第32話 謎の少女と魔道具
少女は、どこか神秘的な雰囲気だった。警戒しているのか困惑しているのか、じっとこちらの様子をうかがっている。
「えーっと、あの人、たぶん敵、だと思うんだけど……」
「なんだって」
ヨルンの言葉に、ソルフェンの視線がより一層鋭くなる。少女は一歩後ずさったものの、逃げ出しはしなかった。
「ちょっと待ってソル兄! 多分今は大丈夫! その子俺と同じでちっちゃくなっちゃったんだと思うんだよ」
「もしかしてあの魔法師の女⁉」
エリアが素っ頓狂な声を上げた。毒を盛られた因縁の相手だ。よくよく見てみると確かに面影があり、服は随分ぶかぶかだ。見た目の年齢は十歳前後、身長は頭一つ分くらい縮んだようだった。
「その場面を見てたわけじゃないけど、状況的にそうだと思う。もう俺たちに攻撃する気はないみたいなんだけど、話しかけても何もしゃべらないんだよなぁ。でもついてくるから良くわかんなくて」
「あの女、レジって呼ばれてなかった? おーい、レジー!」
エリアの呼びかけに、初めて少女が反応した。手招きするとおずおずと近寄ってきて、座るようにジェスチャーするとヨルンの横にちょこんと座った。改めて話しかけてみるも、やはり返事は無い。
「もしかして、言葉を忘れてしまったのかな」
「ヨルンは三歳の姿でもかなり話せていたが……」
「大陸の外から来たのかも。大陸共通語を大人になってから覚えたのであれば、忘れててもおかしくないと思うよ」
「まぁ、そういうことなら一旦置いておこうか。ヨルン、経緯の説明をしてくれ」
憶測で議論をしても仕方がない。改めて皆で膝を突き合わせて座る。どんぐりランプだけでは暗すぎるため、魔法で灯りをつけた。
「アルゴじいちゃんが案内してくれて遺跡まで来た、ってのは知ってる?」
「それは聞いた。鹿だろう? 良くアルゴ爺さんだとわかったな」
「オレも今考えると不思議! あの時は全然疑問に思わなかったんだよな。なぁエリア、なんでじいちゃんは鹿になっちゃったんだ?」
エリアは事のあらましをかいつまんで説明した。あまり言いふらしたくはないが、ここまで知られているのだから仕方がない。後でロータスにも話しておく必要があるだろう。
「なるほど。アルゴ爺さんは森の守護者のような存在になったわけか」
「そんな感じ。そして今姿を現したってことは」
「なにか森に悪影響が出そうなことがこの遺跡で行われていると」
「それで連れてこられちゃったわけかー!」
ソルフェンもヨルンもあっさりと納得してくれた。探究者の仕事をしていると、きっと不思議な(魔法的な)現象にも良く遭遇するのだろう。
「しょうがないからあたしたちだけで遺跡に突入したんだけどね。あの後どうなったの、ヨルン」
「地下に大きな魔道具があって、調べようとしたときにあの人に見つかっちゃったんだけど……。エリアが倒れて、オレもパニックになっちゃってさ。近くにあったボタンをいっぱい押したんだよ。そしたら魔道具が動き出して、光って。……神様みたいな何かを、見た」
神様のような何かに触れられて、気が付いたら元の姿に戻っていた、とヨルンは言った。急に大きくなり服が破れてしまったため、近くに倒れていた研究員風の男の服を拝借したようだ。足のサイズが合わず、靴は諦めたらしい。
「あたしの魔力はその魔道具に吸われたってわけね……」
「見てよこれ」とエリアが差し出した杖を見てみると、先端に嵌められた魔石がすっかりカラになり、ただの綺麗な石と化していた。本当に根こそぎ持っていかれてしまったようだ。
「神様はよくわからないけど、その魔道具はヨルンがちっちゃくなったのと同じだったってことだよね。あの女も巻き込まれたってこと?」
「多分そうだと思う。オレと同じなら魔力が足りなくて苦しいのかも。エリアかエルノー、ちょっと見てやってくれない?」
「じゃあ俺が見てみようか」
まだ本調子ではないエリアに変わって、エルノーはレジの手をとった。状況がわかっていないレジは緊張で体をこわばらせたが、エルノーの手を振りほどいたりはしなかった。
意識を集中し、レジの魔力を探る。少し見ただけでもわかる。魔力が多い。これだけあれば十分魔法師としてやっていけるだろう。さらに注意深く魔法の痕跡を探す。ヨルンと同じであれば何らかの魔法がまだ働いているだろうと思っていたのだが、予想に反して何も見つからなかった。エリアがヨルンを見た時に感じたような、『吸われる』感覚も無い。
「どう?」
「何もない。魔法はもう動いていない。この子はきっと、この姿で『完成』なんじゃないかな」
エルノーとエリアは、別の遺跡の資料を確認した時からいくつかの仮説を立てていた。ここの魔道具も同じだとするならば、あるいは。魔導回路は確認できていないが、今までの情報を総合すると朧気ながら正体が見えてくる。
「わけわかんねえ。なんの魔道具だったんだ?」
「君たちは何か思い当たるものがありそうな顔をしているな。そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
ソルフェンはエルノーとエリアを見つめた。うっすらと笑みを浮かべてはいるが、目の奥は笑っていない。
確信があるわけでもないし、ここで言うべきなのかはわからない。特にヨルンの前では。だがヨルンの身に起こったことを調べるのも依頼のうちだ。エルノーが意を決して口を開こうとしたその時。
通路の奥から魔力が迸るのを感じた。




