第20話 船倉にあったもの
広場を抜け、港へ向かう。もう昼が近いため、漁師たちの姿はそこまで多くはない。
釣り場への道とは反対の、造船所へ向かって進んでいく。少し広くなっている場所に魔導車を止め、舗装されている道を歩いて立ち入り禁止の看板がかかっている柵を抜ける。その先には事務所のような平屋の建物と、倉庫か作業場であろうか大きな建物が三棟あった。
ひとまず事務所へと顔を出すと、先ほどの造船所責任者、スタヴロス親方が出迎えてくれた。
「早速来てくれて助かる。こっちだ」
よほど困っているのか、慌ただしくドックへと向かう親方の後を小走りでついていく。敷地の一番奥にある、海との境目ギリギリに建っている建物に件の船がいるようだ。
「他の船のメンテもしたいんだが、アイツが邪魔でなぁ。――ほら、これが例の船だ。ちゃちゃっと見てくれ」
巨大な扉の横にある普通サイズの扉を抜けて中に入ると、そこにはかなり大きな船が鎮座していた。
「うわぁ、大きいねぇ」
「遠くから見た時は中型くらいかなと思ったんだけど。近くで見るとでっかいな」
「水に浸かってる部分も露出してるからな。余計に大きく見えるんだろう」
このドックは石積みの土台の上にレールが敷かれていて、奥側は海に向かって傾斜がついていた。船をレールに載せクレーンで引き上げる仕組みになっているようだ。普段見ることが無い船底の様子やびっしりとついているフジツボなどをまじまじと見ていると、親方に急かされた。
ハシゴを登って甲板に降りる。あたりには木箱やロープなどが散乱していた。慌てて逃げた際に散らばってそのままになっているようだ。焦げたような臭いもする。
「燃えたのはどのあたりですか?」
「下の船倉だ。おそらく魔法素材から出火したんだろう。こっちだ」
スタヴロス親方について階段を降りる。中はまだ水浸しだった。灯りは親方の持つ魔導ランプだけのため、かなり暗い。滑って転ばないように慎重に歩く。
船倉には多くの荷物が積まれていた。多くは食糧品や毛織物などの一般的な貿易品のようだ。
荷物のすき間をずんずんと進んでいく。奥が火元のようで、そのあたりの商品はすっかりダメになってしまっていた。
「ここだ。隠し部屋になってたようだが、こうも燃えちまっては意味がねえな」
案内された場所は倉庫の奥の小部屋だった。扉は燃え落ち、枠だけが残っている。中から魔力の気配と奇妙な――ツンとしつつも甘いような刺激臭がした。
「この臭い嫌だねー。多分アレがあるよ」
「スタヴロスさんは下がっていてください。これは吸わない方がいい」
スタヴロス親方から魔導ランプを受け取り、口と鼻を手ぬぐいで覆って小部屋に入った。あたりにはキラキラと輝く緑色の小さなかけらといくつかの鉱物、そして炭化した何かや割れた瓶などが落ちていた。
エリアは緑のかけらを拾い上げ、ランプにかざした。よく見ると小さなヒビが無数に入っている。少し指に力を入れると、一瞬光を放ち、粉々に砕け散った。
「あちち。フォス化アジライト結晶だねぇ。火事の原因はこれかぁ」
「クッションが足りなかったかな。もともと運ぶのは難しい素材だからなぁ。指大丈夫?」
「ちっちゃい欠片だから平気!」
主に魔導兵器に活用されるフォス化アジライト結晶は衝撃に極端に弱く、砕ける際に熱を発することで知られている危険物だ。もちろん禁制品である。
続いて周りを見渡すと、燃えさしの中にまだ形を保っている葉が見えた。ギザギザした特徴的な形に白い斑がある葉は良く見覚えがある。
「うわ……マダラオオケシだ。最悪」
「この臭い、そうかなーとおもったけど、やっぱりあったね」
魔法麻薬の原料として知られるマダラオオケシは熱を加えると独特な刺激臭を発する。可燃性が高いため、余計に燃え広がってしまったのだろう。魔力をかけて精製していないものはそれほど麻薬としての効果は高くないが、それでも吸いすぎれば幻覚などを引き起こす禁制品だ。ほとんどの国では栽培が禁じられている植物である。
他には何かないかと床に散らばっていた鉱物たちを集める。それらは魔石を補助する役割で魔道具に組み込まれたりする、魔力伝導率の高い鉱物だった。これらは特に規制はないが、一般人がお目にかかることはほぼ無いだろう。魔法師に渡すために運んできたのは確実だった。
「どうする? これ……」
「あまり表には出したくないけど報告しないわけにはいかないよな……」
鉱物などまだ使えるものは念のため持ってきていた魔力を通さない布に収め、親方に報告を済ませる。砕け散ったフォス化アジライト結晶やマダラオオケシの燃えカスを一般人に掃除させるのは危険があるため、仕方なく二人で掃除をすることになった。
「こういう作業してると昔を思い出ちゃってやだなー」
「仕方ない。報酬が貰えるだけ良い環境だと思うよ」
塔で暮らしていた頃はこういった危険物の掃除などの雑用を散々させられたものだ。気は進まないがこういった作業も魔法師の役目である。この町には他の魔法師がいないのだから二人がやるしかないのだ。
「アルゴさんだったら絶対断ってたと思う」
やりたい仕事しかやらなかったという気難しい先輩魔法師を思い出し、二人は思わず笑顔になった。
町長がレプティス魔法店を訪れたのはその八日後のことだった。




