第12話 新たな同居人
翌日、二人はゴルドーの家を訪ねた。大きくて立派な屋敷だ。門構えからでも裕福な商家だということがわかる。使用人に要件を告げ、ソルフェンを呼び出してもらう。
「君たちの家に下宿?」
昨日二人で話し合って決めたことを伝えると、ソルフェンは心底驚いたように目を丸くした。
エリアの提案はとても大胆なものだった。家に兄弟を住まわせようというのだ。ソルフェンはどうにも考えていることが分かりづらい男だが、身内への情はありそうだった。ならば裏切れないほど踏み込んで『身内』になってしまおうというのだ。かなりリスクはあるが、エルノーもヤケになって了承してしまった。
「うん、部屋いっぱい余ってるしどう? どうせなら住んじゃった方がヨルンくんも楽だろうし。ゴルドーさんちと違ってお手伝いさんなんかはいないから不便だろうけど……」
「いや、ヨルンのことを考えたらとてもありがたいことだよ。旅暮らしをしていた身だから自分のことは自分でできるしね」
無料というわけにはいかないので家賃は少し請求するつもりだが、そう悪い条件ではないはずだ。だがソルフェンはどうにも煮え切らない様子だった。
「ただ……いいのかな? 年頃のお嬢さんの家に上がり込んでしまって。エリアさんがいいならいいんだが……」
「あー……そういう心配? 何かする気なの?」
「なにかあったら二人分の魔法が飛んでくると思ってもらえればいいですよ」
「とんでもない! 二人を敵に回すような真似はしないよ!」
ソルフェンは慌てて手を振って否定した。
玄関先でにぎやかにやっていると、奥からヨルンがとてとてと走ってきた。
「ソルにいー、おしゃべりしてるの?」
「ヨルン、魔法師様のおうちに引っ越す気はあるか?」
そっと抱き上げ簡単に説明すると、ヨルンは目を輝かせた。
「エリアとエルノーのおうちにすむの!? やったー! あそぼ!」
「――ということだからしばらく厄介になることにするよ」
かくして森のそばのちょっと立派な屋敷には、幼児のにぎやかな声が響くようになるのだった。
*
「こんな広い部屋を使っていいのか?」
「うん、二人で一部屋だし、このくらいはあった方がいいでしょ」
兄弟の部屋は二階の西側の空き部屋に決まった。家の真ん中付近に階段とミニキッチンがあり、東側はエリアとエルノーの部屋があるため、そちら側にはいかないようにとの配慮だ。早速ヨルンは歓声を上げて何もない部屋の中を走り回り始めた。
ベッドはレスト木材店に依頼してあるため、今日中には届けてくれるはずだ。旅をしていたというだけあり、兄弟の荷物はとても少ない。引っ越しはあっさりと終わった。
「少し西日がきついかもしれないです。すみません」
「何か布を張っておくから問題ないよ。――ああそれと、もっと軽く話してくれて構わないよ。名前も呼び捨てでいい。君が家主なんだからね」
「あ、うん」
エルノーは「よろしく」と手を差し出してきたソルフェンとぎこちなく握手した。
「でも急に引っ越しちゃってゴルドーさんと奥さん残念がってないかな。悪いことしちゃった」
「いや、父も母もヨルンの状態にかなり戸惑っていてね、君たちの近くにいる方が安心すると思うから気にしなくていい」
「そう? でも今度あたしからもお詫びしておこうかな」
エリアはそこが唯一気になっていたのだが、確かに大人になった息子が幼児になっていたらどうしたらいいかわからなくなるかもしれない。世話になっている夫妻のためにも解決してあげたいなぁと思うエリアだった。
早速家の中を案内していく。
「ここがキッチンね! 好きに使っていいよ。こっちの部屋を食料庫にしてるの。保冷箱もあるから自由にして」
「こっちの扉は裏口に続く階段になってて、壁面は物置にしてるんだけど……」
「ぐるぐるかいだんだー!」
「ヨルンは危ないから一人で入ったらダメだぞ。階段から落ちたら大変だ」
「ここも一応鍵かけた方がよかったかな」
「ひとりではいっちゃだめ! だいじょうぶ!」
元は大人だったためか、ヨルンは他の三歳児と比べてかなり聞き分けが良い。入ってほしくない部屋にはドアノブにリボンを結んであるため、ちゃんと見分けて入らないでいてくれるだろう。
「トイレとお風呂は一階だよ!」
「下は色々大事なものもあるから、あまりウロウロしないでほしいかな。サロンで遊ぶのはいいけど」
「仕事の邪魔をしてはいけないからね、騒がないように気をつけよう。ヨルン、わかったか?」
「うん! わかった!」
魔法関係の大事なものが置いてある絶対に入ってほしくない場所には、魔力に反応する鍵をしっかりとかけてある。ソルフェンが魔法を使えないというのが本当であれば、突破されることはないだろう。信じはするが、備えを怠りはしない。
庭も井戸と畑の周りにロープを張り、この中には入らないように伝える。外遊びをするにしても空いているスペースは結構あるため、問題ないだろう。
「大体こんなところかな。あと必要なものはある?」
「いや、じゅうぶんだ。あとは町に出て少し買い出しをしてくることにしよう。そろそろ隊商が行ってしまうだろうし、ついでに挨拶してこようかな」
「「隊商!」」
エリアとエルノーの声がきれいに重なる。魔法素材を見ようと思っていたことをすっかり忘れていたのだ。
「魔法素材か。確かいくつか積んでいたはずだ。隊長に話を通そうか?」
「知り合いなの?」
聞けば、ソルフェンとヨルンは隊商と一緒に旅をしてきたのだという。同じタイミングで現れたのはそういうことだったようだ。
「ヨルンの面倒を見ながらを長距離を移動するのは結構大変でね。あの隊にはヨルンと同い年くらいの子どもや子守りに慣れてる女性もいるから、随分と助かった」
皆知り合いだというソルフェンがいれば交渉がスムーズにいくかもしれない。翌日は四人で隊商の市まで行くことに決めた。




