第24話 宿場町コルドーラ
空が茜色に染まる頃、エリアたちはカーガント領の入口の町、コルドーラに辿り着いた。山あいにあるこの町は決して大きくはないが、街道がいくつか交差する場所にあるため、交通の要所としてそれなりに賑わいをみせている。
「やっぱり魔導車って速いねぇ」
エリアは魔導車の荷台から身を乗り出して呟いた。馬車と違い、魔導車は魔石さえあれば休まず走り続けられる。運転に慣れた者が二人いるというのも大きく、余裕をもって予定地まで来ることができた。
この町には二度ほど来たことがあるというロータスは、おすすめの宿の前に車を止めた。宿場町ということもあり、安宿から少し高級な宿まで数軒が点在しているのだという。今回選んだのは商人向けの中堅の宿だ。部屋はあまり広くはないが、馬車や魔導車を敷地内に停めることができ、夜間も馬番がいるため安心なのだという。
魔導車の荷台から降りたエリアは大きく伸びをした。馬車より揺れが少ないとはいえ、狭い車内で同じ体勢を続けていたため体があちこち悲鳴をあげている。
「うー、疲れた! ヨルンは大丈夫?」
「はらへったー!」
「よし! さっさと宿を決めて飯にしようじゃないか!」
子どもにはつらい距離だろうと思っていたのだが、ヨルンは思ったよりもずっと大人しかった。ソルフェンのことが気になるのだろう、何度も後ろを振り返ったりしていたのだが、それでもやはり遺跡に行きたいという気持ちが大きいようでぐずったりはしなかった。
ロータスが空室を確認しに行っている間、エリアとヨルンは魔導車の番をしながら通りを眺めた。森と山と川に囲まれたコルドーラの町はこぢんまりとしている。狭い土地に石造りの堅牢な建物がひしめきあっていて、開放的なレストの町とは雰囲気がまるで違っていた。また、宿場町であることから住人ではない者が多くみられる。ボロを纏った旅人、少し良い身なりをした商人、そして鉱山へ出稼ぎに行くと思われる体格の良い男たち。
「エリアー、へんなにおいする」
唐突にヨルンがそんなことを言いだした。
「え、あたし⁉ そんなに臭い⁉」
エリアがあわてて服装を確認していると、ヨルンは「ちがうよー、あっちのおうちだよ」と向かい側にある建物を指さした。だがエリアには何のにおいも感じられなかった。何だろうと集中していると、においではない、別なものの気配をかすかに感じた。
――魔力の痕跡。
魔力を使った後のわずかな残滓。すぐに消えてしまうものであるし、エリアやエルノーでも集中しなければ気付けないほど、かすかなものだ。
「変なにおいって魔力のこと? ちょっと残ってるみたい」
「わかんなーい」
ヨルンはもう飽きてしまったようで、荷台の縁に腰掛けて足をぶらぶらさせていた。
*
宿に空きがあったため、魔導車を預けて部屋へ向かう。この宿は一階が食堂になっており、二階と三階が客室になっていた。ロータスは三階の部屋を二つ取ってくれていた。エリアは一人で一部屋、ロータスとヨルンは一緒に寝るらしい。
「おじさん、ヨルンを任せちゃってごめんね。別にあたしは一緒でもよかったんだけどね……」
「ソルフェン坊ちゃんがダメだと言っていたからね。ヨルンは良い子だから問題ないよ。なぁヨルン!」
「おれもひとりでねれる! おじちゃんはあっちでねて!」
「冷たいじゃないかヨルン! 一緒に寝よう!」
逃げようとするヨルンを捕まえて頬ずりするロータスに、ヨルンは「ひげがいたい!」と嫌がりながらも楽しそうだ。じゃれあっているヨルンとロータスを見て、エリアは少しだけ羨ましい気持ちになった。
荷物を置き、一階の食堂へ向かう。宿泊者以外も利用できるそうだが、まだ夕食には少し早い時間ということもあり、客はまばらだった。隅のテーブルに座り、適当に料理を注文する。ヨルンの椅子にはおかみさんがクッションを沢山のせてくれた。
大して待たないうちに次々と料理が運ばれてきた。中でもテーブルの中央にドンと置かれた大きな器は存在感がたっぷりだ。器には豆やキノコや根菜や何かの肉、そのほかよくわからないものの煮込みが入っていた。湯気に乗って香辛料の良い香りがあたりに漂う。これがこの町の名物、『コルドーラ煮込み』だ。
取り皿によそい、一口食べてみる。色々な食材の味が一度に口に入ってきてどれがどれだか良くわからないが、不思議とおいしい。
「おいしいー! けどヨルンは食べられるかな? ちょっとピリッとするよ」
「たべれるよ! からいのだってたべれる、……からい」
意地になって食べようとするヨルンに果実水を飲ませていると、おかみさんが焼き立てのパンを持ってきた。
「あら坊ちゃん、何でも食べられて偉いわねぇ! コルドーラ煮込みもおいしいけど、こっちも味見してちょうだいよ。今日の自信作よ」
「でっかいパンだ! これなあに?」
「お肉と豆を包んだパンよ! 坊ちゃんは途中でお腹いっぱいになっちゃうんじゃないかしら」
「ぜんぶたべるよ! このくらいヨユー!」
「あら、たくましい坊ちゃんね! どうぞごゆっくり!」
おかみさんは「残したら包んであげるわね」とエリアに囁いて厨房に戻っていった。
街道を往く旅人たちが道中食べるために買っていくというこの包み焼きパンは、塩気が効いていてボリュームもあり、案の定半分残すことになった。




