に防御壁を展開した。あたりがオレンジ色の光に照らされ、熱が迫る。炎の魔法を使われたようだ。


『水の壁!』


 一拍遅れてエリアの声と魔力が重なる。間近に迫っていた炎が水を纏った魔力障壁に阻まれ、じゅう、という音を立てる。水が蒸発し、あたりが白い靄に包まれた。まるでサウナのように熱い蒸気が立ち込め、呼吸がし辛くなってくる。

 

『氷結障壁!』

『凍てつく魔湖の底の底!』


 防御壁の温度を下げ、炎が途切れるまで耐える。ちらりと後ろを振り返ると、ヨルンがレジを庇うように抱きしめているのが見えた。

 数秒の後、炎が途絶えた。靄が立ち込め、視界が悪い。エルノーは次の魔法に備え、通路が良く見える位置へと慎重に歩を進めた。


「エリア、下がってていいよ」

「ううん、大丈夫」


 ようやく魔力が体に馴染んできたエリアもエルノーの隣に立った。杖は使い物にならないが、無くとも魔法は使うことはできる。

 じっと通路の奥を睨みつけていると、奥から目つきの悪い男が姿を現した。


「おや、ネズミがゴミ捨て場に入り込んだと聞いて来てみれば、4匹もいたとは。しかも子連れとは元気なことだ」


 少女の小さな悲鳴が響いた。ヨルンの宥める声を背中に、エリアが「どうする?」とそっと小声で囁く。決して弱気になっているわけではなく、殺すか他の方法でどうにかするか、という意味だ。先ほどの炎を見るに、相手も多少は力のある魔法師なのだろう。安全策を取るなら一息に殺してしまうのが確実だが、情報を得るためにはできれば生かしたまま無力化したい。それに、もう人を殺したくない。

 相手が魔物だったら躊躇しないのに、と逡巡していると、怖気づいていると思われたようで男は強気に近づいてきた。


「君たちもそこそこ魔法が使えるようだが、これを見たまえ。これが何かわかるかね? 底辺の魔法師にはなかなかお目にかかれるものでもないからな。教えてやろう。炎の魔法紋だよ。これがあれば短い詠唱ですぐに炎を出すことができるのだ。何か余計なことをしようとしているのなら無駄なことだ。先ほどは上手く耐えたようだが、次は水を出す間も無く焼け死ぬことになるぞ」


 男の手には杖の他に、やや大きめの金属の箱があった。詠唱の長い魔法を補助するための魔法具だ。魔導回路を刻んで作る魔道具と似たようなもので、回路の代わりに魔法紋が刻まれている。おそらく箱の中には魔石も仕込んであるのだろう。魔道具と違うのは使用する魔法師が出力や範囲などを自由に操れるという点だ。

 幸い二人が共鳴魔法の使い手だということは気づかれていないようで、先ほどの水の壁はあらかじめ準備していたものと思っているようだった。男をどうやって無力化するか迷っていると、靄に紛れて物陰に身を潜めていたらしいソルフェンがそっと男の背後に忍び寄っているのが見えた。男は全く気づいておらず、相変わらず勝ち誇った顔をしている。


「しかしレジには困ったものだ。私が来る前にも魔法師が君たちに接触しただろう? あれはどうした? 殺したのか? 精霊魔法の使い手だと聞いていたのだが、毒の調合しかできないとんだ役立たずだったな」

「精霊魔法……?」


 精霊魔法といえばアル・カナーフに伝わる魔法だ。思わず後ろを振り返りそうになるのをぐっとこらえて男を睨みつける。男は後ろの少女がレジだということにはまだ気づいていないようだ。レジは自分の名前が出たことでより一層怯えてしまったようで、聞き取れない言葉を何事か呟いている。エルノーとエリアはレジを隠すように立ちふさがった。


「まあいい。あれはどのみち解雇するとして、君たちはなかなか骨がありそうだからな。誰の差し金で忍び込んだのか正直に話すのであればうちで雇ってやってもいいぞ。一人日給八千イェールでどうだね? 悪い話ではないだろう。後ろの少年も労働力にはなるだろうし、少女は……メイドでもやらせるか。ここで名実共にゴミの仲間入りをするか真っ当に働くか選びたまえ」

「ちょっと安すぎじゃないかなぁ。あたしたちを雇いたいなら最低でも十万イェールは出してもらわなきゃ。そもそもこんなしみったれた遺跡で働くなんてまっぴらごめんだけどね。それに同僚がこんなアホなんて無理無理!」

「なっ……!」


 まさか反抗されるとは思っていなかったのだろう。唖然とした一瞬の隙に、ソルフェンが素早く近寄り男の口に何かを詰め込んだ。続いて手から杖と魔法紋を叩き落とし、隠し持っていた縄で後ろ手に縛りあげる。あまりにも手慣れた流れるような動きに、思わずエルノーとエリアも口を開けて成り行きを見守ってしまった。


「さて、こいつをどうしようか? 殺してほしくなさそうだったからとりあえず無力化しておいたよ」


 ソルフェンは相変わらず爽やかな態度で男を二人の前に転がした。

 

「前に魔法師をどうにかする方法はあるって言ってたの、これ?」

「そうだよ。見たところ力は無さそうだし、口を塞いでしまえばどうにでもなる。本当は喉を潰す方が早いのだけどね」

「うわぁ……」

 

 思ったよりも力業だったことに戦慄しつつ、エルノーは口に手ぬぐいか何かを詰め込まれて呻いている男を見下ろした。

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