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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第二章 暁の探究者
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第30話 トトネ村と遺跡

 エルノーとソルフェンは予定よりかなり早い時間にトトネ村へと辿り着いた。

 ケテの町で商工会長ゴルドーの名を出して借りた馬は、駿馬ではないが足腰がしっかりしており山道も難なく進んだ。大所帯だとどうしても歩みが遅くなってしまうが、二人なら速いものだ。特に馬車が無いというのが大きい。

 乗馬はかなり久しぶりになるエルノーだったが、なんとか乗り方を思い出し必死にソルフェンについていった。明日は筋肉痛だろう。

 馬から降りると、どっと疲労が押し寄せてくる。特に腹と脚に力が入らずよろけたところをソルフェンに支えられた。近くの石垣に腰掛けて村を見渡す。石やレンガ、木と漆喰でできた素朴な家が立ち並び、周りには森と畑が広がっている、聞いていたとおりの田舎の村だ。ただしどう見ても村人ではない人間たちが店先で酒を呷っていたり、兵士が巡回をしていたりと、異様な雰囲気が漂っていた。エルノーたちに値踏みするような視線を向けてくるものもいたが、碌な荷物を持っていないとわかると興味を失ったように離れていった。

 

 エリアたちを探すため村の中心部へと脚を向けようとしたとき、「エルノー坊ちゃん!」と呼び止められた。

 

「ロータスさん! 良かった、すぐ合流できて。——エリアとヨルンは?」


 ロータスと一緒にいるはずのエリアとヨルンの姿がなかった。それに、焦ったような顔をしているロータスに嫌な予感が頭をよぎる。

 

 「それが大変なことになってな……。そっちもなぜ二人だけなのか気になるが、とりあえず僕の話を聞いてくれ」


 *

 

「鹿がヨルンを連れていっただって?」


 ロータスの話は予想だにしないものだった。ソルフェンもさすがに弟が心配なようで、眉間にしわを寄せていた。

 

「ああ。僕にはなんのことやらさっぱりだが、エルノー坊ちゃんならわかるから、と。アルゴ爺さんがどうのこうのと言っていたが……」

「色々と事情があって……。その話は後でするよ。とにかくエリアたちを追わないと」


 アルゴのことだ、普通ではないルートを行った可能性もあるが、目的地は遺跡で間違いはないだろう。どうやって合流するかは行ってから考えるほかない。

 

「ならすぐに出発しよう。君たちを待っている間に遺跡を管理している役人とは話をつけておいた。魔導車に積んでいる魔法素材を遺跡まで運ぶようにと、先へ進む許可を取ってあるよ」

「さすがロータスさん!」

 

 こんな事態でもロータスはしっかりと商人の仕事をしていたようだ。相場よりも高い値で売りつけることに成功したようで、儲けた分の金を使ってあれこれ聞き込みをしていたようだった。

 ロータスの魔導車の荷台に乗り込み、遺跡へと向かう。馬は村はずれの畑で作業をしていた村人に預けた。村でたむろしている連中よりかはよほど信用できるだろう。


『我を照らす光よ、我を(かたど)る影よ、

 古の理に従い、我が姿を隠せ。

 光は曲がり、音は散り、気配は夢幻の霧の彼方へと消え失せる。

 我はここに在り、ここに在らざる者。

 不可視の幕(インビジブルヴェール)


 念のため姿を隠す魔法を展開し、エルノーとソルフェンの姿を隠す。


「凄いな。全然見えないよ」

「ある程度力のある魔法師には見破られてしまうと思うから油断は禁物だけどね。それから、見えないってだけで存在はあるから。触られたらバレちゃうから気を付けて」

「ああ、わかった」


 遺跡まではそう遠くはなかった。森の中のため地面はなだらかとはいえないが、ロータスの魔導車であればそう苦労はしなかった。道には盗賊や魔物を警戒してか、兵士が巡回をしていた。

 入口を警備している兵士に許可証を見せ、中に入る。下働きであろう男たちが荷台から魔法素材を運び出すのに紛れてエルノーとソルフェンは遺跡内部に侵入した。ロータスはそのまま外へ出てどこかで隠れて待つ手筈だ。

 遺跡内部は案外綺麗な状態だった。壁は白く、つるりとしている。床もそれほど荒れておらず、塗料のあとがまだくっきりと残っていた。


「ソルフェン、こういう遺跡は見たことある?」

「ああ、白い遺跡はたまに見るよ。ヨルンが小さくなったのもこんな雰囲気の場所だったな」


 人の気配を避けつつ、壁の古代文字を読みながら慎重に進む。エリアたちの手がかりも目的地も不明なため、ひとまず上か下を目指してみようと相談していたところ。


「あれ」


 ——エリアの魔力。


「どうかしたか?」 

「エリアの魔力を、感じた気が……」

 

 あたりを見回してみるが、何もない小部屋だ。魔力を感じたのはほんの一瞬だけで、今はどれだけ集中してみても何もわからなかった。

 気のせいかとも思ったが、なぜだかとても不安な気持ちになる。ソワソワと落ち着かずに壁を触っていると、ソルフェンが「ここじゃないか?」と通気口のような穴を指し示した。


「ここ、どこにつながってるんだろう」

「下に向かっているようだな。ゴミを捨てる用の穴かもしれない」


 ソルフェンはどんぐりランプを取り出し、穴を覗き込んだ。滑り台のように斜め下に向かっているようで、あまり先までは見えない。人も入れる程度の大きさはあるようだが。


「行ってみようか?」

「……やっぱり、行った方がいいよね……」


 暗い穴の中へと落ちていく恐怖はあるが、エリアのことが気になって落ち着かない。嫌な予感がどんどん膨らんで息が苦しくなる。

 震える手で腰のベルトから体力増強薬を何とか掴み、気合を入れて飲み干す。穴の縁に手をかけ乗り越えようとすると、ソルフェンがそっと手を掴んで止めた。


「僕が先に行こう」

「でも」

「君の魔法は強力だが、こういう場所は瞬発力があった方がいい。こう言ってはなんだが、君はちょっとどんくさいところがあるからね」


 相変わらず余裕のある態度で穴に飛び込んだソルフェンを、慌ててエルノーも追いかけた。

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