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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第二章 暁の探究者
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第28話 遺跡へ

「なんでこんなところに」

 

 魔の森の精霊、あるいは魔法師アルゴ。レストの町のすぐそばにいるはずの彼が、なぜかここにいる。よくよく考えてみれば森は繋がっているのだから、森全体が彼の領域(テリトリー)なのであれば別におかしなことではないのだが。

 

「光る鹿⁉ 一体なんだっていうんだ⁉」


 追いついてきたロータスを横目に、エリアは鹿を睨みつけた。鹿は頭によじ登ろうとするヨルンのため、器用に頭を下げている。

 

「ヨルン、神様ってこの鹿のことだったの?」

「ちがうよー。アルゴじいちゃんはかみさまじゃないよ」


 ヨルンはすっかり頭の上に居座り、大きな角を物珍しそうに撫でている。鹿や瘴気の穴の話はしていないにも関わらずアルゴだと見抜いたということは、やはりヨルンは魔力を見ているのだろうか。それも誰の魔力か判別できるほど正確に。「アルゴ爺さんだって?」と困惑するロータスに構わず、エリアは慎重に話を切り出した。


「ねえアルゴさん、とりあえずヨルンを離してもらえないかなぁ。あたしたちに用があって来たんだろうけど、今はエルノーがいないの。もうすぐ合流できると思うから、それから話を聞くからさ」

 

 交渉むなしく鹿はくるりと背を向けると、森に向かって歩きだした。


「ああ、もう! ロータスさんは村へ行って! エルノーたちと合流して鹿についてったって伝えて!」

「あ、ああ、わかった。大丈夫なのか……?」

「なんとかするしかないでしょ! ロータスさんは無理しないでね! 荷物売っちゃってもいいから!」


 元人間とはいえ、そもそも精霊というものは人の思惑には関知しないものなのだ。人間の意識がどれほど残っているかも定かではないし、文句を言っても仕方がないのはわかっているが、思わず愚痴が零れる。

 

「せめてあたしも乗せてくれない⁉ なんで走らなきゃいけないの!」

 

 エリアは腰のベルトから体力増強薬を取り出すと一気に呷り、必死に鹿を追いかけた。


 *


 どれほど走っただろうか。村の方向もわからず、元の道にすら戻れるか不安になってきたころ、急に鹿が立ち止まった。目の前の岩場には亀裂のような隙間が空いており、中に入れそうだ。かなり風化しているが、よく見ると岩の表面になにか模様のようなものが見て取れる。ここも遺跡の一部のようだった。


「アルゴじいちゃん、このあなにかみさまいるの?」

「ここ行くのかぁ……。とりあえずあたしが様子を見てくるから、ヨルンを預かってて貰えたりは……」


 二人が後ろを振り向くと、既に鹿の姿は無かった。


「あーあー……そういう人だったね……うん……」

「じいちゃんどこいっちゃったの?」

「わかんないけど多分そのへんにいるよ。もうちょっと詳しいこと教えてくれたっていいのになぁ」


 エリアは森の奥をじとーっと見つめたが、やがて諦めて腕輪を外し、ヨルンの腕にはめた。三歳児の腕には大きすぎてすぐ外れてしまいそうだが、なんとか服の上につけて落ちないように工夫する。


「ヨルン、これは危ない時に身を守ってくれる腕輪だよ。大事なものだから落とさないようにしてね。それからこれも貸してあげる」


 そう言って髪に留めていた聖銀の枝の髪飾りも外し、ヨルンの髪に留めた。細く短い髪には留めづらく落としてしまう危険もあるが、腕輪と二つつけていればどちらかは発動するだろう。


「ここから先は何があるかわからないから。あたしの後ろにちゃんとついてきてね。あと大きい声でおしゃべりするのもダメ。あたしがちゃんと守るから、びっくりしても走ったりしないで。約束できる?」

「できるよ! エリアにくっついてる!」


 ヨルンは小声でエリアの後ろに回り、服の裾をぎゅっと掴んだ。とても素直な幼児に、エリアは小さく笑った。


 *


 岩の亀裂に潜り込むと、中は案外広かった。ところどころ大きく崩れている場所はあるが、明らかに人工的な通路だ。壁には横にまっすぐ線が引かれ、何か文字が書いてある。


「『出口』、かな? かすれててよく見えないな。もう片方は『病』って書いてあるように見えるなぁ」

「エリアすごーい! てんさい!」

「あはは、ありがと! ヨルンはこういうの読めないの? ソルフェンは結構読めるよね」

「おれはよめなーい! ソルにいがよんでくれるから、いいの」

「遺跡調査するなら読めた方がいいよー! 元に戻ったらお勉強しようね」


 小声で雑談しつつ、瓦礫を乗り越えながらしばらく進んでいくと、分かれ道に行き当たった。下への階段もありどちらに進むか迷っていると、ヨルンが「したにかみさまいるよ!」と言い出した。

 階段を降り、警戒しながらゆっくりと歩く。通路の左右には扉がずらりと並んでおり、それぞれ小部屋へとつながっているようだった。


「ここ! かみさまがいる!」


 ヨルンの示した扉の前に立つ。よくよく観察すると、見たことがあるマークが描いてあった。ソルフェンから渡されている遺跡の資料にあった、危険な魔道具がありそうな部屋のマークだ。


「ここ、入ったら危ないかも」


「そうよ。すぐに引き返しなさい。地元の子、ではなさそうね。そんな小さい子を連れて遺跡荒らし? どこから忍び込んだのか知らないけれど、生活に困って金目の物を探しに来たのなら残念だったわね。ここにはそんなものは無いわよ」


 知らない女の声に驚き、エリアはヨルンをサッと背の後ろに隠した。廊下の向こうには黒髪の、陰気な雰囲気の女が立っていた。

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