第13話 隊長のとっておき
「どうかな。口に合うといいんだが」
「おいしい! ソルフェンって何でもできるんだねぇ。ちょっと悔しい」
何とソルフェンは料理上手だった。世話になるのだからできる家事はやるとの申し出があったため、朝ごはんの手伝いをお願いしたのだが。
「うん、明らかに俺たちより上手い。慣れてる人の料理だ」
「褒めてもらえるのはありがたいが、あくまで旅先での料理だからなぁ。君たちは器用だからすぐに僕よりも上手になると思うよ」
ボロボロと食べ物をこぼすヨルンの顔を拭きながらソルフェンはさらりと言い放った。すっかり父親業が板についている。
ソルフェンはそう言うものの、調味料の棚とハーブを見て計量もせずにスープの味を決めてしまうのは才能ではないだろうか。最近は双子も随分と料理が上達してきたと思っていたが、まざまざとレベルの違いを見せつけられてしまった。しかも調理中少し目を離した隙に、卵と余った野菜であっという間にパンに挟む具を作り、片づけまでこなしてしまうという有様である。
「エリアのごはんおいしいよー?」
「ヨルンは優しいねぇ! いいこいいこ!」
エリアは気遣いのできる三歳児の頭をぐりぐりとなで回した。
*
「隊長殿はいるかな?」
「あら、ソルフェンじゃないの! 隊長ー? どこ行ったのかしらあのオッサン」
「おう、ソル! もう来ねえかと思ったぞ。明日には出発するからな! ヨルンも元気でな!」
「おいちゃんー! いっちゃうの……?」
昼過ぎに隊商のもとを訪れると、親子のような兄弟はあっという間に商人たちに囲まれた。数か月一緒に旅をしたというだけあり、すっかり仲間のようになったらしい。小さな子どもたちも出てきてヨルンとの別れを惜しんでいた。最もこういう別れは旅に付きもののようで、案外あっさりしていたが。
エルノーとエリアが後ろで小さくなっていると、奥からのっそりと大柄の男性が姿を現した。えんじ色の光沢のある生地に金の刺繍が施されたジャケット、ボタンも金で見るからに身なりが良い。おそらくこの男が隊長だろう。
「ソルフェン、数日ぶりだな。また俺たちと行きたいのか? お前は目がいいからな。歓迎するぞ」
「いいや、そういうわけじゃない。お客様を連れてきたんだ」
ソルフェンはそう言うと、振り返って手招きした。
「わが町を誇る魔法師様だ。丁重にもてなしてくれよ」
*
「ふーむ、魔法素材か。うーむ……」
一回り立派なテントに案内され訪問の要件を告げると、ザルガス隊長はほとほと困り果てた様子で顎を撫でながらうなり始めた。
「前に寄った町で色々と仕入れていただろう。あれはまだあるんじゃないか?」
「お前、よく見ているな……。うむ、確かにあるがこの先で売る予定があってな。――いや、しかしレストに魔法師様がいらっしゃるとわかっていればもっと仕入れてきたんですがね。前に来た時はじいさんしかおりませんでしたので。魔法素材には興味がないと言っていたものですから準備不足で申し訳ない! せっかく知り合ったのですからほんの少ししかありませんけれども何か融通させていただければ! どういったものをお探しですかな?」
多少余分に仕入れているものでもあるのか、新たな顧客を獲得する方針に決めたらしい。途端に流れるようにしゃべりだした隊長に圧倒されつつも、エルノーは口を開いた。
「珍しいものだといいですね。種類は問いません。状態が良ければ値段も気にしません」
「なるほど。ではいくつかお持ちしましょう」
隊長はそう言うとテントを出て行った。
「エリア、静かだな。お茶が口に合わなかったか?」
ソルフェンはずっと無口なエリアの様子が気になっていたらしい。顔を覗き込んできた。
「あたしこういう話は苦手だからエルノーに任せることにしてるの。ヨルンも随分静かだね」
「おれもねー、にがて!」
「君たちってなんか似てるよね」
反応が同じ十九歳と三歳にエルノーが苦笑していると、隊長が荷物を持った人を連れて戻ってきた。机に品物を並べていく。品質も値段もそれなりで悪くはなかったが、ほとんどはロータスに頼めば入手できるものだったため購入は見送ることにした。中には火竜の鱗もあり、とっておきの品として出してきたようだったのだが、既に在庫は十分ある。ロータスが急いで帰ってきたのは正解だったようだ。
何も買わないのも申し訳ないため消費量の多そうな素材を買おうと見ていると、隊長も焦ったのか懐から小さな箱を取り出した。とっておきのとっておきだったのだろう。エルノーの反応次第では出す気自体無かったのかもしれない。
「――魔法師様は魔法薬をお作りになるとか。あまり役には立たないものかもしれませんが……」
そっと蓋を開ける。
中には小さな黒い玉が入っていた。
「これは」
中を見て息をのんだエルノーとエリアに、隊長は笑みを浮かべた。
「お分かりになりますか。さすがでございます。これはかなり珍しい品かと思いますが……」
「……買いましょう」
恭しく礼をする隊長のもとをおいとまし、人足に買った品物を魔導車まで運んでもらう。小箱はエルノーの手の中にあった。人足が去るとソルフェンは難しそうな顔をして小声でささやいた。
「さっきのアレはなんだったのか聞いてもいいかな」
ポンと金貨を出したことを心配しているらしい。教えるか迷ったエルノーだったが、ソルフェンの紹介のおかげで買えたということもあり、少しだけ教えることにした。
「これは、毒だよ」
まだ何か聞こうとしたソルフェンを、明るい女性の声が呼び止めた。




