第25話 ヨルンのかみさま
早めの夕食を終え、エリアとヨルンは部屋に戻ってひとまずベッドに腰掛けた。
ロータスは情報収集をすると言って表通りの酒場へと出かけていった。明日も早いためあまり酒臭くなって帰ってこられると困るが、旅人が多く集まるコルドーラの酒場は情報の宝庫だ。ロータスならば適当に上手くやるだろう。信じて待つしかない。
お腹がいっぱいになったせいか、ヨルンは既に若干眠そうだ。先ほどからあくびを繰り返している。道中散々魔導車の中で寝たはずなのだが、三歳児の体では移動するだけでもかなりの負担なのだろう。
「ヨルン、なんで遺跡に行きたいか思い出した?」
エリアは改めてヨルンに理由を尋ねてみることにした。わざわざエルノーたちと別行動でここまで来たのはヨルンが行きたい、行かないといけないと主張したからだ。町長たちと一緒に行くことに若干不安があるという理由もあるが……。
「んー……、かみさまがいるから……」
ヨルンは目こすりながら今にも寝そうな声でそう言った。
「神様? それって正教の神様?」
正教はレルネス神聖国を中心として、大陸全土で広く信仰されている宗教だ。多神教であり、レストの町では風の神ピォネフラルが特に信仰を集めている。カーガント領は鉱山を保有するため、おそらく地神ツゲスァウトス信仰があると思うのだが、「遺跡にいる」とはどういうことだろうか。神とはそう簡単に会えるものではないはずだ。そもそもエリアは正教も『神』も信じていない。
ヨルンにもう少し話を聞きたかったが、残念ながらもうベッドに横になり寝息を立てていた。そっと毛布をかけてやり、脇の椅子に腰かける。
ヨルンもソルフェンも、正教を熱心に信仰している様子はなかった。だとするならヨルンが言う『神様』とは、神のように感じられた何か別のモノ――。
「ヨルンは『神様』に会ったことがある……? 遺跡にいる神様……古代文明の何か……。ヨルンが縮んだ遺跡と同じものがここにもいる……?」
エリアが思考の海に沈んでいると、程なくしてロータスが戻ってきた。特に酔っている様子はない。ヨルンとエリアを気にして早めに戻ってきてくれたらしい。
「やあお待たせ。ヨルンはもう寝てしまったか。やはり疲れていたんだね」
「そうみたい。それにしても早かったね。なんか面白い話あった?」
「フフフ、みな酒の一杯でも奢ってやれば簡単に口を開くものだよ。特にボロを着ている労働者のようなやつはね」
ロータスはわざとらしく胡散臭い笑顔でウインクすると、耳打ちするように囁いた。
「なんでも遺跡近くのトトネ村は魔法師様や商人たちで大賑わいらしい。もともとは大した人も住んでいない小さな村だったそうなんだがね。今じゃ簡易の小屋が何棟も建っているんだそうだよ。問題は商人を狙った盗賊団も集まってきているということ。明日の道中が心配だな。それと、魔法師様もロクでもないやつらばかりだって話だ」
領都から治安維持のための領兵も派兵されてきているようなのだが、素行の悪い魔法師には手を焼いているらしい。
「そうだろうね。そんなところに集まってくる魔法師なんて、よっぽど変人か仕事が無いやつか、脛に傷があるやつに決まってるもん」
「そうなのか。魔法師様っていうのはもっと華々しいものだと思っていたんだけどね」
おそらく領主もそういう魔法師を期待して呼び集めたのだろう。世間一般の魔法師のイメージといえば高慢で、金を持っていて、ひとたび魔法を使えばあたり一帯を一人で焦土にするような実力者といった感じだろうか。だがそれは都会で活躍するごく一部のエリートだ。
「あのね、遺跡調査を専門にしてる魔法師って魔法師協会に所属してて高給取りなんだよ。そういう人たちが国にナイショでコソコソ魔法師募集してるようなところに来るわけないでしょ? 専門の人じゃなくたって、ある程度稼げてる魔法師なら来ない。国にバレたら捕まるリスクがあるからね。ってことは集まってくるのは大した能力のないやつか遺跡マニアか表舞台に出られないやつってこと」
「なるほど。ならあまり心配する必要はないってことかな?」
「大体はね」
警戒するべきは『表舞台に出られないやつ』だ。犯罪者か、魔法師協会から追放されたか。そのような者たちの中に実力者がいないとも限らない。
エリアとエルノーも表舞台に出られないのは同じだ。人のことは言えないな、とエリアは思わず自嘲した。
*
一方その頃、エルノーは盛大に吐いていた。




