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双子魔法師、家を買う  作者: こむぎそば
第二章 暁の探究者
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第11話 慎重と大胆

 エリアはどんぐりランプをたくさん並べた棚へヨルンを案内した。好きなものを選んでもらおうと、あらかじめ倉庫に仕舞っていた分も全部出して並べてある。踏み台を持ってきてヨルンが見えるように設置した。


「ヨルン、どれにするんだ? 好きなものを選んでいいぞ」

「わあー、いっぱい!」


 ヨルンはたくさんのどんぐりを前に目を輝かせた。ホタルホオズキの実は形や大きさが様々で、全部見た目が違う。エリアがその場のノリで着色したものもあり、スイッチを入れると青や黄色や紫など様々な色に光った。

 ヨルンはあれこれ手に取って光らせ、「ちがーう」と言いながら戻していたが、夕焼け色に光るどんぐりを手に持つと「これ! これ!」とソルフェンに見せた。ぽってりとしており、少し潰れたような形状が可愛い個体だ。どれも性能は同じなのだが、とても温かみを感じる色と形だった。


「一つはそれにしよう。もう一つか二つ選んでいいぞ」


 魔石の魔力が切れた時のために予備をいくつか買う予定だったため、選ばせようとしたのだが。


「えーっとね、これ! ソルにいはこれ!」


 またしばらく悩んでいたヨルンだったが、青空色の、先がシュッっと細くなっているものを選ぶと、ソルフェンに差し出した。


「僕じゃなくてヨルンのものを選ぶんだよ。一つじゃ足りないだろう?」

「これソルにいの! ソルにいももつのー!」

「ああ、わかったよ。必要になるまで僕が持っておく。それでいいか?」


 癇癪を起しかけたヨルンを抱き上げてなだめる。ソルフェンがどんぐりを受け取ったため、気は収まったようだった。


「その二つお買い上げでいいかな?」

「うん、ほらヨルン、エリアさんに渡して」

「これおれのだよ!」


 よほど気に入ったのか夕焼けどんぐりをぎゅっと抱えて離さないヨルンの前に、エリアはカラフルな飾り紐をゆらゆらと垂らした。


「そのままだと持ちにくいでしょ? 紐付けてあげるからちょっと貸してほしいな! 何色がいい?」

「うーんと、みどり!」


 ヨルンが選んだのは渋めの緑色だった。真鍮の笠の穴に通して結ぶと、どんぐりというよりは山トマトのようだ。ひとまず肩掛けできる長さにして渡すと、ヨルンはご機嫌にランプを点けたり消したりして遊び始めた。


「ソルフェンさんはどうする?」

「ソルにいはねー、しろがいいよ!」

「そうか? じゃあそれにするよ」


 ソルフェンのどんぐりも受け取って適当な長さに紐を結ぶ。あとで自分で使いやすいように結び直すだろう。

 どんぐりの代金を払い、親子のような兄弟は仲良く帰っていった。姿が見えなくなると、双子はホット息を吐いた。


「色々言いたいことはあるんだけど、まずは共有だな」

「お茶にしようよー。一旦お店閉める!」


 『営業中』の札を裏返して鍵を閉め、エルノー特製のハーブティーを淹れる。華やかな香りがふわりと広がり、一口飲むとまだ少し緊張した体が緩んでいくようだ。

 二人は聞いた話や感じたことを話した。


「呪い、ねぇ。十中八九魔法なんだろうけど」

「でも大昔の、それも対象を指定しない魔法で、人を子どもにするなんてことができるんだろうか」


 もしエルノーが同じようなことを起こすのなら、まず対象の子どもの頃の絵姿をどうにかして入手し、慎重に体を作り替えていくことになるだろう。古代遺跡にそんな器用な真似ができるとは思えない。考え方を変える必要がある。


「ソルフェンさんがヨルンくんの昔の姿だと思い込んでるだけで、本当は全然違うとか……」

「こわーい! そもそも本当にヨルンくんなのか怪しくなってくるよー。本物だと思いたいけど」


 急におぞましい話になり身震いする。


「そもそも不思議なんだけど、呪いにかかった他の人は変死体になって滝つぼに流れてくるんでしょ? ヨルンくんのケースとは全く違うと思うんだけど」

「噂されている呪いとは別物、って可能性はあるね」

「それにヨルンくんに魔力を吸収されたこと」

「今も魔法が動き続けている?」


 難しい顔をして考えてみても答えは出ない。ひとまずソルフェンが置いていった資料をあたるしかないだろう。


「古代文字はソルフェンさんも結構読めるみたいで、だいたい訳がついてる。問題は古代魔導文字だね」

「かすれたり崩れてるのをそのまま写したのかな。読めそうで読めないところもあるなぁ」

「手分けしてやるしかないね。エリアは後ろ半分よろしく」

「うわー、久しぶりだから読めるか心配! あとで答え合わせしてね!」


 口ぶりとは裏腹に、エリアの表情は明るい。こういった『謎解き』のような作業は苦労も多いが、解けた時の解放感は嫌いではなかった。


「さて、残る問題は」

「あの二人が遊びに来るってことだね」


 エルノーの表情は暗い。人見知りというのもあるが、警戒しているのはそれだけではなかった。


「エルノーは、心配?」

「そりゃあ、そうだよ。あの人は探究者(シーカー)だから」


 探究者。情報を集め、売り、金を得ている者たち。今まで出会った探究者はみな情報に貪欲で、隙あらば面白い話はないかと探りを入れてきた。王宮にいた頃は身分を盾に逃れることができたが、今は口八丁手八丁で丸め込まれてしまうのではないかと心配している。何しろ探究者は切れ者が多いのだ。

 それにわざわざヨルンの前で家に遊びに来たいと言った。喜ぶヨルンの様子を見せて断り辛くする作戦だったのではないかと疑ってしまう。


「あたし、思うんだけど」


 いつの間にか緊張で強張っていたエルノーの手に、エリアがそっと触れる。


「人を警戒して、拒絶して、それで疲れ果てて。それって昔と一緒じゃないかな。せっかくレストに住んでるんだもん。もっとレストの人みたいに素直に人を信じてみてもいいんじゃないかなって思うんだ」


 穏やかに微笑んでいたエリアは、急ににぱっと笑って元気に言った。


「それで裏切られたらその時はその時どうにかしたらいいんじゃない? なんなら魔法でぶっとばしてもいいし! だってあたしたちは――」

「強い、だろ? 物騒だなぁ」

「いいんだよ。姫様がそう言ってたんだから!」


 エリアが時々言うこの言葉、エルノーは直接聞いたわけではないが、エリアにとってはお守りのように大事なものであるらしい。確かに自分たちは上位の魔法師であるという自信はあるし、なんとなくどうにかなるような気がしてくる。


「ま、それもそうか。エリアと一緒にいれば負ける気はしないし」

「そうそう! もっと気楽にいこうよ!」


 ようやく少し力を抜いたエルノーに、エリアはイタズラっぽくニヤッと笑った。


「なんならもっと踏み込んじゃう?」

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