第31話 ゴミ捨て場の再会
狭く急な穴を、半ば転がるように降りていく。
先を行くソルフェンが急に止まったため、エルノーはその背中に激突した。
「下に着いた?」
「いや、穴がある。暗くて良く見えないな。明かりを出せないか?」
「ああ、うん」
ただ光を出すだけだというのにやたらと長い呪文を唱え、光の玉を飛ばす。ソルフェンの少し先の足元に穴が開いていて、その下は巨大な空間が広がっているようだった。ソルフェンが止めてくれなければ真っ逆さまに落ちていただろう。
「どうやって降りようか。これも魔法でどうにかできるのかな?」
「できるよ。ちょっと待って」
できるとは言ったものの、エルノーが覚えているコルヌネス呪文の中に浮遊魔法は無い。そのため適当な言葉をでっちあげながら共鳴魔法を使う。
「えーっと『風よ、空気よ。古の理に従い我を浮かせよ』……んー、『我は雲、我は羽、……浮遊』」
やけに短いことに気付かれないといいけど、と思いながらも集中し、二人が浮かび上がりゆっくりと降りていく様を強くイメージする。
イメージの通り体がふわりと軽くなり、無事に穴の底へと着地することに成功した。
穴の底は予想した通りゴミ捨て場のような雰囲気だった。風化が進んでおり形ははっきりせず色もよくわからない何かが積み上がり、山がいくつもできている。まだ形があるものも、手に取った途端砂のように崩れた。
「さて、どうしようか。道は——」
「しっ、誰か来る」
ソルフェンの警告に、慌てて明かりを消し息を潜める。足音は、二つ。一つは重く、一つは軽い。そして両方ともおそらく靴を履いていない。ゴミの山の向こう側に通路があるようで、そちらから向かってきているようだ。
「あれっ、暗くなった。でもこっちにエルノーがいそうなんだよなぁ」
「その声は!」
困惑したような青年の声を聞いて、ソルフェンが飛び出した。
「あ、ソル兄! やっぱりいたんだな! よかった!」
「ヨルン!」
どんぐりランプのうっすらとした明かりに照らされて、金髪にアイスブルーの瞳の青年が立っていた。
「え? ヨルン? ほんとに?」
三歳の愛らしい幼児の変貌ぶりにエルノーは動揺を隠せず、ソルフェンの後ろからそっと覗き見た。確かにソルフェンと良く似ている。身長は兄より低いが、エルノーよりは高い。少し丸顔なのは母親に似たのだろうか。愛嬌のある顔立ちの好青年だった。
「ヨルン、何があったんだ。説明してくれ」
「あ、その前にエルノー! エリアが大変なんだよ! 毒にやられたみたいで!」
「エリア‼」
ヨルンの背でぐったりとしているエリアに駆け寄る。生きてはいるが意識がない。
「ごめん、オレのせいだ。髪飾りと腕輪を貸してくれて、そのせいでエリアが……!」
「毒ってどんなやつかわかる?」
「わかんない。肩のところを斬られて。それで倒れて」
傷口には布が巻かれ、血がにじんでいた。ヨルンが手当てをしたのだろう。出血量はそう多くはないところを見るに、毒で間違いなさそうだ。
——自然毒か、魔法毒か。あるいは、混合。
ざっと全身の様子を探る。魔力が、無い。急激に魔力を失ったショックで意識を失ったのだろうか。
魔力を奪うような毒は魔法毒に他ならない。だが、エリアは魔法毒に耐性がある。ここまで急激に魔力を失うことがあるだろうか。
床に下ろしヨルンに上半身を支えてもらうと、エルノーは腰のベルトから解毒薬を取り出した。エリアの口を無理矢理こじ開け喉の奥へ流し込む。あらかじめエリアの血と魔力を使って作っておいた特別製の魔法対抗解毒薬だ。非常に高価な素材を使う上、精製にひと月もかかるとても手間のかかる薬だが、ありとあらゆる魔法の効果を打ち消し平常の状態へ戻す、いざという時の命綱である。
間髪入れずに青白く光る薬も流し込んだ。星心の火花を使った最高性能の魔力補充薬だ。
不安気に見つめること数秒、エリアは激しく咳込み始めた。慌てて横向きにし、背中をさする。魔法薬なので多少変なところに入ってもそのうち吸収されるだろうが、苦しいことは苦しいのだろう。
しばらくそうしていたが、徐々に落ち着いてきたのかようやく目を開けて悪態を吐き始めた。
「ゲホッ、うぇ……、さい、あく……ッ!」
「よかった。大丈夫?」
「けほっ、だいじょうぶに、みえる?」
「さっきの微動だにしなかった時よりは元気そうだよ」
「マズすぎるしっ、げほっ、体の中バチバチするんだけど!」
「ごめんなエリア。オレ守ってもらってばっかりでさ……」
唐突に頭上から降ってきた知らない男の声に、エリアは反射的に飛びのいた。
「だ、だ、だれ」
「あっ、ごめん! オレ! ヨルンだよ!」
「は? ヨルン? うそでしょ?」
困惑するのも無理はない。エルノーだってまだ何が何やらわかっていないのだ。
「ヨルン、そろそろ何があったのか説明してくれ。それから、あのお嬢さんは誰だ?」
ソルフェンの視線の先に目を向けると、ヨルンたちが来た通路の付近で黒髪の少女が所在なさげに立っていた。




