第18話 おさかなパーティー
「うーん、静かだなぁ」
エリアは久しぶりに誰もいない家で大きく伸びをした。賑やかなのは嫌いではないが、一人で静かに考え事をする時間も大切だ。店は一応開けているものの大抵客は来ない。エリアは溜めている課題――古代遺跡の資料の解読に取り掛かることにした。
机に資料とメモ用紙を広げる。古代魔導語の辞書があればよかったのだが、残念ながら持ってくることは出来なかったため記憶との勝負である。もっとも現代の魔導語とも通じる部分が多少あるため、ひらめき次第では結構読めるのではないかと期待して解読にとりかかった。
「えーとここはソルフェンが解読した古代語かな。気力、傷、ね。こっちはところどころ穴が開いてるなぁ。目……口、いや喉、かな? 心……。んん……既に難し……」
普通の古代語なら読めるだろうと高を括っていたのだが、どうにも特殊な用語が混ざっているようでなかなか捗らない。ソルフェンも全ては読めなかったようで、注釈のついていない部分も多くあった。例の遺跡は専門的な研究をしていた施設だったのだろうか。
ウンウン唸りながらもなんとか知識を総動員して解読を進める。
「治す、縫う……病。病? もしかして医療施設かな?」
それに気づいてから前の方を読み直してみると、体の部位に関する単語が多く見られた。読めなかった部分は知らない臓器か治療法の名前だろうか。現代の治療は魔法薬や自然薬に頼るところが大きいが、古代では部位や症状ごとにたくさんの魔道具を使い分けていたらしい。
おそらく古代でも専門性の高い分野であろうことを果たして自分が解読できるのだろうかと、エリアは天井を見上げてため息を吐いた。
*
いよいよ日差しが強くなってきたため、今日の釣りは終わりにすることにした。休憩のあと復帰したソルフェンは一尾釣り上げていたが、エルノーは全く釣れず終いだった。
「ウォルトくん、何尾釣れた?」
「小さいのが六尾ですね。もう少し出来るところを見せたかったのですが」
「じゅうぶん凄いよ。俺は全然駄目だったから」
「ヨルンくんの釣果を見てしまうととても自慢できる数ではありませんよ……」
ヨルンはあの後もどんどん釣り続け、バケツから溢れる程の釣果を上げていた。ミレアスがつきっきりで補助していたとはいえ、ここまで釣れるのはみな想定外だった。
「凄いねヨルン。今日はお魚パーティーだね」
「パーティーする! ぜんぶたべる!」
「全部は多すぎるからお土産に持って帰ろう。エリアに見せたらきっとびっくりするよ」
素人たちの遊びの釣りだ、エリアも期待していないに違いない。
「ミレアス、ヨルンの面倒を見てくれてありがとう。疲れただろう」
「素直な子だから大丈夫だよ。それにしても凄かったな。魚の位置がわかるみたいでね。次々釣り上げていくんだ」
ちょっと恐怖すら感じるよ、とミレアスは肩をすくめた。
「へえ。ヨルン、魚が見えるのか?」
「ぴかぴかしてるからわかるよー!」
「ぴかぴか?」
冗談のつもりで聞いたソルフェンだったが、思わぬ答えが返ってきて目を丸くした。だがエルノーには思い当たることがあった。
「それってもしかして――」
バケツの魚へと意識を集中させる。軽く魔力を放つと呼応するように魚からわずかな魔力の反射があった。
「ウォルトくん、魚のワタ取ってくれないかな。どれでもいいから」
「構いませんが。普通に出してしまっていいですか?」
「うん。ちょっと気になることがあって」
この後料理するつもりでナイフを持参していたウォルトは手際よく魚の腹を開きワタを取り出した。
「あ、ぴかぴか!」
「やっぱりあった」
魚の腹の中にはクズ魔石が入っていた。試しに他の魚もいくつか開いたみたが、ことごとくクズ魔石が出てきた。ヨルンが反応したのはこれだろう。エルノーでもよほど意識しないと気付かない程度の弱い魔力だ。
「ヨルンってもしかして物凄く魔力感知能力が高いんじゃない?」
「確かに良く気付く方ではあったがここまでではなかったような。言わなかっただけで実はいつも光って見えていたんだろうか」
例の遺跡でヨルンは何かを見たのだろうか。手掛かりになるかもしれないとエルノーは心に留めた。
*
「パーティーしよ! おさかなパーティー!」
「そうしようか。ヨルンも手伝ってくれるかな」
「うん!」
「じゃあ枝を拾いに行こう。下に落ちている細いやつだよ」
待ちきれなくなったヨルンに急かされ、桟橋の近くの開けたスペースまで移動する。誰が設置したのか石積みのかまどがあった。釣り人たちが自由に使う共有のかまどなのだそうだ。
ミレアスとヨルンが薪を拾いに行っている間に魚の下ごしらえをする。ウォルトとソルフェンが手際よく魚を捌くのを横目に、エルノーは網や皿の準備をする。
ミレアスたちが集めてきた枝と薪を組み、ウォルトは火を起こそうと荷物を漁ったのだが。
「しまった。魔導着火器を忘れた」
「マッチなら持っているよ」
ソルフェンは懐から取り出したマッチでサッと火をつけた。
「マッチですか。意外とアナログなんですね。旅をしているならライターの方が楽そうですが」
「ライターは魔力の多い場所だと不安定になるから、案外マッチの方が便利なんだよ。風には弱いけどね」
無事に火が点き、網を乗せて魚を焼く。次第にじゅうじゅうと音がしはじめ、魚が焼ける良い香りがあたりに広がった。魚の種類は様々だが、どれも脂がのっていて焼き魚向きだ。
焼けたものから皆で分けながら少しずつ食べる。味付けは塩だけだが、自分たちで釣った魚はいつもよりももっとおいしい気がした。
「おいしいね。外だからそういう気分になるのかな」
「今度はもっとちゃんとエリアさんを誘ってきてくださいよ。凝った料理もできるように準備しますから」
「うん。おいしいもの好きだから、ご飯のところを強調したら来るかも」
青空の元で友達と料理をし、談笑しながら食べる。当たり前のように次回の話が出ることが嬉しくて、エルノーは片づけが終わってもずっとニコニコしていた。




